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特集「男前」

2014年8月5日

特集「男前」 ジェシカ・チャスティン(上) MAMA (2013年 ホラー映画)

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監督 アンディ・ムスキエティ
出演 ジェシカ・チャスティン 

ヒロインの問題解決能力 

 ジェシカ・チャスティンって地味っぽいけど、伸びしろのある女優だと思うな。「ゼロ・ダーク・サーティ」が絶品だったせいもある。同作のヒロインはクールでシリアスだったけど、その前の「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」のジェシカ・チャスティンの軽妙さを知っていて、ガラリ変わった重い役をこなす彼女をみたら(この女優、みるみる力をつけていくのでは)と予感した映画ファンは少なくないと思う。彼女は「マダカスカル3」の豹のジアの声もやるなど、あの真面目くさった顔で案外コミカルなものに強いです。今のところどっちかというとダークサイトを演じる役が多いですけどね。本作もそのひとつ。ホラーですが、製作総指揮がギレルモ・デル・トロです。彼の「子供モノ」の縦横無礙というか、千変万化する叙情の綾というか、しかもそこにある人間の魂の「冥さ」は、ディズニーのハッピーな世界とは異質だ▼アナベル(ジェシカ・チャスティン)は恋人ルーカスの行方不明になっていた幼い姪ふたり、ヴィクトリアとリリーが5年ぶりに生存を確認されたと聞く。彼女はパンクな元ロッカーだ。今は飲み屋でギターを弾く。ルーカスについて姪たちにあうと、姉ヴィクトリアはかろうじて言語の記憶はあるが、妹リリーはまったく人間社会から隔離された野生児である。彼女らは森の奥の一軒家で獣のように暮らしていた、食べ物は、発見者の保安官によると小屋のなかに山盛りになったサクランボのタネがありそれを食べていたらしい。でもだれがこれを。いい忘れたが姉妹は都会育ちである。投資仲介会社の経営者ジェフリーは精神を病んで妻を殺し、娘二人をつれて山小屋に来て、そこで娘たちを殺そうとしたが何者かに襲われ殺害された、床に座り込んで怯える姉妹に、暗闇からだれかがサクランボを投げてくれた、という前段がある▼ルーカスはジェフリーの弟だ。兄の忘れ形見を可愛がり、人間社会に適応させようと精神科医ドレイファス博士に相談する。博士は医学的な関心から住宅を提供し、そこでジェフリーとアナベル、姉妹ふたりは同居することになる。博士は定期的に訪問し根気よく話し相手になり、姉妹らが「ママ」とよぶ女性と今もこの家で交信していることをつきとめる。アナベルにとって子供ふたりは手のかかるお荷物といったところだ。子供たちもなつかない。アナベルは機嫌をとるふうもなく、ただ食事だけはちゃんと食べさせなければと、みるからにおいしくなさそうな料理を作っている。アナベルが子供たちを邪険にすると家族関係が壊れるとジェフリーがいうのだが、アナベルは「わたしが壊す前に壊れているわ」としゃあしゃあ言うような性格だ。チャスティンが蓮っ葉でパンクにみえる女を達者に演じる▼この映画の中心テーマは「ママとはだれか」なのです。その解明の案内役がドレイファス博士です。彼は1887年、山小屋のあった場所に精神病院があり隔離されていた女性のひとりエディスが、引き離された赤ん坊を奪い返して逃走し、崖から湖に飛び込んだことがわかった。しかし赤ん坊をくるんだ布が崖の途中の樹の枝にひっかかり赤ん坊は宙吊り、探索隊が発見したときはすでに死亡していた。赤ん坊は埋葬された。湖で溺死した母親の遺体は腐乱し無数の蛾が発生した。だから「ママ」の霊が姿を現す前触れとして、劇中蛾が現れることになっている▼アナベルは女が子供をだき崖から飛び降りる夢でうなされる。この姉妹たちにはなにか秘密があるらしい。話しかけるものの子供たちは打ち解けない。ある夜リリーがいなくなった。どこへいった、もう世話がやける、アナベルは変な夢や博士から聞いた話もあり本気で心配になる。裸足で走り回り、木の下で倒れているリリーを発見し夢中で家に抱いて帰る。暴れまくるリリーを両手両足で羽交い締めにし「どこへ行ってたの」とか「こんなに冷たくなって」とか、聞き取れないなにかをわめきながら、リリーの体中をさすり冷えきった指に暖かい息を吹きかける。獣みたいにバタついていた少女がいつのまにか腕にくるまれ安らぐ。その様子をみたヴィクトリアはアナベルに心を開く。ママとはだれでどこにいるのか。アナベルの問にヴィクトリアが答えたのは「壁」。ママはいつのまにかアナベルのすぐそばに姿を現すようになっており、彼女が出入口にしていたのが壁のシミだった。ママは自分の「娘たち」がアナベルになつきはじめたのが気に食わないらしいのだ。ママはとうとう娘たちを拉致する▼このままだと子供たちはママに同行してあの世に行ってしまう。アナベルはママが成仏できないで、この世をさまよっているのは子供がそばにいないからだと、いったん埋葬された赤ん坊の遺骨を発掘し、断崖から姉妹の手をひいて空中に浮遊しかけたママに追いつく。あなたが連れていくのはこっちのほうだとアナベルは言いたい。ママは最初ご好意ありがたく感謝するふうに、じっと布にくるまった赤ん坊の遺骨を見つめていたがだんだん不機嫌になる。目の位置に黒い穴がふたつぽっかり開いた枯れ木のような骨より、ぼちゃぼちゃと可愛く柔らかく、暖かい姉妹たちのほうが他人であっても好ましいのだ。こんな幽霊ってアリかと思うが、ママとはかなり気性の激しい女性らしく「余計なことするな」とばかり、荒々しく遺骨を空中にばらまくと、姉妹の手をひきいまや地上を離れんと…うん、おかしい、なかなか体が上昇せんじゃないの…ママが振り返ると、なんとボコボコにやられて気絶したはずのアナベルが、ヴィクトリアの寝間着の紐のはしをしっかり握りしめて放さないのだ。もうサイコー。いいぞ、アナベル▼ギレルモ・デル・トロが一枚かむと満月のような欠けるもののない幸福な映画にはなりません。そんなおめでたいものなど絶対にこの世にはない、あると思ってもそれにとって代わる闇がすぐそばにきている、というのが彼の信念で、死と犠牲が彼のホラーの中心にどっかと位置しています。本作では死んでも紐を放そうとしないアナベルの渾身に、ヴィクトリアは妹リリーの手のほうを放し自分は地上に残ります。リリーはママのそばにいることで、ママは妹娘だけでも取り返した満足感で、ふたりして安らかな冥界への旅につきます。途中で怪我して入院してしまい、活躍の場がなかったジェフリーに代わり、実質的に姉妹と細やかな関係性を築いていくのはアナベルです。彼女の問題解決能力って男前ですね。

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