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特集「男前」

2014年8月17日

特集「男前」 レア・セドゥ シモンの空 姉の秘密 (2012年 家族映画)

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監督 ウルスラ・メイエ
出演 レア・セドゥ/ケイシー・モッテ・クライン

レア・セドゥの仏頂面

 「マリー・アントワネットの別れを告げて」のレア・セドゥがよかったのよね。声と表情が。落ち着いた低めの声でゆっくりしゃべるの。セリフの少ない役で、おしゃべりはもっぱらアントワネットが受け持ち、レアが扮した朗読係のシドニーは言葉少なに返事するだけ。レアはこのとき27歳だった。とても深い感情をだせる声だと思ったわ。この印象は本作でも変わらない。ふてくされた顔の女ってレアに似合うのよ。本作のルイーズもほとんど笑った顔がない。なんというか友愛拒否症というか、他人といい関係を結ぶことをあえて拒否するのよね。シドニーはあまりに深く王妃にのめりこんでいるばかりに余人を愛するどころじゃない。ルイーズは若くして愛に絶望し、だれかと愛をわかちあうことを忌んですらいる。たとえわかりあう相手がわが子であっても。こういう並外れて強い感情を「アントワネット」のときは極端な無口、本作ではいつも不機嫌なふくれっつらと、どっちにしても世間と調子が外れている女の表情としてレアは表現しています▼「シモンの空」は山のふもとに住む12歳の少年シモン(ケイシー・モッテ・クライン)とその姉ルイーズが主人公だ。シモンは毎日ケーブルに乗って雪山の頂上に行く。そこは高級リゾート地で各国のセレブが来ている。シモンは12歳にして泥棒を稼業とする少年だ。両親は交通事故で亡くなり、姉は転職と男遊びを繰り返し、金はなく、シモンが盗品を売りさばいた金で姉弟は食っているのだ。シモンは家をあける姉に「いつもどる?」ときくのが口癖だ。すぐとか何時とか姉は答えるが守った試しがない。男を連れ込むときもある。シモンは寝たふりをしているが、タバコのフィルターをちぎって耳栓にし、姉の声がはいらないようにして布団をかぶる。シモンはホテルのコックと組み、だんだん稼ぎが増える。ウソも巧みになる。ケイシーという少年は美少年で大人びたシモンをドンピシャリ好演。彼の落ち着き払った盗みの手口は、こんな子供がやることかと、嫌悪を感じる一歩手前だ。シモンは自分と同じ年齡の男の子ふたりを連れているアメリカ人女性のテーブルにすわり、学校が休みになって自分はひとりでここへ来ている、父はホテルのオーナーで母も仕事がいそがしくいっしょに来れないなど、まことしやかなウソをつき、女性はシモンの良家のそれらしき態度物腰にすっかり感心する。この女性を演じるのがジリアン・アンダーソン。日本では「Xファイル」の捜査官で知られているが、本作では数少ない大人の登場人物で、シモンのインチキを見破ったときも、冷静な対処でシモンとルイーズの所業を治める▼シモンはせっせと稼ぎ姉に新しいGパンを買えといったり、上等のジャケットを姉のために盗んできたり、男と遊びにいくときは金を渡す。ボーイフレンドのできたことがシモンはおもしろくない。姉はますます家によりつかなくなり、たまに帰ってきてまたぞろ出て行く姉に、それでもシモンは「何時にもどる?」と聞かずにはおれない。少年の恋しさが普通ではない。姉は自分に対するシモンの恋しさを呪わんばかりである。邪険にし、口もきかない。シモンは哀れにも「お金をあげるからいっしょに寝て」とたのむ。姉がベッドに場所をつくってやると背中にくっついて「抱きしめて」と小さく言う。姉は仕方なさそうに腕にくるんでやる▼姉の男と三人で車に乗っていたときだ。後ろの座席にいたシモンが「姉じゃない、母親だ」と言う。男はびっくり。ルイーズは否定するがそれが真相である。ルイーズが十代のころの望まぬ妊娠だったのだろう。「産みたくなかった。12年間ずっと重荷だった」と、ふつうのこどもが聞いたらショックで家出しそうなことを言う。雪山の季節がおわりゲレンデのホテルは休業した。稼ぎがなくなったシモンは、つぎのホテルに移動するコックに「ぼくも連れていって」と頼むが12歳では就業できない。無人となったベランダから連なる山だけが見える。シモンはさめざめと泣く。どこにもだれにも受け入れてくれる場所のない少年のさびしさがせつない。一晩ホテルで明かしたシモンは、下りのケーブルに乗った。乗客はだれもいない。反対側から上りのケーブルがくる。だれかが乗っている。シモンが見たのは母親だ。ルイーズがシモンを探しにきたのだ。母子はすれちがうケーブルの中から相手を認める。レア・セドゥが感情の揺曳をみせたところでプツンと映画は終わる。子供に泥棒させた金で男遊びにうつつを抜かす母親という札付きの女に、レアはでもどこかで立ち直る予感を与えています。どこかといわれたらわかりません。しかし不必要なまでに自分のことを語らないルイーズの性格には、立ち入り難い威厳のようなものがあります。自尊心は本来の自分ではない自分に耐えるとき、そういう形をとるのではないでしょうか。

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