女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年10月6日

特集 LGBT-映画にみるゲイ89
ラ・ピラート(1984年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ジャック・ドワイヨン
出演 ジェーン・バーキン/マルーシュカ・デートメルス/アンドリュー・バーキン

静かな興奮 

 ラ・ピラートとは海賊とか略奪者。この映画では「人妻を略奪する女」という意味で使われます。これといった説明はいっさい抜きで話は進みます。キャロル(マルーシュカ・デートメルス)は車の中で少女とふたり、アルマ(ジェーン・バーキン)が帰るのを待っている。少女の名前は最後まで明かされない。個人名のない象徴的な役柄、本作では死の天使というところかと思われます。もう一台車が来て男が出てくる。彼は〈五番目〉と呼ばれることになる。少女同様固有名はなし。五番目というのは登場人物が5人だからです。キャロルとアルマはどこかで知り合い恋に落ちたがアルマは人妻だ。どうしようもないと諦めていたがこの夜キャロルが後を追って家にきた。アルマの夫アンドリュー(アンドリュー・バーキン=ジェーン・バーキンの実兄)は、妻がだれかと階下で会っているのがわかるが会いに行こうとしない。夫は妻に女の過去があることを知っていて、その女に嫉妬と羨望を感じている▼女ふたりは情熱的に抱き合いアルマはキャロルに「あなたは今まで最高の恋人よ。夫はいつも勝手に悩んでいるわ。寝入ったあなたの顔や道端に立つ姿が見たかった。あなたを駅の近くのバーで待つの。入ってくるのを見て考えるの“彼女よ、信じられない”そのとき魅惑されるという本当の意味がわかる。でも寝てくれない」いいながらふたりはホテルに行き寝ちゃうのですけど。アルマは夫と別れることはできないと思っている。1980年代ですから世間はゲイに対する理解もヘチマもなかった。キャロルにしても前後の見境なくアルマを追ってきたけど、これ以上続けられないことはわかっている。アルマに別れを告げる「部屋から出て行って。わたしがあなたを夫と別れさせたらあなたはわたしを絶対許さない。わたしは心が広くないしあなたはわたしを責めつづける」アルマはキャロルに未練がある。「あなたに殺された人としてわたしは暮らしたいの」。夫は夫で「信じられない。君がおれをそんなに傷つけたいなんて。できることなら切り刻んで放り投げたい」と切り裂きジャックみたいなことをいいます。五番目はどうも夫に雇われた探偵みたいだが、いつのまにかアルマに横恋慕して、少女といっしょに女ふたりのあとをつけまわす▼ホテルでのふたりの交情は激しく、どっちもきれいに映っています。ジェーン・バーキンは当時38歳で「太陽が知っている」でモーリス・ロネの娘を演じたときは23歳でした。ジェーン・バーキンとマルーシュカ・デートメルスは本作でセザール賞の主演・助演女優賞にノミネートされています。同賞の若手女優賞は少女役のロール・マルサックが持っていきました。夫役のバーキン兄は彫りの深い、妹をそのまま男にしたような顔立ちです。でも5人の登場人物はみなどうしてこう陰気で弱いのだろう。女ふたりは泣いてばかりいるし、泣いていないときは嘆いているし、男は怒ったかと思うと悩むし〈死の天使〉の少女さえ、アルマにもキャロルにも、アンドリューにも自分を受け入れる場所はないとわかって、寂寥のあまり鏡に向かって涙を流す。そらだれだって〈死の天使〉を受け入れたくなんかないわね。便宜上〈死の天使〉としたのは、劇中で彼女に抱かれた登場人物はみな死んじゃうからよ▼恋人や夫がうろうろしているのを尻目に、アルマはホテルを出てダンケルクからフェリーに乗る。あわてて残る4人が追いかけ、映画の舞台は灰色の英仏海峡に移ります。ここでも5人はああだ、こうだと嘆きながら泣きながら、船の甲板や船室をうろうろ、うろうろする。そこが海峡であり、国境であるというと位置設定が微妙で意味深だ。要するにこの人らの安住する部屋も土地も国もなくさまようだけってことね。早くそう言えよ。結末は妻を行かせまいとした夫に少女が銃をつきつけ「動いたら撃つよ」と言い、ほんとに二発撃つ。アンドリューは死ぬ。そのあとで一発銃声が響く。弾はアルマに当たる。少女の意図はわからないが、この関係に終止符を打ち、映画をエンドにもっていくにはアルマが死ななくてはならなかった。キャロルはアルマを抱き車に乗る。少女も車に乗る。でもここはフェリーですよ。乗ったからってどんな手当ができるわけでも病院に走れるわけでもない。映画はここで終わりです。つまりこういうことなのでしょうか。キャロルはアルマを略奪に来て、ふたりは一時思いを遂げたが未来は閉ざされており、妻の愛を失った夫も、愛してはいても生きていくことは出来なかった女ふたりも死ぬしかなかった。アルマを失ったキャロルは死んだも同様である。実りがない映画だといえば言えるけど、静かな興奮とでもよびたい緊張が終始張り詰めていて、いい映画でした。

Pocket
LINEで送る