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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年10月23日

特集 LGBT-映画にみるゲイ106
ジンジャーの朝 さよなら私が愛した世界(2012年 ゲイ映画)

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監督 サリー・ポッター
出演 エル・ファニング/アリス・イングラート/アネット・ベニング

愛していたと伝えるわ 

 オープニングで「1945広島」と出るのよね。原爆で廃墟となった広島よ。「おや」と感じませんでした? こんなふうにまともに日本の被爆風景を取り上げた外国映画って、案外少なかったと思うのです。本作ではヒロインのジンジャー(エル・ファニング)が核開発反対を唱えデモに参加します。なにかに打ち込まずにはおれない。思春期の、伸びよう、伸びようとするエネルギーは「核戦争なんか君が心配しなくてもいいことだよ」という他人事の覚めた見方をさせません。なんでも「我が身」のこととして受け止め、自分の持てる力を試そうとする。それが後年「あのときは反核運動でデモまでして」と自嘲気味に語ることになったとしても、とても貴重な自己成長の証です。成長するとは決しておだやかなプロセスを踏んでいかない。骨がきしみ筋肉が裂け、皮膚を破りながら肉体と精神が脱皮していくことだ、サリー・ポッター監督が青春期に入ろうとする少女に注ぐ視線はやさしいばかりではありませんが、でも温かいですね▼時代は1960年のロンドン。東西冷戦とキューバ危機の只中です。ジンジャーとローザ(アリス・イングラート)は産院で母親同士が隣り合ったベッドでいっしょに生まれ、姉妹のように大きくなった親友。原題は「ジンジャーとローザ」だから、ふたりのヒロインを監督は等分に扱っているのですが、邦題ではジンジャーだけが主人公みたいになりました。ジンジャーは将来詩人になりたいと考える内省的な少女。すくすくと健やかに育った。ローザといつもなにをするのもいっしょだ。ヒッチハイクして男の子と遊んだりタバコを吸ったり、どっともがお互いが大好きで、どうすれば上手にキスできるか、ローザは「ちがうのよ、もうちょっと横にしてみて」とジンジャーの顔の角度を変えさせたりして練習している。ラジオからは「可愛い花」が流れるいっぽうキューバ危機と核の脅威が報道される。ジンジャーはT.Sエリオットやボーヴォワールを読み、社会的な関心を広げていく。ローザはそれよりも異性とセックスに目覚めていく▼ジンジャーの父親と関係してローザは妊娠する。父親ローランドは思想家であるらしいが、理屈だけこねまわす生活力のないただのダメ男である。不倫ばかりしてジンジャーの母親は苦労した。自分のことを「パパ」ではなく「ローランド」と呼べという変わった男で、でもヤサ男であるから女の受けはいい。父親とローザの深い仲を知ったジンジャーは傷つく。これといった定職もなく不倫を重ねる父親は、自由な生き方を象徴しているようで好きだったが、今は無節操な家庭の破壊者として不信が募る。世界は核で滅びる、親友も父親も信頼できない、ジンジャーの内的世界はパニックに陥る。ジンジャーといっしょに核開発反対の運動をしている女性にアネット・ベニングが扮している。彼女はただならぬジンジャーの消耗状態に「なにを隠しているの、なにがあったの」と尋ねる。彼女とジンジャーはデモに参加して警官隊に引き裂かれ、留置場からジンジャーの家に帰ってきたときだ。父親も来ていて母親もおり、ローザも姿をみせる。舞台であれば主たる登場人物がそろい劇の決着をつける終幕の場面だ。ジンジャーは「ローランドがローザとセックスしている」と言う。母親は二階の自室にこもり自殺を図った。父親は「ぼくを批判するな、僕の人生は普通の家庭という名の重圧で抑圧されていたのだ」と主張する。ここで「ご立派ね」声を張って一撃をくらわすのがアネット姐御である。ローザは「許して」とジンジャーに訴える。母親は救急車で運ばれた▼エンドのジンジャーの独白を聞くべきだ。「夢を見ていた。一生親友でいるって。人によって生は終わりを意味する。今となってはわたしに明日はない。これだけの恐怖と痛みの中でも、わたしは世界を愛する。命を守りたい。ローザは許してと言った。ママが回復できたら再会するでしょう。そして伝える。ローザに愛していたと。残念だけどわたしたちは違う。あなたの夢は永遠。わたしの夢は生きること。生きられたらそれでいい。だから許すよ」。ジンジャーはいっきょに大人になりましたね。跳躍しています。これはジンジャーの独立宣言です。そう思うと冒頭でケチをつけたけど「さよなら、わたしが愛した世界」の邦題は、なかなかセンスいいですね。エル・ファニング〈(16)=「幸せへのキセキ」〉はダコタ・ファニング〈(20)=「宇宙戦争」「シャーロットのおくりもの」〉の妹。姉妹はとても仲がよく映画関係のイベントにいっしょに出席している。アリス・イングラートはジェーン・カンピオン(「ピアノ・レッスン」の監督)の娘です。

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