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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年10月28日

特集 LGBT-映画にみるゲイ111
ある日、突然。(2002年 ゲイ映画)

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監督 ディエゴ・エルマン
出演 タチアナ・サフィル/カルラ・クレスポ/ベロニカ・ハサン/アトリス・ティボーディン

愛をもって生きること 

 ランジェリー・ショップで働くマルシア(タチアナ・サフィル)は男にふられた。太っているせいかもしれないと悲観しジムに通っているが、恋人は現れない。刺激のない毎日。ある日若い女があとをおいかけてきてこう言った。「わたしとやる?」。マルシアは悪い冗談だと思う。相手が女だというより、自分とやりたいだれかがいるとは信じられない、マルシアはコンプレックスのかたまりである。映画はシャープな出足を見せる。若い女マオ(カルラ・クレスポ)はレーニン(ベロニカ・ハサン)と二人連れだが、レーニンはマオの影のようにほとんどしゃべらない。「あんた、正気?」ただもう驚くマルシアにマオは「あんた理想の女なの。キスしたい」。当然ながらマルシアはマオを追い払おうとする。マオがどんな女かというと、ラテン系独特の鋭い目つきの整った顔立ち、短い黒い髪、とんがった鼻。背はそう高くないが痩せて身ごなしは軽い。黒い革ジャンを着て、同様のミニスカに黒いタイツとブーツ▼レーニンはたぶんブロンドだ(映画は白黒)。ショートカットで鋭角の頬と顎。かっきりした目はマオと姉妹のように似ている。彼女は前半ほとんどせりふを言わないが、マオの意図するところを先々読んで行動に移す。マルシアに「来ないで」と拒否されたマオの口説きはこうだ「わたしが女だから? わたしはあんたが欲しい」「異常だわ」「どうして。女同士だとヘン? あんたの暗い顔に恋したの。あんたセックスは嫌いなの?」「愛がないのは…」「愛の話じゃないわ。ベッドで抱き合ってキスしたりするのよ」「行かせて」「行けば。だれも止めていないわ。好きな人のことは傷つけない」。マルシアがマオのそばを去ろうとすると、レーニンがしっかり飛び出しナイフをつきつけるのである。マルシアは泣きそうだ▼三人はカフェに入り雑談をするが、マオは世間話で時間をつぶすつもりは毛頭ない。単刀直入「ファックしようよ」「そんな気分じゃないわ」いいながらマオの不思議な強引さに、マルシアの受け答えは徐々にほぐれている。「気分じゃない? 憧れているくせに。愛させてよ。なぜいやなの? 太っている劣等感? 突然だしわたしが女だからね。でも一目惚れは信じているはずよ。説明のつかない愛は行為で証明するしかない」マオのいうことはどことなく哲学めき、タクシーにマルシアをのせると腕をしばり目隠しする。レーニンは運転手の喉にナイフをつきつけ、車の外へ放り出す。かなり走って車を止め、マオはマルシアの腕の縄をほどき、目隠しを外せという。マルシアの目の前は海だ。海をみたことがないと言ったマルシアにマオが連れてきたのだ。これが愛の「証明だよ」とマオが言い、波にむかって走りだす。レーニンが続きマルシアまで海に入ってはしゃいでいる。レーニンのお祖母ちゃんの姉の家があるところまできているので寄っていこうとなる。レーニンが叔母さんとよぶブランカ(アトリス・ティボーディン)は下宿屋を営み、デリアという絵描きとフィリップという青年が下宿していた。ブランカはこだわりのないさばけた人柄で、得体の知れないマオやマルシアを温かく迎え入れる▼ブランカの家にいるあいだに、マオとマルシアはベッドを共にし、マルシアは猛烈に感激するがマオは熱が冷め、さっさと同居している青年に関心を移す。デリアもレーニンも意気消沈のマルシアにやさしかった。ふたりはマオのようなシャキシャキした女が、もっさりしたマルシアでいつまでも満足するはずがないとハナから踏んでいたのだろう。ブランカは遠来の孫のような娘たちを歓迎し、下宿人たちもいっしょになって夜はブランカの居間でタンゴを踊り、翌日は舟遊びを楽しんだ。レーニンはブランカに会えたうれしさを素直に伝える。ブランカの急死で事態は変わる。デリアはブランカの家に残り、青年とマオはいっしょに暮らすようだ、そしてレーニンとマルシアはふたたびブエノスアイレスに戻る。首都に帰るバスのなかでマルシアはすっかり安心したようにレーニンにもたれ眠る▼本作はディエゴ・エルマン監督が28歳のときの映画だ。この監督は28歳にして「人生、生きてりゃなんとかなっていく」という老成の極みをシャープに輪切りしていく。輪切りする役がマオであり、レーニンであり、マルシアであり、ブランカであり、彼女の下宿人たちだ。自分勝手な愛し方であるがエゴイズムもここまで気取りがないと笑えてしまうようなマオ、いつも自分はふられてしまう人生だとしょぼくれながら、希望を捨てずマオを受け入れ、またもやふられそれでも愛を信じ安寧を得たマルシア、家族と打ち解けず家を飛び出し、社会にもなじめず突っ張っていたレーニンは、ブランカにはじめて肉親の愛情を感じ大きく成長する。ゲイだろうとなんだろうと、血のつながりがあろうとなかろうと、愛をもって生きることが人には大事なのだ、というメッセージが素朴だ。

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