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シネマ365日

2014年11月3日

ドッグ・ショウ! (2000年 コメディ映画)

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監督 クリストファ・ゲスト
出演 文中に含む

人生を再発見させる犬たち 

 この映画に一体なにか意味はあるのか。途中までそう思いながら見ていたわ。ペンシルバニア州で開催されるアメリカ最大のドッグ・ショウ「メイフラワー・ドッグ・ショウ」に愛犬を出場させ、優勝を狙うカップルたちがドキュメントふうに登場する。狂信的なまでに「うちの子がいちばん」の世界ですから出場者たちはハナからエキセントリックです。イリノイ州で愛犬とともにセラピーに通っている弁護士夫婦ハミルトンとメグ。彼らの訴えは「自分たち夫婦のセックスを愛犬がじっと見ていたが、それから様子がおかしい」。セラピストは「普段となにか変わったセックスをしましたか?」妻は「カーマ・スートラ」を読んで体位を工夫した云々(アホらしくなるのは序の口)。フロリダのセールスマン、ジェリーと派手好きな妻クッキー。ジェリーは両足がどっちも左足で歩けば歩くほど円を描く、リハビリの結果ようやくまっすぐ歩けるようになったと言う(それがどうしたと思う)。ノース・カロライナ州のフィッシング専門店の主ハーラン(クリストファ・ゲスト)は、愛犬とキャンピング・カーに乗りフィラデルフィアを目指す。彼は腹話術の勉強をしており、移動の最中でも練習を欠かさず愛犬に話しかける。ニューヨークのゲイ・カップルであるスコットとステファン。昨年の優勝者でボケかかっている億万長者レスリーとセクシーな妻シェリー、彼らの犬をしつけるのは当代最高のハンドラー()と異名をとるクリスティー(ジェーン・リンチ)だ。ホテルはドッグ・ショウに参加する宿泊客とワンちゃんたちで満員。支配人は部屋をわりあてるのにてんてこ舞いする▼平坦な叙述で映画は進み、犬にメロメロの飼い主たちが終始かけあいのトークを、もしくは独り言、あるいは腹話術でおしゃべりをする。ゲイカップルが男同士、女同士の二組いる。退屈でひとりよがりな、変態的なまでに犬にのめり込んでいるカップルたちを見ているのはほとんど苦痛に近い。犬を相手にかれらは言葉を声にだして一心不乱に話しかけるのである。気色わる~と思うのが普通だろ。でもこの映画はだんだんその(気色わる~)のなかに観客を巻き込んでいく。彼らは犬の気持ちを代弁するのではない。自分自身をモロ投影しているのだ。すべすべした毛並みをなでるうっとりした表情、我が身にかきいだき恍惚として頬をよせるスリスリ、念には念をいれて手入れをするのは物理的・生物的な問題ではない、犬すなわち自分たちの感情を安定させ、それによってより豊かなテレパシーにも似た交歓を体験する…(ホンマにおかしくなる)▼それと俳優たちを見てみよう。カリスマとかハンサムとか美貌のヒロインとか、そういう人種はひとりもいないのだ。車椅子の億万長者レスリー(パトリック・クランショー)ときたら、一言も発せずシワだらけの口元を結んでいる、介護施設でよくみかける風貌だ。妻にやきもちをやくセールスの旦那といい、一歩町に雑踏にまぎれこむのがひとつも不自然ではない人たち。ところがこの彼らが異彩を放ってくる。犬好きもここまでくると尋常ではないとわからせるなりふり構わぬ感情の激流である。変態じみていようとなんだろうとかまわない、極端かもしれないがはっきり言ってしまえば、彼らは犬になりかわって優勝しようと悶えているのだ。犬に感情を投影することによって、彼らは自分自身を自己確認というかたちで再発見していく。カウンセラーに犬の変化を訴える弁護士夫婦は、犬を通じて自分たちの関係を見直す。犬は自分たちの分身である。二連覇を目指して奮戦してきたゲイの女性同士は三連覇の夢は破れたが、ゲイを連帯する雑誌を刊行し新しい人生に目覚める。女房の男性遍歴にびびっていたセールスマンの旦那はハンドラーとしてショウの栄冠をかちとったことから自信を回復する。フィッシング店のオーナーは、犬を従者に腹話術師として巡業に出る。犬は彼らの人生の力強い伴侶であり、ドッグ・ショウという結紮点によって彼らは(おおげさかもしれないが)人生が豊かになったことに気づく。これこそ檜舞台がもたらした真価でなくてなんであろう。


ハンドラーとはドッグ・ショウで出陳犬をハンドリングする人。自分の引いている犬がいかに優秀かをうまく引き出して強調し、審査員にアピールする。

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