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映画監督特集

2014年11月6日

特集 ホラーの貴公子 アレクサンドル・アジャ ヒルズ・ハブ・アイズ(2006年 ホラー映画)

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監督 アレクサンドル・アジャ
出演 アーロン・スタンフォード

砂漠の悪夢

 ホラー映画を構成する大事な要素をふたつあげるとしたら、ひとつはリアリティ、ひとつは特殊メイクだろう。始めから嘘っぱちだとわかっていることで人は怖がらないし、恐怖に現実感を与える技術が特殊メイクだ。アレクサンドル・アジャ監督は処女作「ハイテンション」のセシル・ド・フランスについで、今回も主人公ダグに扮するアーロン・スタンフォードに血潮ドバドバのほか、被爆した被害者たちの容貌や肉体にリアルなメイクを施すのだ。本作の出演者たちは、元の顔貌がわからないくらいのメークアップで地獄の使者に生まれ変わる。アジャ監督は自分が筆を持って血糊を塗りたくりたくてたまらなさそうなくらい、彼は根っからホラーが好きなのだ▼映画の粗筋は劇中、登場人物のひとり一家のパパであり元警官のボブが簡略にまとめてくれている。彼は廃屋に近いガススタの親父の事務所で、壁に所せましと貼ってある新聞の切り抜きを読む。「新時代の核兵器」「鉱夫立退き拒否」「核実験中止」「丘陵で家族行方不明」「謎を呼ぶ砂漠の失踪者」パパはうめく「はめやがったな」。そうなのだ。彼ら一家は銀婚式の記念旅行にトレーラーで家族旅行、父母と長女リン、その娘婿ダグ(アーロン・スタンフォード)と彼らの一人娘(まだ幼児)に長男ボビーに次女ブレンダ、シェパードのビューティとビースト。給油のため砂漠のガソリンスタンドに立ち寄った。そこの親父はもう少し行くと右だか、左だかに曲がると地図に載っていない道があり、目的地まで2、3時間節約できる…熱風の長旅にうんざりしていたファミリーは近道をとることにする▼ガススタの親父はでも泣いているのだ。「もう勘弁してくれ、おれにはもうできない」。つまりこの地域の鉱山の直近で核実験があり、立ち退きを拒否した数家族は被曝した、彼らは奇形に侵され廃坑に身を潜めて生きざるを得なくなった。映画は冒頭、ベトナムの枯葉剤被害で肉体を侵された胎児や新生児のドキュメントを見せる。リアリティを観客に刷り込んだアジャ監督は、荒涼とした果てない熱砂の砂丘、打ち捨てられた家屋、岩肌を焼く太陽、最悪の灼熱地獄を映していく。廃坑の地下に潜んで暮らす住人たちのなかには、顔貌や肢体ばかりでなく脳に異常をきたしたのか、凶暴な食人鬼・殺人鬼と化した者がいた。彼らはガススタの親父の誘導でおびき寄せられた旅行者を殺しては食する。異様な怪力で斧や銃器を縦横にあやつる。ダグがみつけた砂漠のクレーターに住む一家は、掘っ建て小屋にテレビを置き、家族のひとりは巨大な頭のため身動きできず、発音さえききとりにくい口調で、歌っているのはアメリカの国歌だ。その国の実験が彼らを作ったのではないのか▼パパとダグが徒歩で救援を呼ぼうと出かける前、全員が円陣を組み、頭を垂れ祈る。「どうぞ神のお恵みを。守護天使を使わしわれわれに神の力を授け、この苦難を乗り越えさせたまえ。アーメン」これが家族そろって生きていた最後だ。食人鬼の襲撃を受け、ママが、長女が、パパも殺られた、赤ん坊はさらわれた。シェパードのビューティも殺された。ここにいたってマスオ君だった娘婿が弾は何発残っていると義理の弟ボビーにきき、自分はバット一本もって我が子救出に行く。臭いをたよりに追跡するのは残るシェパード、ビーストである。アジャ監督の粘っこい演出は、胸がすくヒーローの出現にはほど遠い。彼はどうもそういう男や女と気が合わないらしい。どこまでもしがみつくようにして、最後はボロボロの、かろうじて生きのびた苦い決着にいたる、そんな主人公たちなのだ▼だからこの映画でも男ふたり(ダグとボビー)はかわいそうに、目をおおいたくなるほどやられっぱなしだ。ボビーが恐怖に怯えて撃ちまくる拳銃は一発も当たらず、弾の無駄遣い。ダグは勇敢に敵地に乗り込むもののたちまちボコボコにやられ、指は切り落とされ、もうだめ、息も絶えだえ「たのむ、助けてくれ」と敵に懇願したとき、彼を助けたのはだれあろう、ビーストなのだ。風のような跳躍で襲撃し、倒れた敵に牙をたてひきずりまわしてギザギザにする。その間ご主人はなにをしたか。ええッ? よろよろと隣室に退き、となりの部屋の格闘を、ドアをへだてて伺うのだ。お前なにをしているッ、とっとと出て行って殴るなり蹴るなり、なにかしてビーストを助けてやれよと思わない観客はいただろうか。アジャ監督は犬好きにちがいない、颯爽とした人間は描かないのに、やたらビーストがカッコいいのだ▼ダグが無事赤ん坊を救出する。それができたのは少女がひとり、赤ん坊を守って殺されるのを防いでいたからだ。彼女は薬指と中指のくっついた水かきのような手で、赤ん坊を抱き息をひそめていた。トレーラーから盗んだ赤いヤッケを最後まで大事に着ていたのは、きれいな(と思えた)服がうれしかったのだろう。彼女は獰猛な食人鬼がダグの頭上に斧を振り下ろそうとしたとき、体当たりして男に抱きついたまま崖下に転落し、どっちも死亡する。惨劇の生存者はいたものの、まだまだ恐怖は終わらない…そんな「引きずるもの」を示唆して映画はエンドになります。結局この映画でいちばん印象に残ったのは、身を捨てて子供を救う少女の気高さと賢く勇敢な犬でした。アジャ監督って、とてもハンサムで繊細な人だけど、どこか人嫌いなとこ、あるのじゃない? 

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