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映画監督特集

2014年11月9日

特集 ホラーの貴公子 アレクサンドル・アジャ マニアック (2012年 ホラー映画)

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監督 フランク・カルフン 脚本 アレクサンドル・アジャ
出演 イライジャ・ウッド/ノラ・アルネゼデール

不幸への耽溺 

 脚本がアレクサンドル・アジャです。気色悪さはさすがね。その効果の8割くらいはイライジャ・ウッドのおかげよ。「ロード・オブ・ザ・リング」の彼がなんで…と思うけど、役者には芸域に挑戦する意欲でもあるのでしょうか。美少年だった彼が薄汚いオッサンで出てくるのよ。ラストで主人公は死んじゃったから、まさかとは思うけど「2」があるとしてもイライジャは断るべきね。変態好きのアジャにつきあうのは一度で充分。ラストシーン近くで主人公が指輪をはずし、マネキンの指にはめ変えるのは、いうまでもなく「ロード・オブ・ザ・リング」へのオマージュね▼音楽がよかった。ロブっていう人知らなかったけど、ハワード・ショアをピアノで叙情的にした感じ。それでなくてもこの映画はマイナーなのです。陰の気が満ち満ちてゲンナリしそうになるスクリーンに鮮烈な刺激を与え、ハッと観客を我に返らせるのが音楽です。すぐゲッとゲロさせるのはアジャの趣味か。ことこまかにトイレの便器にとびちる汚物まできっちり映して。きっちりといえばグロテスクなシーンをなにひとつ、手抜きしないのも彼の特色です。血の量は少ないものの猟奇趣味のテンションからいうとかなりのものね。そういえばアジャの傑作映画の題名は「 ハイテンション 」だったわ▼確かに、こぶりでまとまった映画だと思う。粗筋はシンプルだし、映像はきれいだ。小柄なイライジャ・ウッドが泣きそうな、せつなそうな顔で愛する女を見上げる表情もいい。主人公の青年フランク(イライジャ・ウッド)は生身の女ではなくマネキンしか愛せない。子供の頃母親のセックスを見ていた。3Pや夜の町の暗がりでやるワイルドなセックスだった。男を求めて町に出た母親のあとをついていった少年は、母親の行為が終わるのをじっと見ている。母親は息子に「車でまっているように言ったでしょ。あっちへ行って」あえぎながら母親はいうが息子は凝視をやめない。自分がこんなに愛しているのに、なぜママはほかの男のもとへ出かけていくのか。ぼくをひとり家に置いて。今夜はどこへもいかないでと頼んだのに…ぼくが髪を梳かしてあげたじゃないか▼青年はロスで両親からマネキンの修復業を継いだ修復師だ。部屋に立ち並ぶ裸体のマネキンに取り囲まれて暮らす彼は、夜になると町で出会うか、出会い系サイトで知り合った若い女ばかりを狙い、殺害し頭皮を剥いで毛髪を持ち帰り、マネキンの頭にかぶせる。肉といっしょに血のしたたる皮を置いたマネキンの頭部にハエがむらがるようになると、フランクはスプレーでハエをおいちらす。あっちにもこっちにもぶんぶんハエがとんでいる、そんなマネキンが並ぶ部屋でフランクはだから落ち着くというふうに椅子に腰掛け恍惚とする。フランクは写真家のアンナ(ノラ・アルネゼデール)を知る。若くて美しく仕事に意欲的なアンナをフランクは好きになる。個展に用意する作品の撮影のためにマネキンを貸してほしいという頼みをきく。個展は大成功。つめかける来賓のなかにアンナのエージェントがいた。年配のその女性が画廊をでた後をフランクはつけていく。いつものように犯行に及んだ彼は、頭皮をはぎながら「ママ、ママ」と口走る。エージェントの死にショックを受け、彼氏ともケンカしたアンナを深夜にもかかわらずフランクはなぐさめに行く。フランクがうっかり口をすべらせ、アンナは彼の犯行に気がつく。フランクの最後の生贄はアンナだった▼泣き叫ぶ女をおいかけまわし傷つけ切り刻み血だらけにする。グロテスクきわまりない映画ですが、醜悪になってしかるべき画面に一種、不思議な静謐感を与えるのがマネキンです。肩からはずれた腕がころがっていたり、手首だけがあったり、と思うと全身そろった細身のマネキンが暗い部屋に何体も立ち並ぶ。マネキン、人形、殺人、奇形、分断、そんなイメージの連なりの向こうにどうしてもハンス・ベルメールが浮かんでくる。肉体を呪術的なまでに歪め酸鼻にちかいエロチシズムを人形で表現し、マニエリスムを蘇らせたドイツのアーティストだ。彼のつくったいびつな、破壊されかけてかろうじて残ったとでもいいたげな人形は、生きているのでもない、死んでいるのでもない妖しい情念を放つ。ハンス・ベルメールの画集を開くとこの映画がとたんにさっぱりと淡白に感じられるような、デカダンであり退廃であり魂の溶解図だ。しかしそこにある不幸への耽溺ともいうべきシュールの尻尾を、この映画はかすかにせよ備えていると思う。

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