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シネマ365日

2014年11月10日

特集 ビークル・ムービー スノーピアサー (2013年 アクション映画)

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監督 ボン・ジュノ
出演 クリス・エヴァンス/ティルダ・スウィントン/ソン・ガンボ/エド・ハリス

ふしぎなユーモアと恐怖 

 ビークル・ムービーの特集です。文字通り乗り物映画。列車、飛行機、車、船、バス、電車、トラック、ありとあらゆる乗り物が主体の映画というだけでなく、乗り物がまるで主人公みたいだったり、「ここぞ」というシーンを乗り物が決めたりする映画。アクションありロマンスあり、サスペンスありミステリーあり、映画史上を彩るビークル・ムービーの多彩なこと。ということはつまり、人間は「乗り物」が好きなのだ。「乗り物好き」は旅行好きとはちょっとちがう。車好きとかバイク好きとか、特定のビークルだけが好きだというのともちょっとちがう。とにかく乗り物に身を預けるのが好きな人種なのだ。飛行機が離陸する瞬間にエもいえぬ解放をあじわい、列車がゆっくりプラットホームを離れるときの、車体のひとゆすりに世間からの離脱を感じ、船を離岸させるスクリューの振動に、目路はるかなる海洋へ夢をかきたてる。一言でいうなら「乗り物」とは日常世界からの「隔絶」を与えてくれるのだ。汽車が、飛行機が、船が、発進したらもうなにがあってもさよなら。いっさいは切り離された。世間のしがらみも公的生活も雑事も電話も売上も、後ろにふりすてざるをえぬ…ふりすてるではなく「ふりすてざるをえぬ」と、乗り物のせいにできるのも素敵だ▼「スノーピアサー」は氷河に襲われた2031年、白い地球を走るハイテクフル装備の弾丸列車である。隔絶もいいところの舞台設定である。ものすごいのである。おまけにこの列車に乗っている人間たちが地球上の最後の人類なのだ。すべての陸地が雪と氷に覆われ生物が死に絶え、生き残った人間が列車に乗って17年。列車の中は先頭車両に住む富裕層がすべてを支配し、後部車両に住む貧困層が奴隷のような扱いを受けていた。まず食べ物である。後部車両にはプロテインブロックという、黒い寒天みたいな棒が支給され、一日3度、365日それを食べるのだ。ステーキの味も匂いも忘れた。シラミがとびそうな服をきて、寝ても起きても着のみ着のまま。ひきかえ前部車両ではプールがあり、学校があり教室はピンクで飾られ植物園は緑豊か、エステシャンがセレブたちに施術し医療設備は万端、ディナーは豪華なフルコース。なんで列車内にこんな設備が可能なのか、そんなこと知らんがエンジンは永久作動システムで働く小宇宙なのだ▼列車内で反乱が起こる。リーダーは貧困層で生まれた男カーティス(クリス・エヴァンス)だ。先頭のエンジンを占領すれば列車を制覇したのも同様である。先頭までいくのにいくつもある扉を解除しなければならない。それにはセキュリティ突破のプロ、ナムグン(ソン・ガンホ)の助けがいる。彼はどこにいるのだ。監獄車両で凍結中! ほんとにまあ楽しい映画。やっと監獄車両に侵入し、ナムグンを助けだすと彼はクロノール依存症だ。クロノールとはドラッグの一種である。彼は娘のヨナも助けだし、扉ひとつ解除するたびにカーティスからクロノールをわけてもらうことで父娘は仕事を引き受ける▼後部車両の貧困層たちにはときどき彼ら自身の身の上を思い知らせる必要がある。そこで列車帝国の総理メイソン登場。これが、ええッ。ティルダ・スウィントンである。久本雅美かと思ったわよ。黒い短いおカッパ頭に大きなメガネ、食人種を連想させる真っ赤なルージュに口を開くと隙き歯があり、金をかぶせたピカピカの歯が覗き、しかも「ンが、ンが」といいながらすっぽり入れ歯を外しすぼんだ口元でフガフガ聞き取れぬ言葉を発するのだ。もうあいた口がふさがらん。本作をさらうのは大活劇も未来SFの発想も、反骨の武闘集団のアクションもさることながら、いや、最後の「スノーピアサー」の反乱の秘密さえさることながら、すべてをふっとばすティルダの化けっぷりをみよ。ティルダは前半を過ぎてしばらくするとあっさり殺され退場するが、壊れたアンドロイドみたいなしゃべり方をする彼女がスクリーンから消えると、映画はトーンがた落ちのありふれたドタバタになり、ラストに登場する帝国総裁エド・ハリスの怪演によりかろうじてケツを締めるのだ▼ウラ話をばらすと、ティルダはボン・ジュノ監督の「グエルム漢江の怪物」の大ファンだった。2009年に彼女は釜山映画祭で韓国を訪れ、「グエルム」を何度もみたとインタビューで答え、その記事を読んだジュノ監督は2年後にカンヌで会ったとき、いっしょに撮りたいともちかけ意気投合した。シナリオを書き換えメイスンという女性役を作ったところティルダは気に入ってオファを受けた。これって充分にティルダの変身趣味を思わせる。性をトランスする「 オルランド 」にせよ「コンスタンティン」の堕天使にせよ「 ナルニア国物語 」の魔女にせよ、俗界の人間の及びもつかぬ存在に変身する彼女の願望が著しい。いや、それだけにとどまらない。「 少年は残酷な弓を射る 」では貧血を起こしそうなやつれた主婦、「 オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ 」では、高潔なモラルを掲げながら空腹が極まるとコロリ宗旨替え、人間をガブっとやる吸血鬼。あきらかに面白がっているのよ。本作で入れ歯を外すCGはのけぞるほどよくできていたわ。監督はじつはティルダは二役でもうひとつの役で登場している、よくみていてくれと取材に答えていたけど、これ、ゆでたまごをカゴにいれて配る坊主頭の青服の男だろ。なんでカメラのほうを向いてニヤッと笑うのだろ、どこかで見た顔だと思っていたら「ティルダ二役説」を聞いてあいつにちがいないと思った。この女優は大まじめにふざけるのが三度のメシより好きなのね。ティルダの「とんでも設定」が、この映画のユーモラスと恐怖を上質にしている。ラストで人間がみんな死に絶え、少年と少女がふたりだけ生存し、シロクマが遥かな雪の尾根を歩いている。話は「青い珊瑚礁」氷河期版となるのか。かれらはこの世に二人だけの人類となって生殖し、繁栄を導くのでしょうか。シロクマのえさにならなきゃいいけど。

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