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シネマ365日

2014年11月12日

特集 ビークル・ムービー タイタニック (1997年 史実に基づく映画)

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監督 ジェームズ・キャメロン
出演 レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット

失われた船、失われた人生

 タイタニックの興行成績が「アバター」に抜かれたと聞いたとき、なんとなく腹が立ちました。それくらい「タイタニック」イコール、ビークル・ムービーの「金字塔」と思い込んでいた自分に驚きました。どっちもジェームズ・キャメロンだからまあいいようなものかもしれないけど、でもビークル・ムービーという視点からみるとちょっと違う。この映画は「失われた船と失われた人生」への壮大なレクイエムであって、キャメロンの劇的精神が最高に発揮された作品であり、CGの高度な技術もさることながら、作劇術におけるキャメロン・マジックの雄品であると、勝手に位置づけていたからです。タイタニックの悲劇をキャメロンは絢爛豪華な船ではなく、海底に眠る船の残骸、海の藻屑として最初に登場させました。キャメロンの狙いは100年の眠りからこの「伝説の船」を目醒めさせることでした。デッキ、一等客室、寝室とカメラが接近していくスローな、丁寧な撮り方は、3000メートルの暗黒の深海に横たわる、廃墟のような巨大客船への哀悼に満ちています▼タイタニックが時代の先端を極めた客船であった装備を、映画は飽くことなく映していきます。同時に船体の心臓部である船底の機関室のダイナミズムも、メカ好きなキャメロンが凝りに凝った圧巻の場面です。船底といってもエアバスがすっぽり格納できる広さと高さ、鋼鉄のピストンが何本も稼働し、石炭を投げ込む作業員のどの顔もオイルまみれでぎらぎら油照している。規則正しく秩序を保つ美しいばかりのエンジン音を、舟唄代りに聞いてきた海の男たちの肉体がたくましい。本作の長尺の半分をキャメロンは沈没前の情景描写に使っています。力強いメカニズムによる船底の機能美。客室はどうか。顔も映るくらい磨きあげた甲板、優雅な広間に輝くシャンデリア、長い廊下、真っ白なテーブルクロス、まばゆいばかりの銀の食器…▼「失われた人生」はどう展開するのか。高品質なエピソードをキャメロンは手際よく収めています、もちろん主役のジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の恋愛が主ですが、でも登場人物のなかでだれがいちばん好きかと言われたらこの人達です。船がパニック状態に陥ってからも、演奏を続けていたバンドの4人。ヴァイオリン2人とチェロとベース。氷点下に近い甲板で彼らは演奏しています。「だれも聴いていないよ」とひとりがいう。無理もない。逃げまどう乗船客でごった返している甲板は地獄図であるのに、この4人はまったく我関せず。「正餐のテーブル席でだってだれも聴いてなんかいなかったよ」ともうひとりが答えると「どうせだれもきいていないならいっしょさ」とばかり、またそろって弾き始める▼船と運命をともにした4人の楽士がいたことは事実です。楽団長だったウォレス・ハートリーさんの遺体は沈没から10日後に収容されました。彼はヴァイオリンを革のケースに入れ、大切に体に結びつけた状態で発見された。このヴァイオリンは沈没の2年前、婚約者が記念に贈ったものです。ヴァイオリンには「ウォレスへ、婚約を記念して。マリア」と刻まれた銀製の飾り板が取り付けられていました。劇中楽士たちは海水が甲板まで浸水し、ハートリーさんをモデルにした人物は「もうここまでだ。幸せを祈る」と別れを告げます。それじゃ、と4人は救命ボートに行こうとするのですが、ひとりがふと立ち止まりヴァイオリンを弾きだす。ベースもチェロももうひとりのヴァイオリンもそれを見て戻ってき、なにごともなかったように演奏を再開する。いよいよ船が転覆する直前、楽団長が弓を止め言います「君たちと演奏できたことを光栄に思う」。シーンは変わり時計の針を戻そうとするタイタニックの設計者、ふたりの子供を抱き静かに話しかける母親、ベッドに寄り添う老夫婦は自分たちが助かるより若い人たちにボートの席をと思ったのか、死ぬときはいっしょにと決めたのか。沈没の勢いは暴力的なまでに描き込まれます。雪崩のように棚から落ちる食器、砕けちる皿。廊下への浸水は一瞬のうちに奔流となる。生き残れる者なんかいない▼氷海に投げ出されたジャックの髪やまつげはすでに白く凍りかけている。彼はローズにこんなことを言う「君は無事助かってたくさん子供を産み、彼らを育て、年を取り、暖かいベッドで死ぬんだ。今夜こんなところで死ぬんじゃない」これは「タイタニック」という映画だからいわせることのできた、世界中の人々のほとんどが気づいていなかった幸せの正体でした。キャメロンの映画は金も使い技術も駆使し、目を剥くようなスケールですが、それだけが彼の映画の価値をつくっているのではないと思います。きめ細かい洗練された感情の発露、抑制。映画の背骨をしっかり抑えているから彼の映画は心を揺さぶるのでしょう。劇中繰り返されたこのセリフもいいですね。
「You jump‚ I jump」(飛び込むときはいっしょ)。

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