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映画監督特集

2014年11月28日

特集「タランティーノが惚れた女」 ジャッキー・ブラウン (1997年 サスペンス映画)

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監督 クエンティン・タランティーノ
出演 パム・グリア/サミュエル・L・ジャクソン/ロバート・フォスター/ロバート・デ・ニーロ/ブリジット・フォンダ

タラのマドンナ 

 クエンティン・タランティーノが映画界に入る前から憧れ、惚れ込んでいた、パム・グリアを念願かなってヒロインに迎え、撮った映画です。32歳白人の女性という原作を、パムのために44歳黒人女性に書きかえたという熱の入れ方でした。オープニング早々、あざやかなコバルト・ブルーの客室添乗員の制服を着たパムの横顔がかなり時間をかけて映されます。高い鷲鼻。猛禽の眼。濃い眉。息苦しくなるほど豊かな長い黒髪のウェーブ。胸を張ってゆっくり、どっしりと歩く。定めた視線を小動(こゆるぎ)もさせない。このシーンだけでクエンティンの、だれにもなにも言わせないパムへの思い入れが電光ビームのように放熱してくる。パム・グリアとはあの「女刑務所」シリーズのパムです。彼女の主演する映画は「残虐全裸女収容所」でも書きましたが、「残酷女刑務所」「女体拷問鬼看守パム」あるいは「吸血鬼ブラキュラの復活」とか、どうにもこうにも横を向きたくなる邦題ですが、内容は硬質で辛口でした▼1960年代後半から70年代にブームを起こしたブラックスプロイテーション(黒人が主演し黒人観客にアピールする映画)の流れがあり、パムはそれを代表するヒロインでした。少年だったタランティーノが憧れた映画はたぶん「女刑務所」シリーズでしょう。強くてクールな女、迫害を受けつつも、聡明かつ狡猾な判断で危機を切り抜け、自分の意思を曲げずに生きていく女。タランティーノのヒロインたちは時代や差別に翻弄されはしても、どこかで自分を立て直しやり返しています。それが決して勧善懲悪ではなく、ないどころかヒロインそのものが犯罪者である。映画史上もっともたくさん人を殺したヒロインはキル・ビルだった。この作品でも信じるに足る人間はだれなのか、タランティーノはなかなか絵解きしません▼彼のマドンナ、パムを囲む出演陣は豪華です。ロバート・デ・ニーロ、ブリジット・フォンダ、サミュエル・L・ジャクソン。それにしてもデ・ニーロがチンピラのように扱われ(事実チンピラの役ですが)「このバカ」とジャクソンの罵詈を浴び、虫ケラの如く射殺される。そのデ・ニーロをバカにしていたブリジット・フォンダは、デ・ニーロを嘲笑しているときにズドン、ズドン、あっという間に死体となる。ストーリーはタランティーノお定まりの大金をめぐる争奪戦です。ワルにはワルを。銃器密売で50万ドルを溜め込んだサミュエル・ジャクソンがあごで編んだ紐ヒゲで登場します。タランティーノの悪役の言い分にはみな意味不明の理屈がある。ジャクソンは自分の手下を言葉巧みに車のトランクに入れ…手下はそんな窮屈で汚い場所はいやだと断るのですが、ちゃんとしたレストランでディナーをおごってやる、ワインとなんとかのソースつきだといわれ引き受ける。ふだんの貧しい暮らしの若者の哀愁、といっておおげさなら、ペーソスを感じさせる人物たちが登場します、ところがジャクソンは「こいつはムショで10年も耐えられるタマじゃない、割のいい交換条件を出されたらオレのことを全部ゲロして有利な取引をするにちがいない」そう読んで殺してしまう。適切な読みというべきなのでしょうか▼パムはメキシコからアメリカに飛ぶ地方航空会社の客室乗務員で年齡も44歳。安い給料でこきつかわれているがクビになったら再就職のみ込みはない。ところが副収入としてジャクソンの依頼を引き受けた。彼のメキシコの隠し口座に現金を運ぶ役である。ときに口座から引き出しときに振り込む。武器売買によってジャクソンは「つぎの取引でおれの口座は100万ドル」とうそぶく。はやい話、警察へのたれこみでつかまったパムは刑事らに言うことをきかないと刑務所にぶちこむ、10年は出られないと脅され、ジャクソン逮捕の情報提供とおとり捜査に協力する。保釈金融業者に扮するロバート・フォスターがパムに恋するがパムの狙いはクール。警察になんか協力してもビタ一文にもならない、ジャクソンは殺し屋同然の冷酷な男だし、いっそ50万ドルいただいてしまおう、ひとりじゃできないから一枚噛んでくれと保釈金融屋と組む▼タランティーノは時間軸を入れ子にする得意の作劇術を駆使し、最後に笑うのはだれか。本作にはえげつないヌードもベッドシーンも血なまぐさい殺人シーンもありません。あこがれのマドンナへのリスペクトが随所に見受けられます。タランティーノ少年がパムに惚れ込んでいたことがよくわかります。

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