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特集「新宿2丁目を連れて歩きたいボーイフレンド」

2014年12月10日

特集「新宿2丁目を連れて歩きたいBF2」 ジャン・レノ(下) 「グラン・ブルー」 (1988年 事実に基づく映画)

監督 リュック・ベッソン
出演 ジャン・レノ/ロザンナ・アークエット/ジャン・マルク・パール

地中海の風 

 主人公のジャック(ジャン・マルク・パール)とエンゾ(ジャン・レノ)は実在のダイバーです。人影ひとつないギリシャの海の小島から映画はスタートします。リュック・ベッソンの最新作「ルーシー」にもよく現れていますが、ベッソンという監督は自分の好きなものをなんらかの形で「好きだ、好きだ」と言い表さねば気がすまない人なのだ。この映画では早くもファーストシーンに、彼がこよなく愛する空と海だけの無限空間が、スクリーンにとめどなく広がっていきます。ベッソンとジャン・レノにとって本作は初期の映画でした。ベッソンが29歳、ジャン・レノが40歳ですが、この6年後にくる「レオン」を予感させる気配がたちこめています。一言で言えばベッソン独特の濃い叙情ですが、とくに台詞のないシーンでそれは雄弁です。特にこの映画の主人公たちはダイバーです。会話はもちろん光も音もない世界をカメラはダイバーの目となってとらえていきます。本作のDVDが160分という長尺だったのは、ベッソンの無言の語りがなすものです。これはもともと暗い映画です。ジャックは積極的に人と交わらず、イルカと話すことに安らぎを求める世捨て人みたいな青年です。アンデスの真冬の湖に素潜りするジャックに、ニューヨークからきた保険の調査員ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)は惹かれ、ジャックも彼女に魅力を感じるのですが一向に進展しない。ジャックは健康な男性ですが欲望というのが感じられない。ジョアンナは自分が、ジャックの周囲を一定の距離をおいてめぐる衛星みたいな気になります▼一言で言うと本作は「かぐや姫男子版」みたいな感じなのです。いずれわかることですから書きますと、ジャックとエンゾはギリシャの小島でともに幼年時代を過ごし、エンゾは長じて素潜りの世界チャンピオンになった。彼がライバルと目指すのは子供のころ別れたきりになったジャックを探し出し、どっちが世界一かの勝負をつけることである。エンゾはジャックの作った新記録を破ろうと無謀な挑戦を試み、命を落とす。ジャックはジョアンナという伴侶を得て、ダイバーとしての栄光と幸福な人生の絶頂にあるはずなのに、エンゾの死にうちのめされ自分が海の底に沈む幻影を見る。ジョアンナは妊娠したことを打ち明けますが、ジャックは聞いているのかいないのか、心はどこかに飛んでいる。これじゃ女はたまりません。夢遊病者のように夜の海へもぐりに行くジャックにジョアンナは叫ぶ。「行くといいわ。行ってわたしの愛を見て来なさい」。人間離れした技術と体力でまっくらな海に達したジャックは、どこからともなく現れたイルカと踊るように泳ぎます。そしてイルカとともにさらに深い海の底へと姿を消すのです。月へいくか海底にいくかの違いだけで、現世にすべてを残してサヨナラするのがジャックであります▼本来なら全然つかみどころがなくなってしまう映画に、力強い存在感を与えるのがだれあろう、ジャン・レノの演じるエンゾです。肉体と欲望と夢を持った男。女を愛し家族を愛し、海を愛し友を愛し、金も名声も愛した男。傲慢で尊大で自尊心にあふれ、なにものも恐れずただひとり世界で母親だけが恐い男。母親のパスタを食べるためなら、世界チャンピオン祝賀パーティも平気でキャンセルする男。彼は豪快で荒っぽくみえながら繊細な、神経の行き届いた男です。ジョアンナの気持ちをジャックよりよくわかっている。同時に修行僧みたいなジャックの本質をジョアンナより理解している。彼はジョアンナに言います。「ジャックにいくら熱をあげても無駄だ。あいつは人間じゃない、異星人だ」エンゾこそジャックが「男子かぐや姫」だと見抜いていました。縁の丸いメガネ、坊主頭、カーブを描くとんがった鼻、190センチの高身長、頑丈な肉体。男の精気にあふれたジャン・レノですが、彼のかもす静けさのようなものがいつも身のまわりを取りまき、それがなければベッソンは絶対に、彼を「レオン」にしなかったでしょう▼コメディもやりサスペンスもロマンスも、アクションもやり、刑事もシェフも演じるジャン・レノですが、一時期すっかりハリウッドの仕事がふえ(それもチョイ役みたいな役さえある)カサブランカ生まれのスペイン育ち、パリで人となった異風の持ち味が薄くなってしまうようで残念だった。フランス映画とハリウッド映画に器用にまんべんなく顔を出すのではなく、もっとヨーロッパそして地中海の風を感じさせる映画に出て欲しい。