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特集「銀幕のアーティスト」

2014年12月24日

特集「銀幕のアーティスト4」 歌え!ジャニス・ジョプリンのように (2003年 ファンタジー映画)

監督 サミュエル・ベンシェトリ
出演 マリー・トランティニャン/クリストフ・ランベール/ジャン・ルイ・トランティニャン

最高のマリー 

 セリフと役者とストーリーに映画の楽しさが詰まっている。オノ・ヨーコが脚本を気に入り、ジョン・レノンの曲の使用を無償で許可したというのもわかります。主人公のひとりパブロは保険会社に勤める42歳の無気力社員。オープニングはこうだ「会社では60分が1時間になるのを待ち、24時間が1日になるのを待って寝床に入る。以前は分厚い伝記を読んで寝たが、今は目をつぶれば眠れる。そして待つ、朝になるのを。結婚14年、まあまあ…かな」。妻のブリジット(マリー・トランティニャン)「まあまあどころか。最悪の人生よ。自殺したいくらい。毎朝子供を送って学校へ行く。定時になれば迎えに行く。どこにも行けない生活。買い物? 近くにスーパーがある。森林浴? 近くに公園があるわ。死にたい? 市営の墓地だってある(ハア~)」(無言のため息)。保険会社を悪徳商法の巣だと言うパブロはふと魔がさし顧客のキャノン氏(ジャン・ルイ・トランティニャン)の保険金50万フランを着服する▼キャノン氏の車が盗まれ衝突事故を起こし、損害賠償金が50万フランを超える、埋め合わせの金など持っていないパブロは金を調達するかムショ行きか、進退を決めねばならない羽目に。そんなとき向かいに住んでいる母親がパブロの従兄弟のレオン(クリストフ・ランベール)が遺産100万フランを相続したと言った。パブロは長年会っていない従兄弟を訪ねた。古びた倉庫のようなレコードショップだった。店にあるのはジョン・レノンとジャニス・ジョプリンのレコードとポスターだけ。彼は1973年にトイレでジョンとジャニスに会ったことがあり、そのときふたりは手をあげ「またね」と言った。それ以来レオンはジョンとジャニスが自分を訪ねて戻ってくるという妄想の世界に生きているのだ▼パブロはブリジットがジャニスにそっくりなことを幸い、売れない役者ワルテルをみつけ、ジョンとジャニスに仕立てレオンから50万だまし取ろうという計画を思いついた。はじめは「ジャニスってだれ?」と無関心なブリジットだったが、ふたりが戻ったと信じるレオンの無垢な心酔ぶりに感動「世界を救うため、平和の歌をうたうために宇宙からこの世に戻ってきたのよ」というメッセージを考えだす。ブリジットとワルテルは興奮して意気投合、おもしろくないパブロはワルテルと大げんかし、ワルテルは役を降りてしまう。レオンはブリジットのためにファッションからヘアメイクまで、往時のままのバンドを編成しレコーディングの段取りを整え、ジャニスの好きな銘柄サザン・カンフォートまで用意していた。ブリジットはグイッと一杯やるが当然ながら声がでない。レオンはやさしく「30年も歌っていないのだから当たり前だよ。練習したら思い出すよ」かくしてブリジットは1日15時間どっぷりロックにひたる毎日。楽しくてたまらない。ジャニスそっくりのド派手な衣装にヘアスタイル。思い切り歌えば気分は爽快。毎日夜遅く帰り一日家をあけるブリジットに代わり、パブロは息子の送り迎えに料理に洗濯、スーパーの買い出しと目の回るような家事においまくられる▼ブリジットは言う「ある歌手が言った。今日は残る人生の最初の日だと。わたしにとってすべてが変わったわ。他人のわたしを見る目がちがう。わたしを見てくれる。とてもいい気分。人に心を開いた。だれとでも気さくにしゃべれる。見る夢さえ前とはちがう。ジャニスはわたしの一部なの。それを感じるの。ずっとわたしの中にいたのよ。会ったばかりだけどとても愛している。前向きになれるのよ。自分を解放して歌う歌は最高よ。翼が生えたような気持ちよ。見る夢さえ前とはちがう」パブロには悪夢だった。ある夜パブロが帰宅するとだれもいない。いや、いたのだ。リビングの暗がりにキャノン氏が。「奥さんは坊やを連れて大きなトランクをもって出て行った」と伝える。パブロは顔面蒼白。来るべき日がきた。自分の犯罪が白日のもとに曝されたのだ。妻も子も出て行った。自分の行き場所は刑務所しかない。言葉を失っているパブロにキャノン氏は(ニッ)と悪魔的な笑みをうかべ物静かに話しかけた…トランティニャンのうまさはいやらしいくらい化け物じみています▼ブリジットはついにレコーディングを迎えた。バンドが勢揃い。ブリジット、いやジャニス・ジョプリンが登場する。「時は移りゆく/友は去っていく/わたしは前に進む/でも答えはみつからない/愛をかなえようともがき続ける間にくる孤独な夜/答えを求めてはだめ/年をとっても答えは見つからない/もっと愛せるわけでもまともに愛せるわけでもない/だから今すぐつかむのよ/どうせ同じことだから/愛について語りたい」マリー・トランティニャンが最高です。無気力主婦がジャニス・ジョプリンによって生まれ変わる。ワルテルですが彼は彼でジョン・レノンの役をまっとうした。彼はレオンに会い「ぼくが死んで20年たった。新曲を作ったよ」と言う。レオン「君はにせものだろう」「いや、ジョプリンがにせものだったのさ」こういうやりとりがあるが、さすがにこれくらいにしようと監督も思ったのだろう。ラストは愛を歌ったおかげか元の鞘におさまったブリジット夫婦と、正気にもどったレオンがワルテルとショービスの世界に入って幕となります。最後はちょっと付け焼き刃気味でイージーですが、そこに至るまで充分な中身です。