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シネマ365日

2015年1月2日

特集 お正月いっしょに笑いたい男 ザ・ロイヤル・テネンバウムズ (2001年 家族映画)

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監督 ウェス・アンダーソン
出演 ジーン・ハックマン/アンジェリカ・ヒューストン/グウィネス・パルトロー/オーウェン・ウィルソン/ベン・スティラー

ゆるキャラの哲人

 わたしウェス・アンダーソンのことを「ゆるキャラの哲人」と呼んでおります。彼の監督による「ダージリン急行」といい「ムーンライト・キングダム」といい、「グランド・ブダペスト・ホテル」といい、悠揚迫らぬ時の流れと人物たちがいる。どの作品にもどことなくたちこめるノスタルジア、密かに贅をこらしたセット、この映画でも別注のステンドガラスの窓、優雅な肖像画の婦人、年代物の家具調度、みるからにがっしりしたユニークな小型のテント、ベン・スティラーと二人の息子たちはまるでユニフォームのように赤いジャージを常時着用していますが、赤すぎず、と言ってくすみすぎない「赤」のためにこれまた別注したのです。ここまでくるとデヴィッド・リーンの世界である。同じデヴィッドでもデヴィッド・リンチではありません。彼の場合は「変態の鉄人」です。デヴィッド・リーンは「旅情」で、キャサリン・ヘプバーンが古道具屋で気にいったワイングラスをみつける、彼女が手にするときの赤い色がイマイチだといい、二度か三度最初から焼いて作らせたという監督。ウェス・アンダーソンのどこが好きかというと、彼の映画とは彼の人生観とか世界観の凝縮であって、こういう、捉え方に迷いのない人って好きなのです。迷いがないといえばミヒャエル・ハネケだってクロード・シャブロルだって、そうなのですけどね、でもウェスの場合、ああいうヘンクツ親父たちとちがい、もっと感性が柔らかいですよ(笑)▼そうそうたる俳優陣ですが、圧巻はやっぱりジーン・ハックマン。有名な弁護士だった彼ロイヤルは今や資格を剥奪され、傲慢かつ自分勝手な性格ゆえ、妻にも子供たちからも見捨てられ、家は追い出されホテル住まい22年。7年間音信不通にして放っておいた妻が考古学者として独り立ちし、しかも再婚すると聞くなり、未練が沸き起こり阻止しようと画策に動く。子供たちは3人。長男のチャス(ベン・スティラー)は2年前妻を飛行機事故で亡くし息子ふたりと男世帯。長女マーゴ(グウィネス・パルトロー)は養女、次男のリッチーはテニス選手。三人が三人とも10~11歳のときは天才だった。チャスは起業し成功、マーゴは戯曲を書いてヒット、リッチーはテニスのチャンピオンだった。元天才たちは20年後「ただの人」になり、チャスは妻の事故以来その偏執的な性格が加速し、いまや予防訓練中毒、真夜中に子供を叩き起こし避難させタイムを測り、常に父親を憎悪している。マーゴは各地を転々とし、結婚したり9時間で離婚したり。精神科医と結婚したものの1日6時間風呂に閉じこもりテレビをみている。リッチーは姉への恋を断ち切れず悶々。あてもなく世界を船旅する。彼らは過去の自分が忘れられず、現実の一歩がふみだせない。要は「親父を恨む」「才能の枯渇から這い上がれない」「恋のドツボ」にはまり、ドロップアウトしただめキャラである。いきなり現れ余命6週間だとウソをついてヨリをもどそうとした夫に妻エセル(アンジェリカ・ヒューストン)はブチ切れ。しかし尾羽うち枯らした姿に哀れを催し家においてやる。そこへ「防災に不安がある」自宅からチャスが子連れで引っ越し、夫とうまくいかないマーゴが別居、父余命6週間のガセネタにだまされたリッチーが旅から帰り、ロイヤル・テネンバウムズ一家はひさしぶりに全員同じ屋根の下に集った▼さあここからが本番である。家庭内葛藤というか、極めて限定された狭いエリアにおける、複数の人物たちの感情のもつれを描かせたら当代随一のウェスである。妻は自分を理解するパートナーと結婚を決め、オヤジの不治の病・余命6週間がダマシだとわかったチャスは怒り心頭、やっぱりこいつの性根は腐っていると、父親の襟上つかんで放り出す。チャスほど父親を憎んではいないが、姉への思慕はつのるばかりのリッチーは思い余ってかみそりで腕を掻き切る。家族揃って病院に急行。こんなときでもチャスは自殺の理由を問いただし、母親は「眠らせてあげて」と長男を諌め、マーゴは罪人のように物陰から様子を伺う。親父はとんできたもののさっさと帰ろうとし、同僚から病院にいなくていいのかと聞かれ「自殺だって? いや、未遂さ」とケロリ▼ウェスの映画の面白さは、登場人物のだれ彼の心模様が必ず自分にあてはまることだ。あのとき親父には親父の理由があった、母親は理解のない家庭で、子供を育てるために自分の才能は二の次にして一生懸命だった、姉を愛しながら踏みきれなかったおれが結局弱い男だったのだ、男をつぎつぎ変えてきたけど、愛からは逃げられない…さんざん遠回りした家族たち。長男はさびしかった子供時代を父に訴え、長女と次男は愛し合って生きることを決める。親父は離婚届を妻にわたし、「君がサインさえすればいつでも奴と結婚できる」はからい。ママはもちろんハッピー・ウェディング。親父はホテルのエレベーター係となって職を得た。彼は心臓発作で倒れ、救急車に同乗したチャスにみとられ息をひきとった。彼の墓碑銘はこうだ。「ロイヤルは沈む軍艦から家族を救い、非業の死を遂げた」。まあ素晴らしい締め言葉。ロイヤルとは、ばらばらになっていた家族を結びつけ、崇高な自己犠牲によって彼らを救い、その犠牲によって自らは倒れた、と墓に明記したのね。思わず頬に浮かんでしまう(クスッ)、これがウェスの笑いです。

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