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シネマ365日

2015年1月3日

特集 お正月いっしょに笑いたい男 きっと、うまくいく (2013年 青春映画)

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監督 ラージクマール/ヒラーニ
出演 アーミル・カーン/R・マグダヴァン/シャルマン・ジョーシー

困難を無視する 

 3時間にも及ぶ長尺のうえ、くどくどコテコテで閉口した。本作が日本円にして、世界興収64億円のメガヒットになるのだから、人はいかに人生の活路を希求しているか痛感してしまう。大学時代でなければ結べない損得抜きの友情も、貧しさの中から両親が息子にかける期待も、国家的使命を担う大学教育のあり方もよく描かれている。その上で言うのだけどちょっと都合よすぎるわね。主人公の3人(原題は「3バカ」)はみな好青年だ。インドでトップの工科大学に入学したエリート中のエリートだ。なかでもランチョー(アーミル・カーン)は天才的なひらめきと思考力で、画一的な大学教育にものたりず、自由な発想とアイデアで群を抜き、首席で卒業する▼彼の僚友、ファルハーン(R・マダヴァン)とラージュー(シャルマン・ジョーシー)は、成績こそドベタから一、二を争うアタマだが、ランチョーの感化で「自分がなりたいものになるために努力する」という、人生のいちばん基本的な姿勢と選択を過たずにすむ。寮にはおもしろくもおかしくもない点取り虫のガリ勉であるチャトゥルという、最高にケッサクな学生が登場する。彼のアダ名であるサイレンサーは、彼が屁こき虫で臭いスカ屁ばかりこくからだ。ガールフレンドも定番だ。彼女の姉が産気づき、3バカトリオが男ばかりハチャメチャの大奮闘、ランチョーの恋人であり医師のピアが、パソコンから叫ぶ指示に右往左往しながら赤ん坊を取り上げたものの無呼吸である。すわ! こんなときのランチョーのお祈りの言葉が「アール・イーズ・ウェル」(きっとうまくいく)。産婦はピアの姉で、ランチョーが大きなお腹の彼女に「アール・イーズ・ウェル」と言ったとき「お腹を蹴ったわ。聞こえたのよ」と姉は感激した。それを思い出したランチョーはまじないを声高く繰り返す。すると「フンギャーッ」赤ん坊はそっくりかえって叫んだではないか。全員泣く▼信じられないようなインド社会の差別もアッケラカンと語られる。サイレンサーが学長へヒンズゥ語で述べる謝辞をランチョーがイタヅラし一部単語を書き換える。意味を知らないサイレンサーが演壇で呼びかけるのは「ゴーカン、ゴーカン」であり、それを受ける会場は主人公たちを含め拍手爆笑なのだ。インドの子女強姦率は高く取り締まりは緩く、女性蔑視は根強い。こんなシーンを平気で世界に発信し、笑いを取る映画づくりのリテラシーの欠如に強い違和感を感じる。ランチョーは「全国トップの工科大学で、学問でなく点の取り方を教えている」と批判するが、数学に強いインド人がアメリカの経済・工学社会の中枢にいるのは、厳しい競争を勝ち抜いた優秀な知識と技術によってだ。彼らの収入と社会的地位の保証によって人生の覇者になりうるという発想は、それをいくら批判しても、インド政府が「ゆとり教育」を取り入れるとは思えない。学長が言うには「ランチョーの父親の月収は2500万ルピー。ゼロ2つ消したら25万ルピー。もうひとつ消すとファルハーンの家の月収。もうひとつ消すとラージュー家の月収」つまりとびぬけた裕福な家からランチョーは大学に来たことになる。これは本作の伏線のひとつで、あとで覆るがこの時点ではランチョーはなに不足ない資金によって好きな勉強に打ち込めているのであり、そんな家の息子から詰め込み教育の弊害云々をきかされたところで、一刻も早く卒業して少しでも多くの給料を取り、家族を食わしていかねばならぬ貧しい倅たちには笑止であろう。現実の過酷さが薄くて軽い本作を、スピルバーグは3度見たそうだ。そういや、あいつは女を主人公にしたいい映画って、ないとはいわないけど、彼の傑作は圧倒的男社会を基盤にして生まれているよね。戦争を始めとして▼それでもこの映画は感動のパックを随所に用意している。なにしろ3時間もあるのだからエピソードにはことかかない。ランチョーは機械が大好きでポケットにはいつもドライバーを入れ、機械とみれば分解する少年だった。彼は大富豪の家に勤める庭師の息子で、大富豪は自分の家の男は一流大学出身でなければならぬ、ところが息子は出来が悪く、かわりに優秀なランチョーに進学させ首席で卒業という栄誉を取らせ富豪家の面目を保つ、卒業後ランチョーは大学と連絡を断つ、という条件だった。3人とサイレンサーは10年後に再会する。ランチョーは発明王となり一種の英才教育による小学校を経営していた。さて再会の場所がパンゴン湖である。富士山より高い位置にある中印国境の湖。清らかな天上の青のような湖水を湛える。周囲を4000~5000メートル級のヒマラヤの山々が取り囲む。「落下の王国」の世界美景のひとつに登場する。本作の最高はラストのこの湖だろう。それとランチョーのおまじない「きっとうまくいく」か。「心はとても臆病だから、困難が発生したときは、うまくいく、と唱えてやるのだ。困難が去る? 無視する勇気がでるよ」困難は人生からなくなりはしない。そんなときは無視すればよい…このキーワードが本作の値打ちかな。

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