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シネマ365日

2015年1月21日

特集「イギリス映画/さり気ない日常」 黒水仙(1946年 社会派映画)

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監督 マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー
出演 デボラ・カー/キャスリン・バイロン/ジーン・シモンズ/デヴィッド・ファラー

伝説のデボラ・カー

 修道院が舞台で、主演は「英国の薔薇」デボラ・カーで、立地はヒマラヤのふもとで、だから「さり気ない日常」が絵に描いたようにあるのかというと大違い。いわくつきの宮殿でつぎからつぎトラブルが生じ、修道女たちの周辺をトラブルと嫉妬と謀略と猜疑と偏見が渦巻き、ついには殺人にまで発展。すごい映画だな~。伝説の「黒水仙」といわれるだけはあるなあと感じ入りました。1946年公開という古い映画に、中身がぎっしりつまっています▼僻地というがそんじょそこらの僻地ではない、ヒマラヤ山麓の貧しく寂しい村。モブという宮殿があった断崖絶壁に領主は修道院を開き、村人の教育・医療・畑づくりや子女のしつけをお願いしたいとカルカッタの修道院に手紙を書いた。院長は弱冠26歳のクローダー(デボラ・カー)を新院長に指名し、5人の修道女を部下に赴任を命じる。人選はクローダーがやるのですが「彼女も」と押し付けられたのがルース(キャスリン・バイロン)。「ルースは病気です」と、クローダーは難色を示すが「転地療養です」院長はぬけぬけ言って、情緒不安定でなにかと問題児だったルースを追い払う▼デボラ・カーが適役です。クローダーは「わたしによく似ている」と言うくらいでしたから、この役にフルスイングしています。尼さんたちは着任そうそう、言葉はわからない、習慣は異なる、自然環境は厳しい、村人は無知、労働はきつい。希望に燃えて新天地にきた彼女らも分厚い壁に疲れてくる。唯一の同国人ディーン(デヴィッド・ファラー)は尼僧たちの仕事を内心バカにしている。キリストも天国も神も彼には関係ない「モブは昔の宮殿のハーレムだった、そこに修道院とはね」と冷笑するが、修道女たちは現地に通じているディーンを何につけ頼りにし、クローダーは自分が無視されているようで焦る▼大怪我をした村人の手当をしたルースは、ディーンに礼を言われ彼に好意を持ち、それが恋心に変わった。ヒマラヤの大自然がもつ魔力にとりつかれ、野菜畑を花畑に変えてしまい、ここにいると自分を見失うと、転任願いを出すシスターも現れた。修道女たちを試練のように挫折が襲う。果たして彼女らは任務をまっとうできるのか。事情に精通しているディーンにともすれば頼りたくなるクローダーだったが、彼女は言葉遣いこそ丁寧だがやることは硬派で辛口の女である。クリスマスに酒を飲んでやってきたディーンを「二度と来ないでください」と追い出す。迷いを打ち明けるシスターには「頭がカラになるまで働きなさい」。怠慢を謝りにきたという王子が「後悔しています」というと「遅すぎたようですね」とバシッ。「どこかでわたしの話をきいてください」「今ここでおっしゃって」あの美貌でビシビシ打ち返すのが小気味よい▼ディーンが連れてきた17歳の地元の女の子カルチ(ジーン・シモンズ)とくると、全然向学心のない娘だが盗みと色気は人一倍、勉強にきている王子をアタックしふたりはラブラブに。クローダーは憂うる日が多くなった。そこへルースである。彼女はクローダーがディーンを恋していると決めつけ錯乱する。ある夜ルースの部屋の明かりが灯っているのに気がついたクローダーがノックすると、そこにいたのは真っ赤なドレスに着替え、暗がりに立って妖しい笑みをうかべたルース、彼女は無断で還俗したのだ。クローダーの制止もきかず修道院を出たルースはディーンの家に。ディーンに思いを打ち明けるが受け入れない彼に逆上。まっすぐ修道院に引き返し鐘楼に上って夜明けを待つ。一睡もできなかったクローダーが一日の始まりを告げる鐘をうちに鐘楼にのぼると、待ち受けていたルースが突き落とそうと襲った。鐘楼は断崖にある。鐘のロープにつかまったクローダーのそばを、足を踏み外したルースが真っ逆さまに墜落。この映画で出色の女優といえばもちろんデボラ・カーではありますが、キャスリン・バイロンがずば抜けた存在感を発揮しています。シャープな視線、分裂を繰り返す内面のせめぎあい、報われなかった恋情を抑圧し、男の指に唇をあてる暗い激しい目。彼女に比べたらクローダーはまったくネンネでした▼ロケはいっさいなしで本作は撮影されました。この魔術師のような撮影監督がジャック・カーディフです。子役としてサイレント映画に出演し15歳で撮影助手、カチンコ係、制作進行としてヒッチコック映画にかかわり、戦後のテクニカラーの傑作「天国への階段」で撮影監督、「黒水仙」でアカデミー賞とゴールデングローブ賞の撮影賞を受賞。「王子と踊子」でマリリンの輝くようなクローズアップをスクリーンに残したのは彼です。監督も何作かやりましたがこれはイマイチでした。イマイチの代表作はアラン・ドロンの「あの胸にもういちど」。古都ハイデルベルクへ疾駆するハーレー・ダビットソン、というキャッチとアラン・ドロンのヌードだけ覚えている映画でした(笑)。そうそう黒水仙とは王子がイギリスからとりよせた香水の名前です。彼は富にあかし香水や豪奢な耳飾り、トルコ石やエメラルドの指輪、紫地に縞模様をししゅうした上着など、いつも孔雀みたいにおしゃれ。それをからかって修道女たちが彼のことを「黒水仙」と呼ぶのです。だから神秘的ないい意味ではありません。むしろ彼女らが直面する信仰と現実の軋轢を象徴していると思えます。

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