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シネマ365日

2015年1月22日

特集「イギリス映画/さり気ない日常」 ことの終わり(1999年 恋愛映画)

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監督 ニール・ジョーダン
出演 レイフ・ファインズ/ジュリアン・ムーア

君のストッキングに嫉妬するよ 

 信仰や宗教といわれてもかなりいい加減に生きてきた身としては、ヒロイン・サラの選択を聞いても(ふうん、そういうわけ?)という程度の相槌しか打てないのですが。でもご本人たちにとってはそうはいかない。DVDのパッケージはまるでサスペンス映画です。「第三の男とはだれだ」と気をもたせるのですが、なんのことはない…まあ順を追っていくと、サラが誓った相手は神様ですから生身の恋人ベンドリック(レイフ・ファインズ)も夫のヘンリー(スティーヴン・レイ)もかなうはずがない。神への誓いのもとにサラはベンドリックと別れて2年、再会したふたりは激情のもとに再び結ばれ、その罰のようにサラは死ぬ。ヘンリーは高級官僚でサラは何不自由ない裕福な奥様として社交界に知られている。ヘンリーは仕事熱心だし浮いた話もない、サラは美人だ▼作劇上のテクニックとして時間軸がしょっちゅう入れ替わります。オープニングは雨に打たれてヘンリーが夜の公園をさまよっているところをベンドリックと会う、ふたりは友人同士だ。ヘンリーが悩んでいるふうなのでわけをきくと妻が浮気しているという。2年前のサラの相手は自分だった、ふたりは情事を重ねベンドリックはサラにのめりこんだ、戦争は激しくなりある日、ホテルが爆破されベンドリックは死んだ、とサラは思った。この人の命を助けてくださるならもう二度と逢いませんとサラは神に祈る。するとよろよろと血だらけになってはいたが、ベンドリックが瓦礫の下から這い出てきたのだ。神の奇跡をサラは信じた、そして約束通りその日限り男と別れたのである。えらいわね~。ヘンリーから「サラに男がいる」と聞いたベンドリックは(くそゥ。今度はどこの男をたぶらかしたのだ)とばかり、半ば復讐の鬼となって現在のサラの行状を探偵まで雇ってつきとめようとする▼探偵の報告で、サラがしょっちゅう会っている男は神父だとわかる。とんでもないエロ神父だとベンドリックは怒るが、正真正銘の神父である。煮えくり返っているベンドリックは過去の情事、官能の思い出がよみがえる。どれもみなきれいなラブシーンでして、レイフ・ファインズの、キレイではあるがどうかすると薄気味悪い変態の目つきが、神秘的なヒロインを演じるジュリアン・ムーアと好一対です。彼らは部屋にとじこもりこんな会話を交わす。サラは人妻だから会える時間は限られている。夫とは友達だというがそれはサラの言い分であって、ヘンリーは妻を熱愛している。サラを帰さないといけないのに、ベンドリックは床に膝をつきジトジトとサラの太ももに手をのばし「君のストッキングに嫉妬するよ」「なぜ?」「君の脚にキスを浴びせられるからさ」「まあ」「ガータベルトにも嫉妬するよ」「どうして?」「一日中君に触れていられるからさ」「わたしの靴にも嫉妬するの?」「そうさ。君を連れ去るからね」なるほどね~、さすがだわね~。いい忘れたけど彼の職業は作家です▼戦争から脚を負傷してベンドリックは帰りサラに再会し、情熱的な逢瀬を重ねる。遊園地やベッドや、ふたりの幸福な時間が過ぎる。「ぼくと結婚してくれ。いいね」とベンドリックはサラに言い、ヘンリーに事の仔細を打ち明けに行く。書類の手続きにどれくらいかかるとヘンリーが聞く。「3ヶ月だ」とベンドリック。「半分だ」「なにが半分だ」「妻の余命の半分だ」。ベンドリックはサラが重症の病であることを知る。「おれたちはどっちもサラを愛している、お前はこの家に移ってきていっしょにサラを看病しよう。おれが仕事でいない昼間は、君は仕事ができるしサラの看護もできる」というヘンリーの提案を受け、ふたりの男はこうして夜も昼もサラから離れず最期を看取るのである。サラが死んだあとベンドリックは神を呪詛する。「お前が憎い。おれのことは忘れてくれ、一生放っておいてくれ」▼信仰上のいきさつはさておき、上流社会の知的で美しく、真面目な女性が恋に落ちた、恋人を熱愛しうそもかくしもなく愛を捧げる、夫も愛してはいるが友情に近い。彼の命を助けるため女は自分の命に等しい彼への愛を供物に捧げたのだ。迷いはなかった。ベンドリックから電話がかかったとき、サラは黙って受話器を置こうとしたが「切らないでくれ」と頼んだベンドリックに応じてしまう。この時点でサラは自分の死ぬべきときがきたことを悟ったのだろう。ヘンリーへのやさしさも、ベンドリックの求婚も淡々と受け入れたのも、自分が残していく男たちへの愛惜と感謝だった。芸達者な男ふたりが引き立て役にまわり、ジュリアン・ムーアの気品を際立たせています。おれたちを引き裂いた神が憎い、憎むぞ、憎んでやる、これは憎しみだぞ、とのたうちまわるベンドリックに「稚気愛すべし」という感じを持つのは、宗教のしばりを持たないわたしだけでしょうか。

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