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シネマ365日

2015年1月24日

特集「イギリス映画/さり気ない日常」 くたばれ!ユナイテッド ~サッカー万歳!~ (2009年 事実に基づく映画)

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監督 トム・フーバー
出演 マイケル・シーン/ティモシー・スポール

許してくれ、ピーター 

 スポーツ映画には二通りあると思う。ひとつは「ロッキー」タイプ。ボクシングや、レスリングや柔道や、試合の内容そのものがドラマの中心である映画。ふたつは本作のタイプ。競技の勝った、負けたではなくそこに至る日常そのものをドラマとして取り上げたもの。トム・フーバー監督の手法はもちろんこっちだ。本作の時代は1974年のイングランド・サッカーだから、日本ではプロ・サッカーさえなく、ワールドカップなど夢物語だったろう。そのときすでに長い歴史をもっていたイギリスや欧州サッカー界の熱狂ぶりがドキュメントふうに映される。垢抜けたデザインのユニフォームではなく、どこか田舎臭い当時のファッションもリアルだ。フーバー監督はそんな大技・小技を駆使して1970年代の雰囲気を再現しながら、主人公ブライアン・クラフの「さりげない日常」を積み重ね、人生という最高のドラマに仕上げていく。その緻密な盛り上げ方は「英国王のスピーチ」や「レ・ミゼラブル」と同じだ▼クラフ(マイケル・シーン)は1935年、イギリスのミドルズブラに産まれた。本人が言うには「住みやすい町の最下位」だった。花型サッカー選手として活躍したが27歳で怪我したとき、保険料をクラブは4万ポンド受け取りながら、クラフに支払われたのは1500ポンド。さらに5000ポンドの報酬でお払い箱にした。1968年イングランド2部リーグ、ダービーの監督となったクラフはコーチのピーター(ティモシー・スポール)とともに低迷するチームを率い、「FAカップ」に挑んだ。3回戦ダービーの相手は1部の強豪リーズ・ユナイテッドに決まった。クラフとピーターは喜びトップチームを万全の態勢で迎える。あこがれのリーズの監督レヴィに握手しようと近づいたクラフにレヴィは一顧も与えず、侮辱と受け止めたクラフは徹底的にレヴィを敵視し、1部と対等に戦える戦力補強に全力をあげる▼1974年、レヴィのイングランド代表監督就任にともない、空席となったリーズの監督をクラフは打診される。彼とピーターはすでに地方チームと契約していたが、ビッグチームの名声とレヴィへの闘争心からクラフは監督を受諾する。クラフの野心にピーターは匙を投げ、地方の弱小チームとの約束を守るためクラフと道を分かつ。インタビューなどのクラフの発言が残っている。「選手に反発された場合どうしますか」「まずは彼が正しいと思う方法を聞き、20分ほど話し合い、わたしに従わせる」「リーズというチームをどう思いますか」「サッカーは美しいゲームだ。だがリーズは目先の形にこだわった。優勝したがいい勝者ではない、愛された王者ではない。監督がそう指導していたからだ」監督とはもちろん前任者のレヴィである。役員を前にしては「わたしはこれから寝食を忘れて働き、あの男(レヴィ)を越えてみせます。それによって二度とあの男の名前を聞かずともすむ」▼のちにイングランド・サッカーの至宝と呼ばれたクラフだが、前述のような行き過ぎた発言でいたるところで摩擦を、とくに選手との間に溝を作った。これは致命的だった。少なくともレヴィ前監督が築いたのはチャンピオンの座であり、選手たちは充分な報酬と人気と誇りを得ていた。自分たちのラフプレーをクラフは汚いというが、イングランド・サッカーの気風からすれば勝てないチームなど汚いどころか、唾棄すべきチームだった。1974年クラフが率いるリーズが代表監督レヴィも見守る中、リヴァプールとの対戦となった。結果はリーズの負け。選手とのあいだに意思統一を図れないクラフは、打つ手がすべて裏目に出て孤立する。役員会はクラフの解任を決める。監督就任後44日だった▼さてこのどん底からクラフはどうやってはいあがったか。彼はピーターに謝罪した。あの傲慢な男が土下座したのである。自分が無思慮だったこと、ピーターの意見が正しかったこと、自分がバカだったことを認め、軍師ピーターなしではやっていけない事実を打ち明け助けてほしいと訴えた。地べたにはいつくばって詫びるクラフを、ピーターは(ざまみろ)と思ったにちがいないが、一方で「おれもいっしょにやりたかった」と本音を言いともに戦線復帰する。監督が描きたかったのはここまでだ。あとはドキュメンタリーふうにクラフの歴戦の勝利を示し「この記録はイギリス・サッカーでまだ破られていない」とだけ結んで映画は終わる。監督にすれば自信過剰で自ら墓穴を掘り、選手から見放され、栄光の座を追われねばならなかった彼の日々と、そこからの復活が映画のキモだった。だからせっかくのクラフの黄金時代がひとつも描かれていないと残念がるファンはおられようが、これはサッカーの映画ではなく、サッカーからとびきりいいダシをとった監督の人生論だ。平あやまりに謝るクラフに内心ホクソ笑みながら、強面を崩さないピーターの頑固ぶりがじつにいい。

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