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シネマ365日

2015年1月26日

特集「イギリス映画/さり気ない日常」 あなたを抱きしめる日まで (2013年 事実に基づく映画)

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監督 スティーヴン・フリアーズ
出演 ジュディ・デンチ/スティーヴ・クーガン

「繊細な子だったから」

 ひどい話だ。ヒロインのフィロミナ(ジュディ・デンチ)は淡々と悲劇を受け止めるが、彼女といっしょに息子を探し、はるばるワシントンまで行ったマーティン(スティーヴ・クーガン)は、真相が暴かれたその場所が修道院で、怒鳴る相手は年老いた修道女だということも忘れ「荒れた墓をきれいにしてやれ。母親のひとりはまだ14歳だぞ。あなたは死にゆく者を裏切り、母親との貴重な時間を奪ったのだ。神に反する行為だ。せめてフィロミナに謝ったらどうだ!」怒髪天を衝いて怒るのだ。わかるぞ、マーティン。君はホントにいいやつだ。行き過ぎ報道でBBCをクビになった彼は失業中。紹介されるとき「ジャーナリストの…」と言われると「元BBCの」とビッグネームを自分で付け加える見栄っ張りの頼りない男だが、ふとした縁でフィロミナが50年前に奪われた息子を探していることを知り、男一匹、再起をかけて取材に取り組んだのだ▼50年間の埋もれた年月になにがあった? 映画は過去にさかのぼり現在に立ち返り、失われた日常を平静に、平静のなかにミステリアスな謎と波乱を含ませ進んでいく。ジュディ・デンチがスクリーンに現れるたび、観客は思わず吸い込まれる。そこで彼女がいうセリフは、肩すかしのようにくだらないラブ・ロマンスの小説の粗筋であったり、どうでもいい世間話であったり。聞かされるマーティンは退屈な顔もせず礼儀正しく相槌を打ち、質問もして(ちゃんと聞いています)と態度で示す。このふたりの呼吸が絶妙で、マーティンがいつしかフィロミナというつらい過去をもった女性の、よき理解者になっていくことが、仕立てのよいスーツのように無理なく観客になじんでくる▼フィロミナは未婚の母だった。10代で妊娠、家を勘当され修道院で男児を産み落とした。逆子だった。鎮痛剤も与えられず、お産にあたった修道女の言うことは「痛さは罪のつぐないです」だと。子供といっしょにおかしてもらうかわりに修道院では無償労働。1日1時間半だけ子供といることが許された。子供を人質にタダでこき使う修道院で3年が過ぎる。フィロミナの息子アンソニーが、姉弟のように仲良かった女の子メアリーがアメリカ人の養子に決まった。ところが彼女が引き取られていくとき、離れようとしなかったアンソニーも車に乗せられ連れていかれたのだ。アメリカの富豪にとっては「ひとりもふたりもいっしょだわ、姉弟ができてかえっていいわ」ということね▼養子縁組のデータは火事で消滅したと告げる修道院、そのくせ「子供に関する権利をいっさい放棄するという宣誓書だけが残っているのはどういうわけだ」マーティンの記者独特のカンが働く。近くの酒場に聞き込みをすると「火事? あそこの火事は裏庭で子供の記録を燃やすことだよ。金持ちのアメリカ人に一人1000ポンドで子供を売っているのだ」煮えくり返るマーティンだがフィロミナは冷静に受け止める。米国人という手がかりだけをつかんで、マーティンはBBCワシントン支局に調査を頼む。そしてつきとめたのだ。アンソニー(マイケルと名が変わった)は立派に成長しレーガン・ブッシュ政権の首席法律顧問となり、亡くなっていた。「どうする。イギリスに帰るか」とマーティン。フィロミナは息子のアメリカでの生活を知りたがった。彼女の思いのなかにはいつも息子が自分を恨んでいるのではないかという恐れがあった。メアリーをたずねたフィロミナとマーティンは、彼がいっしょに暮らしていた青年のいたことがわかる。「彼はゲイでした。共和党はゲイに寛容ではなかった。だから正式な行事ではわたしがいつも同伴しました」とメアリー。ゲイだときいても驚かなかったフィロミナにマーティンはきく「なぜ彼はゲイだと気づいた」「とても繊細な子だったの。どう成長するかいつも考えた。だから一連の写真を見て確信したの。彼の死因はエイズね。快感を重視してコンドームをしない人がいるのよ」。フィロミナはマイケルの伴侶だったピートに会いに行く。そこでふたりはもうひとつの事実を知る。「わたしがマイケルをアイルランドに連れて行った。彼はあなたを探しに行ったのです。ずっと探していたのです。そして修道院に行った。修道女はあなたが赤ん坊を棄てたと教えた。マイケルはアイルランドで死にました。彼の遺志でロスクレアに埋葬しました」ロスクレアこそフィロミナが息子を産んだ修道院ではないか▼マーティンはウソをついた修道女をひきずりだしてくる。彼女の言い分はこうだ。「自制と禁欲によって我々は神に近づける。あの娘たちは肉体の誘惑に負けたのです」負けてどこが悪い。ここで冒頭のマーティンの怒りの発言「あなたたちの行為は神に反する」と続きます。一巡して「元へ戻ったのね」とフィロミナ。「おれは怒っているのだ!」というマーティンに「許しには大きな苦しみが伴うのよ。人を憎みたくない。息子の墓へ案内して」ふたりは墓碑銘を読みます「マイケル・A・ヘス。ふたつの祖国と多くの才能を持つ男」。フィロミナはマーティンにこの事実を記事にしてくれていい、人々に知ってほしいと言います。今なお遠く離れた国にもらわれていったアイルランド人の養子と、その母親が、お互いを探しているのです。50年後にも悲劇はまだ尾をひいています。2009年マーティンは本を出版しました。フィロミナは英国で家族と暮らしています。マーティンはロシア史を書いて本にしましたが、こっちのほうは、さあ売れたのでしょうか。スティーヴン・フリアーズ監督の仕事は改めて書くまでもないですね。「 マイ・ビューティフル・ランドレッド 」「 プリック・アップ 」「 クィーン 」「わたしの可愛い人シェリ」。ジュディ・デンチとは「ヘンダーソン夫人の贈り物」に続く共作です。

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