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シネマ365日

2015年1月28日

アナトミー (2000年 ホラー映画)

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監督 ステファン・ルツォヴィツキー
出演 フランカ・ボテンテ/アンナ・ロース/ベンノ・フュルマン

解剖学教室の犯罪 

 先入観というのは怖いよね。これドイツ映画でしょ。ドイツ映画のこういう系統になると、どうしても元祖ホラーの「カリガリ博士」を思い出すのです。先入観もいいところだと自分でも思いながら、でも本作に関してはやっぱり「カリガリ」の直系だわ(笑)。けっこうよくできているのよ。監督がなんとステファン・ルツォヴィツキー。「 ヒトラーの贋札 」でアカデミー外国語映画賞を取った人の監督デビュー作です。ヒロインの秀才の医学生アンナにフランカ・ボテンテ。「ラン・ローラ・ラン」でベルリンの街を走り抜ける燃える赤毛のランナーを演じました。彼女は「ボーン・アイデンティティ」「ボーン・スプレマシー」でマット・デイモンの恋人マリーになっています。もちろんセリフは英語。ヨーロッパの俳優ってバイリンガルは当然みたいな語学力ですね。セシル・ド・フランス、ペネロペ・クルス、クリスティン・スコット・トーマス、ベテランではジャンヌ・モロー、カトリーヌ・ドヌーブもアラン・ドロンも、ソフィア・ローレンもハリウッド進出したときはみな吹き替えなしで英語を喋っています。逆にハリウッド組ではアメリカ生まれのドイツ育ち、12歳までドイツにいたサンドラ・ブロックがドイツ語を、フランス語では吹き替えまで自分でやるジョディ・フォスター、夫がフランス人だった(ロジェ・バデム)ジェーン・フォンダ、日本語も含む数ヶ国語を話すハーバード大卒の才媛ナタリー・ポートマン、父親がデンマーク人のヴィゴ・モーテンセン、意外とクリント・イーストウッドがイタリア語に堪能で、アカデミー賞授賞式で通訳していました。変わったところでは、南アフリカ共和国出身のシャーリーズ・セロンの母語はアフリカーンス語、アメリカにきてからテレビを見て英語をマスターした努力家です▼医学生のアンナは難関の医学試験にドイツで2番という優秀な成績でパス、名門ハイデルベルグ大医学部に入学する。ドイツの古都ハイデルベルグ。マイアー・フェルスターの名作「アルト・ハイデルベルグ」がありましたね。映画ではロケによる古都の美しい街並みが現れます。ハイデルベルグ大学とは通称で、正式にはルプレヒト・カール大学。ドイツ最古の大学にして九大エリート大学のひとつです。ついでに九大学とはハイデルベルグの他アーヘン工科大学・カールスルーエ工科大学・ゲッティンゲン大学・コンスタンツ大学・ベルリン大学・ミュンヘン大学・ミュンヘン工科大学・フライブルグ大学です▼いやしくも本作のタイトルは「アナトミー」ですから素っ裸の人体がすぐ登場します。解剖台に上がった生身の肉体もありますが、本作のテーマは「生きた標本」をつくるために血液を固める医薬品が開発され、それが行き過ぎた実験(殺人を含む)に用いられていること、しかも大学の解剖学教室の組織ぐるみの犯罪となっていることです。ご記憶の方はおられませんか。数年前日本でも「人体の不思議」という展覧会が開かれ、それは模型ではなく本当の人体をプラスティネーションという技術を使って標本にした展示でした。その技術は実際にハイデルベルグ大学のグンター・フォン・ハーゲンス博士によって生み出され、世界数カ国の特許をとりました。その標本を紹介するため開催されたのが「人体の不思議展」で、日本では1995年、1996~1998に催され博士も指導に関与したといわれます。同展は一時高い評価をえたものの日本では死体解剖保存法違反と指摘されはじめ、フランスでは2009年裁判所が展示会の中止を命じました。人体の解剖とは神への挑戦といってもいい、人間の情熱を秘めていると思えます。人体とは機能美の極致であり、その仕組と関連の美しさは言葉を絶する。「人体解剖図」(二見書房)にある精緻極まる全身の骨格、内臓、局部的なデッサン、男性、女性、成人、幼児を含めたさまざまなポーズの解剖図は、解剖に魅入られた人種が精魂こめて描き出した小宇宙です▼本作ではドイツの医学試験で一番、二番という優秀な学生たちが集まり、しかも半年で半分は脱落という厳しい勉強を課せられる。ドイツ最古の大学が備える解剖学教室の高雅な雰囲気とか、科学の粋とか、そこで学ぶ学生たちの青春とか、そういうシーンがとてもよく実感できることが、この映画に生気を吹き込んでいる。筋立てはホラーですが、監督は決して血しぶきドバドバとか、頭をカチ割る惨殺死体とか、蜂の巣のような無残な肉体というような悪趣味にしていません(首なしの遺体は出てきますが)。もし趣味のいいホラー映画という言い方ができるならその範疇に入ります。

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