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特集「フリーク/変態の詩人たち」

2015年2月1日

特集 フリーク/変態の詩人たち ザ・ブルード 怒りのメタファー (1979年 ホラー映画)

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監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 オリヴァー・リード/サマンサ・エッガー

偏愛力

 デヴィッド・クローネンバーグ、デヴィッド・リンチ、ルイス・ブニュエルらの映画って、ときどき無性にみたくなりません? カンヌでどうだった、ベルリンでこうだったと、あちこちの映画祭で賞なんかとっているけど、そんなことどうでもいいの、早い話この人らの正体って、フリーク(変態)としか思えないのよね。彼らの映画が見たくなるのは、自己没入の愉しさと快楽をあらためて確かめたくなるときよ。彼らの映画は、知らない星に旅するみたいな感性の異次元を与えてくれる。一言でいえば「ふん、現実なんかどうでもいいさ」という気になるのよ(笑)。こういう場合の現実逃避は一種、危機管理の技術です。男も女もひそかに心の底でフリークであること、異端であることに自分の分身を見出さずにはおれない。成人男女6人が横一列に並んで脇目もふらず、田舎の一本道をズンズン歩くルイス・ブニュエルの「ブルジョワジーの密かな愉しみ」なんか、人生を成り立たせている無意味の部分が甘美でさえあることに思い当たらせてくれる。あの人間離れした女優ティルダ・スウィントンは、ガーディアン誌のインタビューで堂々「フリーク愛」を表明していました▼そこでまずクローネンバーグです。30代から40代にかけてのクローネンバーグの映画って、想像力がぶっ飛んでいます。本特集では「ラビッド」(34歳)「ザ・ブルード怒りのメタファー」(36歳)「ヴィデオローム」(40歳)「ザ・フライ」(43歳)をとりあげました。唐突ですが浅田次郎の「王妃の館」を読んだとき、文章がどうの、粗筋がこうのという以前に「よくこんなこと思いついたな」というエンタメスピリッツの真髄に感動しました。それとよく似たものがクローネンバーグにも感じます。いい年をして必死になって、あのグロテスクなシーンの作り込みに没入しているインテリ男を想像すると笑っちゃうのだ。彼はこの映画が完成する前に最初の奥さんと離婚に至っています。理由は知らないけど、奥さんが薄気味悪くなったとしてもムリないと思うわ▼精神科医ラグラン博士(オリヴァー・リード)はサイコ・プラスミックという療法でフランクの妻ノラ(サマンサ・エッガー)の治療に当っている。フランクは娘キャンディが妻と面会したあと背中に赤い爛れものをつくっているのに気づく。ノラは子供の時両親に折檻されて育った。妻の症状は改善されているどころかひどくなっているのではないかと疑う。博士の治療とは怒りをぶちまけさせることである。ある夜キャンディの世話をしていたノラの実母ジュリアナが惨殺された。スクリーンには赤い服を来た子供のような生き物が、サルに似た叫び声を発して素早く室内を移動するのが映る。ノラの父親も殺された。フランクは小動物のような生き物を追いかけ捕まえるが死んでいた。解剖に当たった医師は「上唇は口唇裂、舌が厚いため話すのは不明瞭、目に異常があり虹彩はあるが網膜がない、よって色の識別のないモノクロ世界だ。歯はないが歯茎がくちばしのようにとがり、噛まれたらダメージがある。なぜ死んだかというと肩甲骨の間にこぶがあり、中がカラだった。たぶん生命維持の栄養素が入っていてラクダのコブみたいなものだろう。出生時は満タンで消費しきると息絶える。外的奇形として性器がない。目立たないが非常に変わっているのはヘソがないのだ。つまり通常のお産によって生まれていない。人間ではないのだ。異形の子供を産んだ母親が屋根裏かどこかに隠していたのだろう」(うわ~なんとかしてくれよ~)▼調査を始めたフランクは博士の患者のひとりに会う。彼は「ラグランの治療によっておれの体はおれ自身に背くようになってしまった。怒りが凝固して別の生き物になってしまうのだ」と分厚い包帯を外し、首に醜いコブのような腫瘍が取り巻いているのを見せた。博士は治療と称して患者を超能力の実験台にしていたのですね。とりわけ神経の鋭敏なノラが選ばれ、憎悪の強烈なエネルギーを凝結させ別の生物体にするという。娘の通う小学校の女性教師が白昼の教室で、子供ふたりに撲殺され彼らはキャンディを連れ去った。博士はノラだけを残して入院加療中の患者を全員退院させる。フランクはからっぽになった病院に走る。博士に会い自分の家族をつぎつぎ襲う「得体のしれない小生物」のことを話すと「ノラこそ彼らの産みの親だ。彼らはノラの子供だ。同腹児(ブルード)だよ。ノラが自分を虐待した両親に怒りを感じたらブルードが行動を起こして殺すのだ。学校の教師も君に接近したことでノラが怒ったからだ。ノラを怒らせるとブルードの怒りを呼ぶ。もうわたしの手にはおえない」おいおい、無責任なこと言うなよ▼キャンディはブルードたちの部屋に監禁されている。救出するためには「ノラを怒らせるな。ノラの精神が安定していればやつらはおとなしい。君が話し相手になってノラをなだめているうちにおれがキャンディを救出する」と博士。しかしフランクの顔をみたノラは夫のいうことを信用しない。若い女をそばに置いたとか、自分を欺くためにウソをついているとか、フランクは必死に「うそじゃない、君を愛している」と訴える。ノラは「じゃごらんなさい」と白いネグリジェの前をひろげ高々と両手をひろげる。ここが有名な「魅せられて」シーン。露出した腹部に大きな腫瘍がひくひく動き、皮膜を壊ってぶよぶよした赤ん坊が出てくる。ノラは愛おしげに血を舐め「キャンディを連れて行くなら娘を殺すわ」「やめろ、ノラ」「わたしから娘を離すつもりね。うそをついたのね」ノラの怒りは爆発。キャンディを抱いてそろそろ部屋を出ようとしていた博士は、目覚めたノラの怒りの子どもたちの襲撃を受ける。これがまたぞろぞろといつのまにかたくさんいるではないか。ノラはずいぶん怒りっぽい女性なのだ。博士はくちばし様の歯茎でつつかれ息絶える。警察がかけつけ火炎放射器のようなものすごい火器で病院もろとも焼いてしまう。ノラが死ぬと子供たちも死んじゃう。子供たちというより実際はなんと呼ぶべきなのだろう。ノラの体の一部(ブルード)もっとわかりやすくいうと別個体となった腫瘍か…いけない、いけない、こんなことを大真面目に考えだすことからして、クローネンバーグのフリークに感染したことになるのだけど、いいか。彼の「変態仕様メタモルフォーゼス(変容)」にはどこか人を恍惚とさせる偏愛力があるのだ。

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