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特集「フリーク/変態の詩人たち」

2015年2月5日

特集 フリーク/変態の詩人たち 欲望のあいまいな対象 (1977年 恋愛映画)

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監督 ルイス・ブニュエル
出演 フェルナンド・レイ/キャロル・ブーケ/アンヘラ・モリーナ

欲望の途上 

 ルイス・ブニュエルの「三無」と勝手に名づけているのが無秩序・無意味・無節操です。本作はブニュエルの遺作で「三無」が豪華に詰めこまれています。ヒロインのコンチータをフランス人のキャロル・ブーケとスペイン人のアンヘラ・モリーナが二人一役で演じます。ブニュエルは女の二面性を出したかったとかいう解釈もありますが、似ても似つかぬ容貌でどっちの女優もひどい女コンチータを演じ、二面性もヘチマもないと思います。やっぱり「無意味」のひとつでしょう。ブニュエルは(反語的にいえば)人生を堕落させるために有益なすべてを愛した監督だと思うのです。どうでもいいこと、無駄な回り道、解釈しようのない男女関係、無関心、無差別。それはいわゆる不条理ではないのか。いいえ。そんな単語など文学史のなかで云々される貧相な言葉。現実はもっと豊かな矛盾に満ちている。ブニュエルの映画は人生とは辻褄のあわないものだ、辻褄など始めからない生き物だから、辻褄をあわせるなどという行為や考え自体がセコイのだという、アブナイ感覚にあふれています。特に男にとってのすべての辻褄を狂わせるのがこの映画ではコンチータつまり「女」です▼7年前妻を亡くした初老の紳士フェルナンド(フェルナンド・レイ=ブニュエル映画の常連)はホテルの部屋を引き払うから秘書に片付けるように言う。部屋は散乱している。クッションに「血が…」「鼻血だ」にべもなくフェルナンド。秘書はパンティをつまみあげ「濡れています。よほど怖い目にあったようです」言下に「燃やせ」「靴があります。裸足で行ったようだ」。さてここはセビリア駅。フェルナンドは自分を探す若い女に気づく。女は額に大きな絆創膏を貼り、目の周りに青いアザ。ホテルでフェルナンドに殴られた女にちがいない。彼女は男に気づき「行かないで。ひどいわ」と叫ぶ。その女にフェルナンドはバケツの水をぶっかける。フェルナンドは同乗したコンパートメントの相客たちに「あの女は世界でサイテーの女だ」と一部始終を話す▼フェルナンドは従兄弟の判事の家で新米の家政婦コンチータに一目惚れ。「真面目な話がある」と口説きにかかるがコンチータは逃げ去る。忘れられないフェルナンドはスイスのローザンヌで再会。演劇仲間といっしょの彼女は興行主に騙され無一文、フェルナンドはパリの彼女の住所をきいてパートを訪問。母親とふたりで苦しい生活だ。母親に大金をにぎらせ娘をひきとろうとしたがコンチータは「どういうつもり。お遊びならほかの女と。わたしが望むものは違うの」。男が金をつぎこむのに女は「そういうことをお望みなら去って」と突き放すのである。「あなたに身を捧げるつもりだったのに母からわたしを買うなんて。もう二度と会うことはないわ」と置き手紙。こういうやりとりがいくつかのシーンでくりかえされる。めんどうだからセリフだけまとめると「田舎の別荘に君を連れていきたいのだ」「わたし、あなたの愛人になるわ」「いつだ? 今日にでもか」「明後日まで待って」明後日の別荘のシーン。「今夜は許すって言ったけど体力がなくなっちゃった。そういう気分じゃない」フェルナンド怒る。「ここまで待たせてなんだ、他人ができないほどしんぼうしたのだ!」コンチータはすばやくなだめ男は目尻をさげ「さあ、わたしの腕の中へ」「勝利を叫ぶのはまだ早いわ」「ン。なんだ、これは」ベッドで彼がみたものは彼女を守る貞操帯。10分間も結び目と格闘したがほどけない。女「あなたが好きなのはわたしではなくあの行為なのね。愛しているけどセックスはしたくない。あなたはわたしの髪や脚や胸をなでる、それ以上になぜセックスを?」なぜもヘチマもあるか、男はとうとう泣き「何もしないからこっちへ」「約束よ。望みがかなったらあなたはわたしを捨て、愛してくれなくなるわ」▼フェルナンドは傷心を癒やそうとセビリアにやってきた。そこでフラメンコのダンサーをしているコンチータに出会う。彼女が出演している酒場にきたフェルナンドは、休憩だと称して別室にひきとったコンチータが、じつはなにをしているか教えてやろうという同僚ダンサーのささやきに乗って、二階の突き当りの部屋にいく。数人の男が囃し立てる小部屋、コンチータはガータベルトだけで踊っていた。激昂したフェルナンドは男どもを追い出しコンチータを難詰する。彼女は動ぜず「特別な観光客だけ相手にするショーよ。よくみて、ここが寝室? どこにベッドがあるの。あなたのせいでわたしはクビだわ。人生でもっとも大事なものはわたし自身。わたしはだれのものでもないわ」フェルナンドはシュン。「全然わたしをわかっていないわ。愛している。一生そばにいたい。わたしの求めているのはあなた」「ぼくを頼ってくれ」「多くはいわない。わたしの小さな家。少しのお金。わたしにできることは狂うほどあなたを愛すること」で、フェルナンドは家を買ってあげるのです▼さて愛の棲家にフェルナンドは帰ってきた。コンチータはどう言って迎えたか。門扉の格子越しに足と手をスカートにキスさせ「さあ、帰って」耳を疑うフェルナンドにコンチータの冷たい声「あなたから解放され一生自由だわ。あなたが大嫌い。あなたに触られると吐き気がする。わたしを追いかけまわし、毎晩キスされるたびツバを吐いたわ。あなたが死んでくれるよう神に祈った。もちろんあなたの財産を使い果たした上で。さあ出ていって。行かないの? じゃ残ってごらんなさい」ギター弾きをつれてきて、門扉の前に毛布を敷きセックスを始めるのである▼スペインはテロと疫病が蔓延していた。ホテルにいるフェルナンドをなぜかコンチータが訪ね「どれだけ落ち込んでいるか見にきたの。もっとわたしを愛して自殺したのかと思った。話があるの」というからフェルナンドは部屋に連れて行き、さんざん女をひっぱたいて追い出した、というところでフェルナンドの話は終わった。そこへ…乗車していたコンチータが現れ、バケツの水を浴びせかけたのだ。列車はバルセロナについた。降りてくる乗客のなかにフェルナンドとコンチータが。仲睦まじく肩を並べ町中の店を覗く。刺繍している年配の婦人の敬虔な姿にフェルナンドは涙ぐむ。と思うとコンチータがすたすたと先に行く。追おうとするフェルナンド。そこへ無差別テロが襲撃、店も町も爆破される。ブニュエルの映画はすべて欲望を遂げさせません。まるで欲望の途上に人は生きているとでもいいたげです。

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