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特集「男前」

2015年2月10日

特集「男前2」 ニコール・キッドマン グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札 (2014年 事実に基づいた映画)

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監督
オリヴィエ・ダアン
出演 ニコール・キッドマン/ティム・ロス

どうするキッドマン?

 ニコール・キッドマンのド・アップが何度スクリーンに現れたでしょう。文字通り画面いっぱいよ。ここまで強烈にやられると、筋書きが怪しかろうと事実に誤りがあろうと、多少のいかがわしさは吹き飛ばされちゃうわね。それくらいのワンマンショーです。おまけにレーニエ大公に扮するのがティム・ロスよ。実物のふたりはそうじゃなかったと思うのだけど、キッドマンと並ぶと身長差20センチはあり、彼が最近太ってきたせいかおむすびみたいなのよ。でもティムはどう映るかを先刻承知で、キッドマンの引き立て役を雄々しく引き受けたのね。えらいわ▼男を破滅に導く女を演じて、映画史上神話的な存在になった女優が3人います。「 肉体と悪魔 」のグレタ・ガルボ。「嘆きの天使」のマレーネ・ディートリッヒ。彼女が出演するすべての作品におけるベティ・デイビス。彼女らにとっては善悪の基準など犬にでも食われろ。おしなべて3人とも性格が強く根性の悪い女を最高に楽しんで演じました。デイビスなんか脳梗塞に倒れてから出演した「 八月の鯨 」では、一度死にかかったから少しは変心したかと思ったらどうして、どうして。世話になっている妹に毎日剣突を食らわせ嫌味を浴びせ、思い切りエラソーにしながら哀愁をただよわせる、憎らしくてしかも最高でした▼キッドマンの「誘う女」を見たとき、ワルにはまるといい女優になるかなと思ったのです。ムードがちょっと明るすぎますが、でも「アザーズ」の哀調のある母親とか「 白いカラス 」のうらぶれた女とか、いい味がありましたのに、健康的な作品に出すぎて「イマイチだなあ」と思っていたら「ラビット・ホール」でやっと、キッドマンらしい「危なさ」のある女を演じ調子をあげ、でもやっぱりくだらない映画もお好きとみえ立て続けに2、3本そういう映画に出て、これでキッドマンもオサラバかと思っていたら「 ペーパーボーイ 真夏の引力 」と「 イノセント・ガーデン 」で地力を感じさせた。ちょっと外れた女がキッドマンは似合うのだと、だれも言ってやらないのかしらね。「ペーパーボーイ」なんか、相手がサイテーの男だとわかっていながら、自分は人生に高望みできるような女じゃない、いい加減に生きてきたふしだらな女だから、あんな男でちょうどいいのだと絶望をかかえ、アバズレだけど情のある女を演じました▼悪に淫した女って、でもだれにでもやれるものじゃないし…そう思っていた矢先に公開されたのが健康度満開の「グレース」か(笑)。どこまで事実かはいざ知らず、謀略あり背信あり、サスペンスありで悪くはなかったけどね。オリヴィエ・ダアン監督は「 エディット・ピアフ~愛の讃歌~ 」でマリオン・コティヤールにオスカーをもたらした監督です。重厚な考証と再現に手抜きはなく「地中海の真珠」のようなモナコ公国の美しさが、宮殿やその内部によく現れています。でも環境が優美であればあるだけ、王妃のピンチは際立つのだ。ヒッチコックがモナコを訪れグレースを次作「マーニー」に口説くのはフィクションです。ヒッチコックがグレースに執着していたのは事実ですが実現しませんでした。女優引退から5年。宮殿の生活に溶け込めず夫とも隙間風、孤独のなかで離婚も考えたグレースはなぜ映画界復帰を断念したか。その理由が本作なわけね▼長引くアルジェリア戦争の戦費捻出のため、ド・ゴールがモナコにモナコ国内のフランス企業から税金を徴収しフランスに払えと言う。レーニエ大公が拒否すると「モナコをフランス領として併合する」と無理難題をふっかける。いつの時代も弱い者いじめが「勝利の方程式」だ。圧力に屈したレーニエは課税を了承するが、ド・ゴールはモナコ企業にも課税しフランスに支払えとさらなる要求。国境を封鎖し兵糧攻めにかかる。内部情報がフランスに筒抜けになっている。グレースの第一秘書は探偵をフランスに派遣、裏切り者をつきとめてきた。レーニエの実姉だった。グレースは巻き返しの秘策とした計画を実行するため実姉の夫を脅迫し、電話でド・ゴールを招待させる。「心配ありません、ただの親善パーティです」と言わせて▼国あげての大舞踏会である。何重もの警備のなか横付けされるロールス・ロイス。目も覚めるレッドカーペット。きらびやかなドレスの渦。ひときわ大きなざわめきを浴び国王夫妻の到着。監督の気合が入っています。もちろんこのシーンがクライマックスです。正装した王妃の相貌は「いざ出陣」の緊迫でひきしまり、美しさを際立てる。主催者代表として挨拶に立ったグレースの「切り札」は何だったか。一言でいえば彼女自身よね。愛と共存と平和を切々と訴えるグレースのスピーチに万雷の拍手。ド・ゴールはアメリカのマクナマラ国防長官がすっかりポ~となっているのを見て(やばい。アメリカの機嫌を損ねるのはまずい)。おまけにどこかのでしゃばりがド・ゴールにささやく「これじゃグレースの庭に砲弾は落とせませんよね」大統領は苦り切る▼オスカーを取った役がゲイの女性作家だったことをキッドマンは覚えているだろうか。本作のグレースもよかったけれど、ヒッチコックがゆくゆくグレース・ケリーに演じさせたいと思っていたのは、彼の映画の女たちが隠し持つみごとな色情狂ともいうべき、絶望的なエロチシズムを放つ女、美しくタフな女、稀なる女、すなわちマイノリティのはみ出した女だった。ヒッチは安らかで健康で幸福を求めるマジョリティな女が欲しかったのではない。そういうタイプをクリエイトしたかったのではない。悪という狭い鋭い、反社会的な存在を体中で楽しむ女優に自分の映画を演じさせたかったのだ。ヒッチコックが生きていたら自分に自作の主演をオファしたか。キッドマンは一度そう自問してみるといい。

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