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特集「男前」

2015年2月20日

特集「男前2」 アネット・ベニング 華麗なる恋の舞台で(2004年 恋愛映画)

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監督 イシュトヴァン・サボー
出演 アネット・ベニング/ジェレミー・アイアンズ/マイケル・ガンボン/ジュリエット・スティーブンソン/リタ・トゥシンハム/ルーシー・パンチ

憎らしいほどの映画 

 原作はサマセット・モームの「劇場」ですね。監督がカンヌ他映画賞の常連イシュトヴァン・サボーです。社会派バリバリの監督が辛辣なモームの小説をどんな映画に仕立てたのだろう、しかもイギリス・カナダ映画界のくせ者や古ギツネがアネット・ベニングの脇を固める。考えただけでぞくぞくしてくるのに未公開でした。やることがわからんね。落ち込んだときはこの映画こそ見るべきです。とにかく「やってくれるわ」の一言に尽きます。大人の女の復讐「倍返し」はかくも知的でエレガントです▼1938年ロンドン。ジュリア(アネット・ベニング)は45歳。成功した舞台女優。夜ごと喝采を浴びる。才能に恵まれ仕事のオファは絶え間ない。夫マイケル(ジェレミー・アイアンズ)は劇場経営者。妻ジュリアの新作をなににしようか計画を巡らすが、ジュリアは最近壁につきあたっていた。とにかく休養がほしい。休みがほしい。夫もやり手の女性プロデューサーのドリーも、儲ける算段ばかりでちっとも自分のことを考えてくれない、まるでボロ雑巾のようにくたびれている、このままでは女優生命までおかしくなると、ジュリアの本能はささやいているのに…葛藤をかかえながら弱みをみせず、逆に当たり散らして自信満々を装う強気の女をアネット・ベニングが演じる。姉シャーリー・マックレーンが、あまりの女癖の悪さに引導を渡した弟、ウォーレン・ベーティと結婚し20数年、4人の子をなしとうとう家庭に落ち着かせた女性がアネット・ベニングです。ちょっとやそっとのトラブルや風評でビクともしない「しっかりした女」を演じさせたら水を得た魚ですな▼受けにまわったジェレミー・アイアンズが女房の尻に敷かれながら、ちゃっかり駆け出し女優と不倫する。彼は役者としての才能にはやばや見切りをつけ経営側にまわった、ビジネスマンとして切れる男ですが、それをうまく抑えとぼけた顔でこんな自己紹介をします「ぼくにできるのは外交官と政治家と弁護士だけだよ」説明の余地なしの彼の代表作ばかりです(笑)。「政治家」は「 ダメージ 」、外交官は「エム・バタフライ」、弁護士は「運命の逆転」(これでアカデミー賞主演男優賞をとっています)▼ヒロイン、ジュリアを自分の出世と成功の道具にしようとする男や女のうごめく世界で、欲得なくジュリアに尽くす誠実な付き人エヴィーにジュリエット・スティーブンソン。この人は「 イングリッシュ・ペイシェント 」のアンソニー・ミンゲラが監督として不動の位置を獲得した「愛しい人が眠るまで」の主演女優(相手役はハリポタの薬学教授アラン・リックマン)。それとぜひ名前を出したい人がリタ・トゥシンハム。イギリス映画のニュー・ウェイブを牽引したトニー・リチャードソン監督の「蜜の味」でデビュー。「みどりの瞳」では中年男に捨てられ孤独のなかで成長する田舎娘、「ドクトル・ジバゴ」も出演シーンは少なかったですが、それこそきれいな「みどりの瞳」が印象的でした。本作のとき62歳でしたが当時のシャープな容貌はそのままでした。カナダ映画界を代表するのはこの男優ブルース・グリーンウッド。アトム・エゴヤン監督作品の常連で代表作はあげきれませんが「英雄の条件」「 ダブル・ジョパディ 」「カポーティ」などがあります。本作ではヒロインが信頼する男友達チャーリー卿。ジュリアはチャーリー卿によりかかりたいのですが、卿はなぜか礼儀正しく対応し、それでも思いきれないジュリアに「僕は異性愛者じゃない」と最後のトドメ▼ジュリアとは舞台に立っているときのほうが現実の自分より自分らしく生きられる女です。彼女の師匠役ジミーにマイケル・ガンボンが扮します。ハリポタのランブルドア校長ですね。彼がジュリアに教えたのは役者にとって劇場のなかで演じられる世界こそが現実。ジュリアはたびたびピンチのときに師匠の幻影に助けられます。彼のアドバイスがおもしろい。「焦るなよ、焦るなよ。そこでじっくりだ」。ジュリアは45歳。「母親役か祖母役、せいぜい小姑か。劇作家は女の芝居が書けないのよ。男が書いているからよ」これ、ハリウッドへの嫌味じゃないでしょうか。女優として曲がり角におり、後ろから若い新人女優がオーディションを受けに来る。夫やプロデューサーや、芝居の原作者も若い女優に目を奪われ点が甘い。夫とは結婚20年、もはや情熱は失せている。そこへ自分の大ファンだというアメリカ人の青年トムが現れた。息子のような年だ。ジュリアはたちまち彼と深い仲になりリフレッシュして元気を取り戻し舞台ははつらつ。昨日まで「引退したい」が口癖だったのに意欲満々だ。しかし若い男との一時の情事など、どこかで覚めている自分がいる。息子ロジャーとトムは気が合う、とジュリアは思っていたが息子はトムが嫌いだった。「母さん、なぜあんな男と…母さんがもったいない。あいつは嫌いだ。あいつの情婦のエイヴィスは父さんと不倫しているのだよ!」▼昨日までスター扱いしていた連中がまるで落ち目の女優のように自分を見る目つき。ジュリアの腹は決まった。オーディションに合格した新人女優エイヴィスに将来有望の太鼓判を押し、自分は脇にまわって彼女を盛りたてる。衣装も目立たぬよう、目立たぬよう地味な色とデザインを選ぶ。主役の交代を告げる新時代の幕があがる、そう関係者は酔った。ところが…。初日が開幕した。幕間の着替えにジュリアは「衣装を」すべて呼吸を飲み込んでいるエヴィーがさっとだしたドレスに「それじゃない」ジュリアが新しい箱から出したドレスを見て、エヴィーはこれからなにが起きようとしているかを瞬時にさとる。もうこのへんにします(笑)。あとは海千山千の名優たちが語るべきです。つぎなるクライマックスへ導入するサボー監督の手際と、知り尽くした役者たちの演技は繊細かつ洗練されていて、そのさりげなさは憎らしいほどでした。

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