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特集「男前」

2015年2月21日

特集「男前2」 ジュディ・デンチ ヘンダーソン夫人の贈り物 (2007年 事実に基づいた映画)

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監督 スティーヴン・フリアーズ
出演 ジュディ・デンチ/ボブ・ホスキンス/ケリー・ライリー

イギリスの至宝 

 ハリウッドにメリル・ストリープがいるならイギリスにはジュディ・デンチがいるさ。英国演劇界の至宝といわれるこの人。「イギリス映画の名作」を「シネマ365日」で特集したとき、あっちの映画にもこっちの映画にも出演していて「ジュディ・デンチ特集」みたいになりそうで選択に困ったわ。いちいちあげておれないけど、スティーヴン・フリアーズ監督と撮った最新作に「あなたを抱きしめる日まで」があります。ゲイ映画から英国女王まで自家薬籠中にする監督とデンチが組んだ同作。書ききれぬほど多くの国際的映画賞の受賞・ノミネートに上がりました▼本作の舞台は1937年のロンドン。第二次世界大戦がイギリスにも重い黒い影を落としていました。莫大な遺産を夫から受け継いだ70歳のローラ・ヘンダーソン夫人(ジュディ・デンチ)は、財産の使い道を友人に相談するが、社交界の夫人たちの答えは刺繍とかチャリティとかばかり。しぶしぶやってはみたがアッという間にやめてしまう。たまたま車(クラシックなロールス・ロイス)で通りかかった街の一画に劇場が売りに出ていた。その名も「ウィンドミル」(風車)。夫人は即決で買い取り支配人を公募、やり手のユダヤ人ヴァンダム(ボブ・ホスキンス)を採用する。自信満々、ヴァンダムは劇場のことは自分に任せてもらうというが、今までいわゆる世間というものを知らなかった夫人は劇場運営が面白くて仕方ない。ヴァンダムにこっぴどくいやがられながらも首をつっこむのをやめない。ヴァンダムも負けておらずこのオーナーに「出入り禁止」を言い渡すが、夫人はクマの着ぐるみに変装してまでリハーサルを見にくる。丁々発止である▼好調な「ウィンドミル」のプログラムを真似する劇場がふえ、新鮮味がなくなって客足が落ちた。夫人はプロモーションの原点は差異化にありと、どこにもない出し物を考えつく。女性を裸で舞台に送り出そうというのだ。ヴァンダムは一笑に付すが夫人は真剣だ。彼女には人に打ち明けていない「女性の裸」への思い入れがあった。ヴァンダムを尻目に夫人は当局の責任者クロマー卿に直談判する。「美術館に女の裸はいくらでもあるわ。劇場で裸になったらなぜいけないの」「絵画も彫刻も動かないだろ」夫人の友人でもある卿は汗だくで説明する。「静止させたらいいのね。絵画みたいに」「無理だよ。下の方のアレはどうする。女性自身さ」「ああプッシーね」「せめて陰部とくらい言えよ」「あなた前世紀の遺物みたいな人ね。そのほうが卑猥よ。照明でごまかすし毛は剃るからいいわ」夫人はとうとう「舞台の上で絶対に動かない」条件で許可をとりつける▼裸になるだけで動かないし歌わないのだから演技力は関係ない。夫人とヴァンダムはとびきり「いい女」を求めてスカウトに出る。一目で気にいったのが田舎町の娘モーリーン(ケリー・ライリー)だった。5人の娘が集められたが、リハーサルでみなためらった。モーリーンが言った。「このご時勢でほかにどんな職があるの。男の前なら脱ぐでしょう。医者の前でも脱ぐじゃない。服を脱ぐだけよ」女たちは口々に言い出した「わたしらだけ脱ぐのは不公平よ。脱ぐならここにいる全員で脱ぐべきだわ」多勢に無勢。照明係だろうと大道具だろうと支配人だろうと、男たちは全員スッポンポンにさせられた(吹き替えなし、正面からのフルヌードです)。度胸がついた女たちはヴァンダムが腕によりをかけた演出で初日を待った。事前の検閲にきたクロマー卿は本番を前にした女たちの裸の美しさに絶句。「よだれがでているわ」と夫人。「ばかいうな」いい返す声もかすれがちだ。ミステリアスなライティングに浮かび上がる、しなやかな彫像のような女たちの肉体に、ロンドン中の男たちが我を忘れておしかけた▼ロンドンは連夜の空襲を受け小屋主たちは劇場をつぎつぎ閉鎖した。ひとり「ウィンドミル」だけが、安全のため上演場所を地下に移し、それでもヌード・レビューを続行する。踊り子たちは「くたばれ」と裏ピースを出して心意気を示す。夫人は劇場を開放してスタッフたちが寝泊まりできるようにした。夫人は21歳の若い兵士がモーリーンに好意をよせていることを知り、尻込みするモーリーンの背中をおす。モーリーンは妊娠し兵士には恋人がいることがわかった「男はみな同じよ、結局遊ばれただけよ」とすさむモーリーン。ヴァンダムは夫人に「あなたは世間を知らなさ過ぎる」と言った。モーリーンは空襲で死んだ▼ある日クロマー卿が当局の部下数人とともに劇場にきて閉鎖をいいわたす。理由は「人が集まりすぎて危険」。開演を待つ客たちが劇場を取り囲み引き下がろうとしない。夫人は小さな踏み台にのって背を伸ばし「みなさん」と声をかけた。「わたしの息子は先の戦争(第一次大戦)のフランス戦線で戦死しました。21歳でした。遺品を整理していたら女のヌード写真がありました。息子は本物の女の裸を一度もみないで死んだのです。あまりにも切ない人生です。犬死です。若者の犬死はこりごりです。息子と同じ目をさせたくない。せめて若い人に贈り物をしたい、彼らが命を捧げるなら、わたしは喜びを捧げるのが役目だと思いました。人だかりがそんなに悪いことなのですか。おととい来い、よ」客もスタッフも警官さえ拍手喝采したではないか。そしてウィンドミルの風車は回り続けた…▼夫人は戦火のさなかにも劇場の扉を閉ざさず、終戦を目前にした1944年75歳で没しました。彼女は飛行機の免許を取り自家用機を飛ばし、思いついたらフランスまで飛んで息子の墓に参ったりします。社交界はどうも苦手だったようで、所有地の池でひとりになってボートを漕ぐ習慣があり、革新的であり、行動力があるだけでなく、孤独と思索を求める女性として描かれています。事実そうだったのでしょう。舞台運営への介入も、支配人のやりかたに干渉するというより好奇心がおさえられない、ゆえに白クマに変装して劇場に行く、支配人はロールスロイスに乗り込む着ぐるみのクマをみて(ハハン)と察しをつけます。このあたりの役者ふたりの阿吽の呼吸は絶妙でした。派手なようにみえて抑制のある、また抑制のなかにも華のあるデンチの演技と温かい監督の作り込みに堪能します。

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