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特集「男前」

2015年2月22日

特集「男前2」 ジェシカ・タンディ カミーラ/あなたといた夏(1994年 家族映画)

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監督 ディーバ・メータ
出演 ジェシカ・タンディ/ブリジット・フォンダ/ヒューム・クローニン

勇気と自信を与える女性 

 ジュディ・デンチをイギリス演劇界の至宝とまで書くと「ならばこの女優をどうしてくれる」と文句のありそうな方がきっとおられると思いましてね、急いで「ジェシカ・タンディ登場」としました。タンディは1994年9月11日、85歳で没しました。80歳でアカデミー賞主演女優賞を受賞したのが「ドライビング Miss デイジー」。素晴らしい映画でしたよ。翌年「 フライド・グリーン・トマト 」で同賞助演女優賞にノミネート。骨の髄までの演技派、というより、演技するのが好きですきでたまらない、という、掛け値ない愛情がこの人の映画を豊かにしています。本作は彼女の遺作ですが、これよりあとに公開された「 ノーバディーズ・フール 」もタンディに捧げられました。雪の僻村で人生を棒にふったままグダグダ暮らしているダメ男をポール・ニューマンが、彼を中学生のとき教えた先生がジェシカ・タンディ。ポール・ニューマンを自宅の二階に居候させ、ほうきの柄で天井をガンガンつついて用を知らせる。およそ人生の成功に見放された男が、自身家族や健康にトラブルをかかえながら、どんなときも屈託のないタンディ先生の「万馬券」になって生きていこうとする。その人の存在そのものが人を励ます聡明な女性を、タンディが演じました▼代表作はもちろんミス・デイジーでしょうが、「フライド・グリーン・トマト」も特筆ものでした。白髪で腰を曲げゆっくり歩いてくる彼女をカメラがとらえ、アップになった途端ウソみたいに双眸がきらきらと輝く。こんな年寄りってアリかと思いました。共演したキャシー・ベイツ、メアリー=ルイーズ・パーカー、メアリー・スチュアート・マスターソンといっしょに写した写真があります。痩せて鶴みたいでキャシー・ベイツの半分くらいの細さです。82歳でした。晴れやかな笑顔をみせる女優たちに囲まれ、特に笑うでもなく、さりとて不機嫌というのでもない自然な表情です。さて、これくらいにして本作に入らないときりがないですね。それほど書くことの多い人なのです。カミーラ(ジェシカ・タンディ)とはヒロイン、フリーダ(ブリジット・フォンダ)が休暇をすごすために行った、ジョージア州ピーボ島でめぐりあった元ヴァイオリニスト。ブラームスの難曲ヴァイオリン協奏曲に情熱を傾け世界各地で演奏した。今は映画製作者である息子と同居している。フリーダはある日ヴァイオリンの音に惹かれその家を訪問した。現れた白髪の女性は音楽が好きだというフリーダを喜んで招き入れた。フリーダはバンドを作り作曲もするが鳴かず飛ばず。夫は映画の仕事がもらえたからとトロントに帰った。フリーダは引きこもりみたいに島に残りひとりになっていた▼ブリジット・フォンダってなんでこう憂鬱な役が多いのでしょうね。映画界のサラブレッドにしては珍しく控え目。キャリアも名声も恵まれ放題なのにガツガツしない性格が、彼女をあえて二番手、三番手に回らせている。ディーバ・メータはインドの女性監督です。日本未公開でDVDにもなっていませんが、ゲイをテーマにした「炎の二人」があります。みていないのでなんとも言えませんが、少なくともこの映画にある世代を超えて理解しあう女同士には、監督のユーモアとやさしい視線が注がれています。映画の「陰」をブリジット・フォンダが、「陽」をジェシカ・タンディが受け持ちました。逆だとドツボですね▼フリーダから失敗ばかりの過去を聞いてもカミーラは動じない。そんなものがなんになる、大事なことは今の自分だと断言する。カミーラの自信にあふれた態度と生き方にフリーダは引きつけられる。カミーラには恋人がいたが結ばれなかったという別離がある。トロントの演奏会場でふたりは別れたまま年月がたった。トロントで行われるコンサートに、カミーラが行きたいというのでフリーダはいっしょに行くと決める。ロードムービーである。車がフェリー(と言ってもボロのボート)から海中にすべり落ち、ヒッチハイクのふたりは途中で詐欺師にあい、つぎつぎアクシデントに見舞われる。宿泊した海辺のホテルでカミーラは釣りをしたいといい、竿とビクをもって海辺に行く。フリーダはエサのつけかたから教えてやる。大きな魚がかかってカミーラは満足、放してやってくれと頼む。魚を海に返してふりむいたフリーダは仰天。「なにをしているの!」素裸になったカミーラが「泳ぐのよ」と海に走っていくのだ。フリーダは大笑い。ためらわず自分も脱ぎ、水平線まで光る海に入っていく。母親と妻が家出し行方不明となった息子と夫は途方にくれ、警察に捜索を要請する。地元警察の責任者はケロリ。「心配ない、気がすんだら帰ってきます。要は」(ト夫に向き)「あなたは奥さんから逃げられたわけです」▼旅の途中駅舎のベンチで泊まることになったふたり。カミーラが「この話はしたかしら」「聞いたような気がする」そのうちフリーダは眠りに落ち、ヴァイオリンの音色でふとめがさめた。だれもいない駅舎のホールでカミーラがヴァイオリンを弾いている。ゆったりと響く自足した音色と演奏者に、フリーダもまたなにかの僥倖を得たように自足する。このシーンよかったですね。ジェシカ・タンディ85歳ホントに最晩年の映画でした。実生活の夫であるヒューム・クローニンが別れた恋人役で出演しています。劇中ふたりは再会し今度はまちがいなく結ばれる。フリーダは勇気と自信を取り戻す。なにをするかわからない「トンデモ母親」と、これまたなにをするかわからない「不安定妻」におろおろする男ふたりのうろたえぶりと温かみもよく出ています。ハッピーエンドをただのおめでたい映画と思わせなかったのは、ジェシカ・ダンディのすでに透明感を感じさせる演技と、ブリジット・フォンダにもともとそなわっている落ち着きでしょう。

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