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特集「男前」

2015年2月27日

特集「男前2」 グウィネス・パルトロー シルヴィア(2003年 伝記映画)

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監督 クリスティン・ジェフズ
出演 グウィネス・パルトロー/ダニエル・クレイグ

黒い略奪者 

 シルヴィア・プラスは1932年ボストンに生まれ、1963年30歳で自殺した女性詩人です。シルヴィアをグウィネス・パルトロー、夫の詩人テッド・ヒューズをダニエル・クレイグが演じました。フルブライト留学生となってケンブリッジ大学に学ぶシルヴィアは、テッドの詩を読み感銘を受け、ふたりは急速に接近し4ヶ月後に結婚しました。テッドは文学賞を取り新鋭詩人として世間で認められる。彼を連れてボストンの実家に帰ったシルヴィアに母親はうれしそうではない。彼女は詩作を理解しない女性たちをかばってテッドに言います「無礼を許してあげて。彼女らはあなたのように幸運じゃないの」「僕が幸運とは」「自分の夢のために闘えること。だから娘はあなたに恋した。今まで娘を脅かす人はいなかったし、娘のほうが男を脅かした。娘はあなたに脅威を感じて恋をしたの。3年前娘は自殺を試みたの。穴にもぐりこみ死を待っていた。やさしくしてやって。どんなときも」▼母親は娘の運命を予感していたのでしょう。当時は女が自分の自我や才能を発揮するには重圧があること、さりとてシルヴィアが家庭に入り、妻となり母となるだけでおさまりきれる女であるか、母親には不安だったこと。シルヴィアに初めて会った時テッドは「君は美しい。君は才色兼備だ」と言い、それに対しシルヴィアは「そうよ」傲然といいます。美しく才能もある、娘が自分をそう信じる女であることを母親は知っていた。シルヴィアにはこの先わずか10年たらずの生しかありません。ごく一部の人の間で彼女の詩は認められましたが真価が認められたのは死後です。没後29年にしてピューリッツア賞を受賞しました。彼女の詩はほとんど晩年に、それもテッドと離別してから書かれたものです。テッドの創作を支える妻としてシルヴィアは健気に尽くしました。ふたりの子供が生まれ母として育児と家事にひたむきだった。文壇に認められたテッドは妻の才能が家庭に埋もれるより「詩を書け」と励ますのですが、現実の生活で机にすわる時間も本を読む時間も、集中して詞藻を練る時間もないシルヴィアに(経済的にも充分ではなかった)「書け」という激励は彼女を追い詰めるだけでした。ましてシルヴィアは生活詩を書く女性ではありません。彼女が認められるきっかけになった傑作「ダディ」は、女を抑圧する社会の仕組みに呻く黒い心の詩です。魂のしたたりでした▼数少ないシルヴィアの読者に女性画家のアッシアがいました。彼女は「あなたの詩は美しく恐ろしい。まるで取り憑かれている」と評し「最高の批評よ」とシルヴィアは感激します。家族ぐるみで付き合うようになったものの、テッドがアッシアと不倫。詩に駆り立てられ、神経が鋭くなったシルヴィアのとんがった対応に、テッドは家の中での自分の居場所を見いだせなくなっていました。シルヴィアはテッドと別れひとりで子供を育てます。夫と家庭からの「解放」とでもいうのでしょうか、「彼が去っていまがいちばん幸せよ。やっと書けるのよ」シルヴィアはとうとう自分だけの船「シルヴィア号」の帆をあげた、意欲的な創作は続くはずでした。シルヴィアの人生をみると、聡明でしっかりした、真面目で努力をいとわない女性を、罠のように襲う神経の不安が痛ましいほどです。彼女とテッドは愛し合っていた夫婦です。言葉が光るようなシルヴィアのこんな台詞があります。「わたしたちはふたりじゃない。出会う前からお互いは半分だけの存在だった。相手の形をした空白をかかえ、出会えてやっと完全な姿になれた。でも幸せに耐えられず、また半分ずつ引き裂かれてしまった」。シルヴィアがズタズタになったのはアッシアが妊娠し、テッドに子供が産まれることを知ってからでした。シルヴィアはうちのめされます▼シルヴィア・プラスを始めとして、1960年代のアメリカの女性詩人の台頭は、社会に新しい息吹を吹き込みました。男性との性的関係から受ける傷、狂気、欲望、妊娠、中絶、母性、同性愛など女性のセクシュアリティの深層を表現する作品が世に問われ始めました。社会からはじき出されないために女が身につけていた、良き母であり妻であり娘であるという、生活者のペルソナを女たちは外し始めた。仮面をひきはがそうとする黒い天使は、ほかならぬ女自身の「もうひとりの自分」でした。それを「黒い略奪者」とシルヴィアは呼んでいます。母性と魔性は本質的に女にそなわる同一のもの、コインの裏表だとシルヴィアの詩は告白します。自分の胸の奥深くに息を潜めていた魔性を彼女は解き放った。暴力的でエゴイストで、自他共の犠牲をも顧みない「黒い略奪者」に肉体をのっとられたかのように、彼女は自らの命を断っています。神は命という代償なしに天才を与えないのかもしれない。しかしシルヴィアの30年の生涯を思うとき「自分の夢のために闘った」魂の栄光に、幸福と充足と満ち足りた感慨を覚えるのはわたしだけでしょうか。

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