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特集「ベストコレクション」

2015年3月3日

特集 弥生3月/ベスト・コレクション 8月の家族たち(2013年 家族映画)

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監督 ジョン・ウェルズ
出演 メリル・ストリープ/ジュリア・ロバーツ

きれいごとでない愛 

 濃厚な放射能を浴びせあうような母娘の愛憎関係ね。インコが3羽立て続けに暑さ負けで死ぬような酷暑の夏。父失踪の知らせを受け、オクラホマの実家に娘3人が帰ってくる。母親バイオレット(メリル・ストリープ)。夫ベバリー(サム・シェパード)。長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)。その夫ビル(ユアン・マクレガー)。その娘ジーン。次女アイビー。その恋人リトル・チャールズ(ベネディクト・カンバーバッチ)。三女カレン、その恋人スティーブ。バイオレットの妹マティ・フェイ・エイケン、その夫チャールズ。母親は口腔ガンの治療薬を服用中、カーテンを閉め切った部屋に閉じこもり舌が焼けつくような痛みを訴えている。夫ベバリーは溺死体で発見、自殺と判断された▼長女は母親から逃げだした。夫は若い女と浮気し別居中だ。娘も身勝手な高校生、バーバラも生きがいを見つけられない半端な人生を送っている。次女は家に残って両親をみているが秘密の恋愛が進行中。三女の男の趣味は最悪でいつもろくでもない男を連れてくる。今回の男も早速高校生のジーナにマリファナをいっしょに吸おうと近づくようなやつ。父親の葬儀をすました一族は母親の家に集まる。メリル・ストリープは抗癌剤の副作用でバラバラに抜けた白いアタマに真っ黒なかつらをかぶっている。異様なほど盛り上がった黒い髪が怪獣みたいな相を呈する。夫は残した遺言により遺産は自分が相続するとバイオレットが宣言する。家具や調度でほしいものがあれば持って行ったらよい、銀器は安く売ってあげると付け加える。長女はそれには及ばない「ママが死んだらタダで持っていく」と答えさすがに制止されるがママは悠然と受けて立つ▼母親の性格の悪さは家族たちの一致するところだ。なぜそう何にでも攻撃的なのかと一言尋ねると「フン。攻撃とは頭蓋骨がへこむほど父親に殴られて育つこと」だと言う。要は「わたしはお前たちにそんな攻撃などしたことがない」と言いたいのであり、4歳から10歳まで6年間トレーラーで暮らすような貧しさがお前たちにわかるはずがない、自分も夫もそんなひどい生活をお前たちにはさせなかった、だれのおかげだ、なにもわかっていないくせにえらそうな口を叩くなと底光りする目で睨む。メリルの怖くなるような目力です。バイオレットのセリフをいくつかあげます。長女バーバラに「わたしがガンになったときは帰ってこなかったのに、ビバリー(父親)が失踪だと聞いたらすぐ帰ってきたわね」お前ってつまりそういう女ね、といいたそう。妹に「男は年をとっても性的魅力を保てる。女は太ってただ老いてシワができるだけ。あなたは濡れたダンボールみたいね。男を誘惑できないわ。わたしはできるけど」。夫については「50年以上アル中だった。ラム酒1本飲んで演壇にあがったとたんに漏らし、同窓会には二度と招かれることはなかった」。三女に「若い女に勝ち目はないわ。女は年をとると魅力を失うのではなく醜くなるのよ。あんた自身が証明している」。次女に「昔から負け犬に弱いのよ。やさしくていい子だけど強さがないの」母親の毒気に負けてみな家をでるはずだ▼しかしこの映画の分厚いところは、まるで全員が敵同士のような家族間に張り渡された異様な緊張のなかの愛だ。ジョン・ウェルズ監督はいっさい説明ぬきでそれをぶつけてくる。一同揃ったテーブルで母親の毒舌をいきなりさえぎった長女は「それをよこしなさい!」と叫ぶ。母親が浴びるように服用する鎮痛剤と抗癌剤だ。抵抗する母親にとびかかって椅子ごと床に倒し腕ずくでとりあげる。医師のところに行き母にこのクスリを処方したのはあなたか、一体なにに利くのか、母の痛みは治まらず幻覚に近い挙動がある、クスリは一時中断すると断言し、家中のクスリを棄ててしまうのである。母親はわめきちらし泣きつかれて眠る。次女は恋人のことで話があると打ち明ける。恋人とは従兄弟のリトル・チャールズだ。いとこ同士だしもうすこし時間をかけたらどうかと姉は忠告する、叔母(つまり母の妹)に、ふたりは結婚したいというのだが、と相談すると彼女マテイ・フェイは「絶対にだめよ」強硬に反対する。いとこ同士だからかと聞き返した長女に「いいえ。姉弟だから」。父が義理の妹と不倫していた。バーバラは激しく動揺する。なにも知らない次女は母親に結婚してこの家を出て行くと告げにくる。バーバラはあわてる。ホントのことを知らせるべきか、知らせないでおくべきか▼バーバラはとにかくここではまずい、時間をかせごうとする。アイビー(次女)「ママ話があるの」。母親「なに?」。長女「ママ、料理ができているわ、ナマズ料理よ、おいしそうだわ」母「話ってなに?」次女「わたし、好きな人がいるの」長女「レスビアンだって!」次女「ちがうわよ」必死で話をそらそうとする長女に「静かになさい」と珍しく冷静に母。次女「大事な話なの」。長女「ママ食べて! ナマズを」母「?」長女「食べて、食べて、魚を食べて!」アイビーは長女の邪魔立てに癇癪をおこし料理のサラを床に叩きつける。長女「なにするの! 壊しっこね。いいわよ」負けずに皿をガシャーン。それをみた母親までいっしょになってガシャーン。あっちでもこっちでもガシャーン。長女ハアハア息をきらしながら、次女に「あんた、もう壊さないの?」。チャールズと、といいかけた次女にうつむいたまま独り言のように母が「姉と弟よ。知っていたわ」沈黙。母「昔から知っていたわ。だれもわたしをごまかせない」全員杳として声なし▼次女はショックで家から飛び出す。長女はパジャマのまま走り妹をよびとめようとするが車は走り去る。家に戻る。母親は「アイビーがああなったのはお前に責任がある」と矛先を向ける。「お前が家から逃げて出ていきあの子がわたしたちの面倒をみるしかなくなった、それでおいつめられて出口を探していた、あの子はお前ほど強くない」バーバラはずけずけ本当のことを言われ怒り心頭に発する。母親の怒りはでもほんとうはちがうところにあるのだ。「大統領にもなれるお前がつまらない男とつまらない人生を送っている」。母親は母親なりに娘が誇りだったのでしょうね。愛情の表現はまずかったけど。次女にしても長女にしても、母親に我慢できず家を出たものの行き先のあてはない。次女の関係も今のままではいられないだろう。長女にしても夫と離婚して張り合いのない人生をどこでどうつづけるのか、インコが焼け死ぬような乾いた実家に戻り母親を施設に預けるのか、娘は娘でマリファナ漬けだ。でもバーバラは娘にこう言う「私より先に死なないで。なにをしようがどこへ行こうが、人生をぶち壊そうが自由よ。ただ生き抜いて。お願い」。恋人同士でもない、友達同士でもない、家族でしかわからない混沌とした愛情がここにある。きれいごとでない家族愛がよかった。

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