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特集「ベストコレクション」

2015年3月5日

特集 弥生3月/ベスト・コレクション 鑑定士と顔のない依頼人(2013年 ミステリー映画)

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監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
出演 ジェフリー・ラッシュ/シルヴァ・フークス/ドナルド・サザーランド/キルナ・スタメル/ジム・スタージェス

偽りのなかの真実 

 惚れ惚れする映画だわ。封切りと時を同じくしてみたのだけど、実に面白くて、何回かみているうちにもうそろそろ書かなくちゃ、と思ったの。「海の上のピアニスト」以来、わたしジュゼッペ・トルナトーレのファンです。アレキサンドル・アジャ、デヴィッド・クローネンバーグ、ミヒャエル・ハネケみたいに、おおっぴらに好きだというのがはばかられる監督とちがい、トルナトーレのまっすぐなこと。本作のような複雑かつ繊細なミステリーであっても、彼の直球勝負は気持ちいい。もちろん前述した変態奇人三人組だって、彼らなりに脇目もふらず大真面目であり、純であることはまちがいありませんが、なんといってもあんな男たちのような変わり者じゃありません。本作の主人公がひとり女を待つ哀切のラスト。クリエイトする「豊かさ」と晴朗な「わかりやすさ」にあふれています。人物造型でいえばジェフリー・ラッシュの登場が(おお出てきたな)なんて、はまりすぎているあまりクスッとなります▼粗筋はあまり書きたくないですね。プロセスを追うワンシーン、ワンシーンがたくらみに満ち、小指の先ほども「だまされる」などと思わないうちにどっぷり罠にかかっています。語り口の妙、陰に陽に変化する人物のキャラ、巧緻精彩な大道具、小道具。西洋美術史700年に及ぶ知識と博学に裏打ちされた芸術作品の収集、その絵画がすべて女性の肖像画であるという偏愛。重厚なインテリア。まがまがしい屋根裏部屋。屋根裏という空間がかもしだす日の射さない精神の小部屋。ゼンマイの小さな部品から組みあがっていく細い金属の立体は迷宮の案内人。名品を競り落とす白熱の攻防と、その現場を仕切る世界的名声のオークショナーにして超一流の鑑定人、これがヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)だ。いきつけの高級レストランには、彼の頭文字入のワイングラスや食器、とびきりのメニューが特別席に用意される。彼はいつもひとり黙って席につき、テイスティングして目で(よし)と合図する。給仕はすべるように去り、彩りもあざやかにちりばめた、宝石のような料理を目の前に置く。いちいち入念である▼鑑定人の世界で頂上に立ち、富も盛名も栄華を極めた主人公が廃人に至る物語がひとつ、廃人から立ち上がる愛の物語がひとつ、愛と裏切りをつなぐ復讐のトリックがひとつ。この三本が本作の主柱です。劇中いたるところに伏線が張られ、なにげないセリフでこの映画のテーマが語られます。監督自身も表明していることですからこれくらいはいいと思いますのでひとつだけ。「偽物のなかに本物が、偽りのなかにも真実がある」。クレアとはヒロインの名前です。演じるのはオーディションで監督が一目みて決めたというシルヴィア・フークス。ところがもうひとりのクレア(キルナ・スタメル)がいます。依頼人の屋敷の向かいにあるバーの片隅にすわり、一日中数字を数えている悪魔的な記憶力をもつ小さな女性。彼女こそ屋敷の真の持ち主だった。これがわかった時点で映画は急旋回する、そんな重要人物のセリフは終始一貫数字でして、そのつぶやきがまるで「声の小道具」のようにぴったり場面におさまるのです▼もうひとり最重要人物ともいうべきこの人。オークションでヴァージルと組み、最安値で傑作を落札させる仕掛け人ビリーに怪優ドナルド・サザーランド。すばらしい俳優ですよ。彼は才能がありながら贋作描きに甘んじている。彼をコンプレックスのかたまりにしたのはヴァージルともいえます。決して彼の絵をほめないのです。スペインには政府が認める贋作画家養成所まであるくらい、贋作は立派な技術であり芸術です。ヴァージルはさんざん彼を都合よく使い、裏の手もつかって逸品を収集したにちがいない。だからね~差し障りのないかぎり人はほめたほうがいいと、あのずる賢いゲーテも言っているじゃないですか。ドナルド・サザーランドが人のよい偽画家、生きる覇気を失った芸術家の成れの果てという巨体をゆすり、ヴァージルからはした金をもらう。でもね、ケチつけるわけじゃないけどほとんどの映画ファンは、ドナルド・サザーランドが出てきた以上このままではすまないな、と思っちゃうから、ある意味ミス・キャストじゃない(笑)▼オートマタについて。からくり人形のことです。屋敷の地下室で拾った小さなネジみたいな部品に価値を認めたヴァージルが、機械職人のロバート(ジム・スタージェス)に復元を頼む、ロバートはヴァージルが屋敷のあちこちから拾ってくる部品をつなぎあわせ、足りない部分は自分の想像で補い、金属の線がからみあった人形をくみたてる。これがからっぽの部屋でヴァージルをあざ笑うように置き去りにされていたシーンはシュールですね。全財産を失ったヴァージルは心神喪失し施設に収容される。口も利けない彼を昔の忠実な秘書が見舞う。彼は一通の手紙をわたす。それを読んだヴァージルの目に光が宿り、弱り切った肉体にムチ打ってリハビリにとりくむ。最後にもうひとつ劇中でいわれるキーワードを。

 「なにがあってもあなたを愛しているわ」

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