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特集「ベストコレクション」

2015年3月12日

特集 弥生3月/ベスト・コレクション エヴァの告白(2014年 事実に基づく映画)

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監督 ジェームズ・グレイ
出演 マリオン・コティヤール/ホアキン・フェニックス/ジェレミー・レナー

闇の中にも光はある

 マリオン・コティヤールってなんでこうシリアスな役が多いのだろう。カトリーヌ・ドヌーブとマリオンは、奇しくもエール・オンラインの読者投票(2014)で1,2位だった。時代や年齢に左右されないタイムレスの女優としてじつに評価が高いのだ。持ち味はでも全然ちがうね。マリオンにドヌーブのあの泰然というか、動じないというか、フリーク(変態)好みというか、大まじめにとぼけるというか、物好きで物狂いなところがあればもっとおもしろいのにと思うのはわたしだけか。凛として繊細で、洗練されていて整っているわ。だからエディット・ピアフを演じたように、規範になるものがあって、かつ自分のスキルを存分に発揮する、デフォルメできる役に強いのよ▼本作を見ていて、主人公が痛ましかったわ。このヒロインの身の上にいいことが起こる、そんなことがこれからあるのだろうか、という暗澹とした気持ちになる。映画は始まって半分以上、陰々滅々とした鉛色のトーンで進んでいきます。1921年、戦火のポーランドから逃れ、妹を連れてアメリカを目指したエヴァ(マリオン・コティヤール)は、エリス島の入国管理局で足止めされる。迎えにくるはずの身内がいない、妹は重度の結核、本人は「素行が悪い」という理由で強制送還されそうになる。妹は隔離病棟入りで、半年で軽快しないときは送還。原題は「移民」です。エヴァは移民局に居合わせたブルーノ(ホアキン・フェニックス)にすがりつき、ニューヨークに渡る。ブルーノははやくいえば女衒である。エリス島に出入りし、入国できない独身の女性をみつけてはキャバレーの踊り子として囲い込む。彼女らを舞台で踊らせる一方で売春の斡旋をする。エヴァはブルックリンにいた叔父と叔母の家を探し当てたものの、対面をかまう叔父はエヴァを不法入国者だとして警察に突き出す。移民とはどんな扱いをされたか。エリス島は自由の女神のあるリバティ島の近くにある小島。1892年から1954年まで移民局があり、千数百万人の移民の入国審査が行われた。現在のアメリカ人の40%にあたる人口の祖先がエリス島から入国した。日本人もそのなかにいる。一等、二等の乗客は埠頭から入国できたが、貧しい三等の乗客は全員エリス島に上陸した。健康をチェックされ、身柄を引き受ける家族はいるか審査され、労働に耐えられない病気や犯罪歴があると強制送還された。三等船室の環境は劣悪だった。船底の部屋は不潔で食べ物もなくスシ詰めで、みんな獣のように寝起きし、女はレイプされた。エヴァも暴行を受け、それが「ふしだらな女」として「素行不良」の烙印になったのである▼ブルーノは確かにエヴァを騙して娼婦にしたのだが、悪辣な男ではない。「いまなら断れる。もし君がいやなら(男に)帰ってもらうが」とか「お針子の仕事もある」とか、少なくとも選択肢は示した。ブルーノ自身がエヴァに惚れていたからだ。エヴァは妹をエリス島から取り戻すためにかなりの大金が要った。縫い子ではおっつかない。エヴァは腹をくくる。客を取るたび「わたしの分を返して」とブルーノから取り立てるエヴァに感傷はない。エヴァはブルーノを蔑み、そんな男に頼らねばならぬ自分を蔑みながら、必死で生き残ろうとする。ブルーノにオーランド(ジェレミー・レナー)という従兄弟がいた。実在の手品師がモデルだ。トラブルメーカーであるこの従兄弟をブルーノは毛嫌いしているが、あろうことか彼もまたエヴァを愛するのだ。劇場主は人気のあるオーランドをショーに雇う。ブルーノは劇場主と喧嘩し女たちを引き連れ劇場を辞めてしまう。本当の理由はオーランドとエヴァを引き離したかったのだろう。エヴァは気の優しいオーランドにいたわりを感じていた。彼はエヴァに「君は自分の仕事を恥じることはない。母が言った。神の目はスズメにも注がれると。幸せになる権利は君にもある」。しかし彼女にとって愛だの、恋だのは別世界の玩具に等しい。目的はただひとつ金である。両親はポーランドで殺され、この世の家族はたったふたりになった妹と、アメリカでつつましく暮らせたらそれだけでいいのだ▼エヴァをめぐる諍いでブルーノはオーランドを殺してしまう。容疑はエヴァにかかり移民で、しかも不法滞在のエヴァがどんな釈明をしても通らないと知っているブルーノは、エヴァを逃亡させようとするが、妹がいる限りエヴァはニューヨークを離れない。エヴァをつれて隠れる途中、ブルーノは警官に追われ大金(移民局の担当者への賄賂)をまきあげられ、自分は重傷を負う。エヴァは最後の手段として叔母の家を訪ね、二度とここへはこないという約束で金を出させる。ブルーノはエヴァを小舟に乗せ、エリス島に連れて行く。実際にロケされたエリス島の隔離病棟とはまるで墓地である。人の声も気配もない石の部屋でブルーノとエヴァが待っている。「ここに切符がある」とブルーノが差し出す。「これで汽車に乗り、妹とカリフォルニアに行き新しい生活を始めろ」「あなたは?」「おれは行かない。おれが行ったらあいつらはしつこくおれを追ってくる。おれもこの町も忘れるのだ…あごがグラグラする。骨が折れたのかもしれん」▼妹のマグダが係員に先導され病棟から出てくる…ここですけどね、走ってくる妹がなんだか元気そうなのよ。隔離病棟も劣悪な環境だったとは思うけど、結核患者ばかりでしょう、一日二度か三度、食事はきちんと与えられ、一応の手当は受けるはずよね。女子ばかりで、エヴァみたいにレイプされることはなかっただろうし。娑婆にいた姉さんのほうがよっぽどひどい目にあっていたわよ。客を迎えるエヴァの目がいつしかキッと強くなっていくのね。嘆いているヒマなどない。身を売ることで目的を達するなら売ろう。移民という過酷なサバイバルで、エヴァは闇の中にも光があることを信じたのよ。ボートにのって妹とふたり、エヴァがエリス島を離れるラストに「神の目」が注がれることを思ったわ。

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