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特集「ベストコレクション」

2015年3月13日

特集 弥生3月/ベスト・コレクション インサイド・ルーウィン・デイヴィス (2014年 事実に基づく映画)

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監督 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演 オスカー・アイザック/キャリー・マリガン/ジョン・グッドマン

時代の裂け目にいた男 

 コーエン兄弟の映画はムキになってひねくると全然おもしろくない。この映画の副題は「名もなき男の歌」です。ズバリその通りであって本当に名もない男の、というより「名もなき男」と称するのが、それでもキザで大げさに聞こえるほどのダメ男の一週間なのです。時代と場所は1961年、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ。主人公のルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)は、コーヒーハウスのガスライトで「ハング・ミー」を歌っています。暗い、暗い歌で全然ビンビンこない。本人もそれをわかっているのですが、台頭してきているフォークのグループに対してあくまでギター一挺、ソロで歌う姿勢を保つ。金はないし家もない、友人知人の家を泊まり歩き、挨拶代わりに「ソファはあるか」と聞く。ソファさえあれば泊めてもらえるからだ▼大学教授のマンションに居候していた。お礼のメモを残して出て行くとき飼い猫の「ユリシーズ」が飛び出した。後をおいかけたとたん自動ドアがしまり、猫はつかまえたものの家に入れない。彼はギターと猫を抱いてニューヨークの町を歩く。こういうところがコーエン兄弟のいやらしさなのよ。摩天楼をバックに、うらぶれた男にわざわざ猫を抱いて歩かせるシーンの絵になるところが(笑)。先走りするようだけど、オーディションを受けにシカゴまで車を走らせる途中、同乗するドラッグ中毒の男(ジョン・グッドマン)が発作で倒れたとき、彼は男を放置するだけでなく、猫もいっしょに車においてきぼりにするのよ。こういうケチな男に芽がでないのは当たり前だわ。つきあっていたガールフレンドのジーン(キャリー・マリガン)は妊娠した。ジーンはルーウィンと別れジムとデュエットを組んでいる。彼らが美しいハーモニーで歌う「500マイル」にはヒットの予感がある。ジーンはルーウィンみたいな貧乏神とかかわったことが腹ただしく、忌々しくて仕方ない。「アンタがさわったものはみんなクソ。生き物と接触するな、クソ男、死ね!」。姉ジョーイがひとりで年老いた認知症の父をみている。父は介護施設に入っていた。たまには「父さんの見舞いに行ったらどう」と姉にいわれ「行ってきた。オレの末路を見たよ。オレはクズだ」姉「そうよ」自分をじっと見つめている甥に「叔父さんは悪い奴だ」甥は素直に「わかった」。「ほんとにクズね」と姉はあっさり再確認。シカゴでギター弾きをひとりさがしているとエージェントがいうのでルーウィンはでかける。プロデューサーに「一曲やってみろ」と言われ、レコードにしたが全然売れなかった、でも思い入れのある曲を歌う。聴き終わったプロデューサーは一言「金の匂いがせんな」とグサッ▼1961年というのはエルヴィス・プレスリーがデビューして全盛期を迎えた時期です。「監獄ロック」で嵐を呼んだ男。2年間軍隊に入隊したことでさらに人気を高め、除隊を待ち望んでいたファンの前に「G.Iブルース」をぶつけ黄金時代が沸騰していました。そのいっぽうで、聞いたこともない名前の妙な頭をした、イギリスの4人のグループがデビューしようとしていました。ビートルズです。「名もなき男」よ、ホントにキミはいったいどうする。本作はデイヴ・ヴァン・ロンクの回想録が元になっています。ロンクは2002年に没しましたが、残された膨大な記録をロンクの一人称でまとめた本が原作です。ロンクはボブ・ディランをはじめ多くの歌手に影響を与えました。コーエン兄弟は伝統のフォークが新しい音楽と衝突する時代の裂け目を、ルーウィン・デイヴィスという架空の人物によって描いています。見てきた通り、彼はまったくウダツのあがらない男で、恋人と姉に「クズ」と呼ばれ、かつそれを認めながらスタイルを変えないで「名もなき男」を選ぶ▼好きにしたらいいけど、いちばん可哀想なのは車に置き去りにされた猫ね。そんなことするくらいなら、わざわざ雪のシカゴくんだりまで、寒がりの猫を連れて出ることないのよ。動物をこういうクズ男のセンチメンタリズムに使ったってことで、ほんとはこの映画、気にいらないのよ。くりかえすけど、こういう内面(インサイド)なのだから、ウダツがあがらないのは当たり前だと思うわ。

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