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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年3月20日

特集 LGBT-映画にみるゲイ120
チェリーについて(2012年 ゲイ映画)

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監督 スティーブン・エリオット
出演 アシュレイ・ヒンショウ/ヘザー・グラハム

ゲイという選択肢 

 チェリー(アシュレイ・ヒンショウ)が目を覚ます。背中を抱いているマーガレット(ヘザー・グラハム)から腕をほどいて起き上がる。クローゼットからシャツを選び、袖を通す。このシーンはチェリーがマーガレットの部屋にきて初めて一夜をともにした夜のつぎの場面だ。だからマーガレットのシャツを借りるのかなと観客は思う。それにしてはものなれた様子だが。チェリーはキッチンに行く。マーガレットが起きてコーヒーを飲んでいる。果物を噛みながらマーガレットに軽くキスして、フルーツを選ぶのはやっぱりあなたに任せようとかなんとか、どうでもいいことを言いながら「遅れそうだから行くわ、今日の予定は?」とマーガレットに聞く。あとからオフィスに入ると彼女が答える。チェリーは出勤する。スタジオには新人が来ていた。チェリーが面接を始める。そうか。彼女はディレクターになったのだ。してみると彼女らはあの夜からいっしょに暮らすようになり同じ職場で働き、新入りだったチェリーは監督になったのだ。出会ってから何週間か何ヶ月か、ひょっとして何年かたっているのかもしれない。ふたりが迎える朝は静かで落ち着いていて、どっちもが笑顔でお互いを見ている▼チェリーとはアンジェリーナの源氏名だ。サンフランシスコに出てきてストリップバーのウェイトレスをやっていたチェリーは、桁違いの報酬でヌードモデルになる。屈託なく仕事をこなしているチェリーに、ポルノ女優の話が持ち込まれる。これまた破格のギャラだ。実家にはアル中の母親と幼い妹がいて、チェリーは妹が可愛くて仕方ない。破滅的な母親のもとからできればひきとりたい。監督が元ポルノ女優をやっていたマーガレットだった。スタジオにはいつも数人のポルノ女優が出入りする。チェリーは新入りだから慣れるために女同士のからみからやることになる。マーガレットがモニターをみながらテキパキと指示をだし、女たちはけっこうノリノリで「きょうのお相手はわたしよ」とか言ってさばさばと打ち解けている。マーガレットは彼女たちをいたわり、ギャラにも理解があった。チェリーは18歳。人が特殊視するこの業界に気軽に溶けこんでいく。高校を中退しなにも資格のない彼女が、お金のためにポルノに出るのは彼女にしたら自然だ。美人だし背の高いきれいな体である。屈託のないチェリーとともに、映画はエロにもグロにもならず、水彩画のようにさらさらと描かれていく▼チェリーに恋人ができた。弁護士のフランシス。チェリーは弁護士の彼氏が自慢だ。ところが彼はドラッグ中毒のチェリーの母親と妹がサンフランシスコに出てきて、いっしょに食事をする約束をすっぽかす。母親はアル中だが直感は鋭い。女が男を家族との食事にさそっているのに、どんな理由であろうと出てこないなんて、はや逃げるつもりだと図星である。フランシスはポルノなんか最低の仕事だ、汚らわしいとこきおろす。母親は母親で、妹がじつはガンなのだ、難しい手術でお金がいるとヒソヒソ声でチェリーに打ち明ける。妹可愛さのあまりチェリーは、お金は自分がなんとかして作る、心配しないでいいと妹を抱きしめる。母親が席を外すと妹は小声で「私どこも悪くなんかない」(え、え~?)とチェリー。これを実母による家庭内詐欺というのだ▼マーガレットも同棲している女性弁護士との関係が難しくなっていた。パーティに出席したマーガレットを弁護士が法曹関係者に紹介する。仕事は何かときかれ「映画監督よ」「なんの?」「アダルトよ」男たちはす~と引く。弁護士も最近マーガレットの気持ちが離れていっているのがわかる。索漠としたセックスを最後に、ある朝マーガレットが起きると弁護士の部屋はからっぽ。荷物をまとめて出て行ったあとだ。こういうときの「残された者」を、ヘザー・グラハムがうまく出していました。騒ぎもしない。泣きもしない。酒を飲むわけでもない。変わりなく出勤し変わりなく仕事し、変わりなく笑う。すべてをいつもどおり。灰色の雲が頭の上を通り過ぎるのを待つしかない。耐えるしかない。仕事帰りにバーに入るとチェリーがカウンターにいた。男弁護士と女弁護士にふられた者同士だ。母親から手紙がきてポルノ女優をやっている娘に失望したと書いてあったとチェリー。自分は母親から地獄に行くと言われたと打ち明けたマーガレット。マーガレットはチェリーに「こっちへ」と声をかける。もともと隣同士にすわっているのだから、物理的な距離を縮めるための「こっちへ」ではないですよ、ここの意味はね(笑)▼恋人は去り、家族ものけものにするポルノ業界に身を置き、女の恋人と同棲して生きていく。二重、三重のマイノリティを選択しながら、チェリーのキャラは重苦しくない。それはこの映画が軽いということにはならないと思う。冒頭に書いたシーンがとてもほのぼのとしているのは、自分の生き方を認め合える相手といっしょに、自分の性分にあった仕事と経済力を持ち、気持ちのうえでも無理なく生きていくのが自由だと思うし、だれにとっても幸福だと思うからよ。結婚がそうなってきたように、ゲイも人生の選択肢のひとつ、という視点をこの映画は示す。その示し方がひとつも息苦しくない。ヘザー・グラハムは42歳になりました。セリフが少なく、影のある、落ち着いたキャリア・ウーマンをしっくりと演じています。

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