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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年3月23日

特集 LGBT-映画にみるゲイ123
天才画家ダリ 愛と激情の青春(2008年 ゲイ映画)

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監督 ポール・モリソン
出演 ハビエル・ベルトラン/ロバート・パティンソン/マシュー・マクナルティ

天才の「小さな灰」 

 天才と自称してはばかることなかったダリだ。この映画でも有名になるには仕事でも私生活でも目立つことをしなければだめだと断言しているが、わざわざ断らなくてももともと目立ちたがりだった。マドリッドのフェルナンド王立美術学校の学生会館に、入寮するダリ(ロバート・パティンソン)が到着したとき、寮生だった先輩のフェデリコ・ロルカ(ハビエル・ベルトラン)やルイス・ブニュエル(マシュー・マクナルティ)は度肝を抜かれる。実家が裕福なダリは男性ファッション誌から抜けだしたようないでたち。フリフリのフリルのついた長い袖の白シャツ、ピンと張った細い口ヒゲ、柔らかそうなブーツに仕立てのいいチョッキ。不躾にジロジロ眺める好奇心丸出しの寮生の視線に快感を感じながら、そのくせニコリともせず玄関を入る。ダリは掛け値なしの美青年だった。17歳のこのときも美しかったにちがいない。美貌でなければ、いくら自分で自分を天才だとアピールしても、カリスマは生じなかったどころか、滑稽だったかもしれない。「この学生会館にはもう一人の天才がいる」とブニュエルがダリに紹介したのが詩人ロルカだ。この映画はロルカの伝記なのだ。主人公はロルカである。原題の「小さな灰」はロルカが名づけたダリの絵のタイトルだ。この映画は全然ヒットしなかったので、DVD化するとき「トワイライト」シリーズで人気の出たパティンソンを前面に出し、ダリを無理ムリ主人公にした邦題がつけられた▼ロルカの詩が劇中何編か紹介される。オープニングの詩がとてもいい「人の死を耳にすると/死が新しい靴をはいてはいあがってくる気がする/あとに残るのは緑の草原と灰色の空だけ」。ロルカはダリに熱い視線を注ぐ。「ぼくはサルバドール・ダリ。現代美術の救世主さ」ウザッタイほど自信満々のダリに、ロルカはぐんぐん惹かれていく。ブニュエルもダリもパリでなければ成功しないと燃えるのだがロルカはちがった。「僕の詩がフランス語でわかるか」とスペインを離れない。この時代のスペインはフランコ政権の内乱の只中だった。表現が厳しく制限された圧政のもとで、ロルカはとどまり自由を訴える▼ダリはロルカを「皮を剥かれた獣みたいに剥き出し」だと評している。ダリは自信過剰が嫌われたし、のちにシュルレアリズム運動から除名されたが、彼の「小さな灰」を見ると(確かにこいつ自分で天才だと言ってもムリないな)と思う。美術学校在学中に彼はロルカとスペイン北部カダケスに旅行した。海辺の夜。波打ち際で焚き火を焚きふたりだけで過ごす。ロルカは詩を書きダリは絵を描く。「小さな灰」はこのときの作品だ。ロルカがそう名づけた理由は「君の絵に描いた人物は80年後にはみな灰になっている。絵は本当のぼくらではなく、ぼくらの幻影であり亡霊だよ」だから。キャンバスの左半分に浮遊する大きなトルソ。バックは海の色。小さな魚や蛇や貝殻らしき個体がばらまかれ、人間の男の半面が砂地に埋もれている。極小化されたトルソの一部が何体か見えるが、ほとんどは灰色の砂だ。海色のバックには三角形や白いスジがふらふらと揺れ、海藻か、金属か、骨か、なづけようのない得体のしれない物体がこまかく散らばる。ひと目で好きになるか嫌悪で目をそむけるか、どっちかの絵だろう▼亡霊でも幻影でも、ダリもロルカも成功したからいいようなものね。ロルカは反体制派の詩人として銃殺されたけど、悲劇的な最期が人気を高めて現在に至っている。ダリはダダイズムの詩人、ポール・リュアールの妻ガラと出会い、ガラはポールと離婚、ダリと結婚した。78歳のときガラに先立たれたダリはそれ以後絵を描かなくなったというから、彼女はダリのミューズだったのだ。してみるとダリの生涯は幸せのうえにも幸せだったにちがいない。ロルカもこう言ってはなんだけど、ずいぶん勝手な男で、ずっとロルカとつきあっているマグダレナという恋人がいるのだが、彼女に対して実に愚痴っぽく「ぼくらの間に起こったことは何だったのだ。出会わなければよかったと時々後悔するよ」マグダレナは「あなたは道ならぬ恋だけど今のままじゃダメ。危ない橋は覚悟のうえで渡るのよ。あがくのよ。がむしゃらに生きなきゃ操り人形といっしょよ。お別れよ。わたし行くわね」よほど男前ではないか。いまでこそゲイだと明らかにできるけど、そんなことわかったら死刑だ、刑務所だという時代だから、クローゼットでないと仕方なかったとしてもマグダレナにとっては災難だったというしかない。そうそう、バイロンの詩の一節に「女は夜のように美しく歩く」…こんな水晶のような言葉を紡ぎ出せる男だけど、彼の私生活もはたの者にとっては災難というしかないものがあった。彼らの文学や芸術と、人間は別物だとよくわかる映画だった。

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