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映画監督特集

2015年5月11日

特集 監督 ジュゼッペ・トルナトーレ マレーナ(2000年 社会派映画)

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監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
出演 モニカ・ベルッチ

シチリアの女 

 モニカ・ベルッチを「イタリアの宝石」にした映画です。本作の一面、つまり12歳の少年レナートの、年上の女性マレーナ(モニカ・ベルッチ)への純愛は解説し尽くされていると思いますので、いちばんレナートを「いいやつだなあ」と思った部分にだけ触れますね。マレーナの、戦死したと思われていた夫が、右腕を失ったものの、故郷シチリアに還ってくる。村人たちは「真実は言えたものじゃないな」と冷笑する。夫の戦死の報を受け、父親も爆撃で死に、娼婦となったマレーナは村の女たちに爪弾きされていたのだ。マレーナは村一番の美人で、彼女の行くところ男たちの性的な視線が集中。女たちは嫉妬の塊となり、マレーナを指さしては「売女」とか「恥知らず」とか、あからさまに嘲笑し侮蔑の言葉を投げつける。マレーナはうつむいて淡々と処していたが、イタリアは敗戦、ドイツ駐留軍は撤退し村は連合軍の管轄となるや、女たちは「売国奴に罰を」とマレーナを引きずりだし、凄惨なリンチを加える。殴る、蹴る、下着を引き裂く、髪まで切り、マレーナは裸体同然の姿で村から追い出される。帰郷して事実を知った夫には妻の行き先もわからない。たずねまわるがだれも相手にしない。マレーナを守ると誓って果たせなかった少年は夫に書く「マレーナがしたことは生きるために仕方のないことです。最後に見たマレーナはメッシーナへの汽車に乗りました。マレーナが愛していたのはあなたひとりです」メッシーナ行きの列車に乗る夫を少年は人知れず見送る▼一年後。島は再び騒然となった。男も女も口をあけて見つめる。マレーナは夫と帰ってきたのだ。静かな人妻は夫の残った左腕を取り、ふたりはそれぞれスーツケースを持ち、地味なスーツを着て、まっすぐ前を見て元の自分たちの家に向かった。潮が引くようにふたりを避ける人並みをゆっくりと、一顧も与えず歩いていく。この映画でモニカ・ベルッチはほとんどしゃべりません。監督はベルッチが歩く姿、遠くから、近くから、横から、前から、横顔を、正面を、階段を昇る後ろ姿、あるいは沈黙した顔のアップ、それらをつないでいくだけで、語るより雄弁なベルッチの美しさを際立てます。よくも帰って来られたものだねと、島の女たちは寄るとさわるとしゃべりまくる。マレーナが籠を持って出かけると「市場に行く気だよ」と、彼女らの監視はもはやストーカーである。男たちは再びヨダレを流し始めた。市場に来たマレーナは野菜やら果物を選び籠に入れ、自分の一挙手一投足を見つめている、脂汗がでそうなほど暑苦しい女たちにほほ笑みを返し、低い声で言う「こんにちは」。女たちはなんと、マレーナから声をかけられると有頂天になって「こんにちは」「こんにちは」と先を競って笑顔で返事するのだ。考えてみる。ジョゼッペ監督は結局マレーナのここを描きたかったのではないか。普通なら自分をリンチして追い出したひどい村に、わざわざ帰る必要はないのである。「マレーナはなぜ帰郷したか」は、少年の純愛と並んで、この映画のもう一本の柱を作っています▼それについて主演のベルッチはつぎのように述べます「1940年代の女性は、男性のつくりあげた社会でアイデンティティーもなく、何の権利も持てませんでした。監督が描きたかったのは女性蔑視ではなく女性の肯定です。当時の女性の姿をありのまま表現することで、彼女たちを取り巻く社会に異を唱えている。選挙権はおろか中絶さえ許さなかった社会です。悲惨な時代にマレーナは彼女なりの主張をしました。再び愛する夫とともに自分が傷ついた島に戻ることは挑戦を意味します。尊厳を失ったところへ帰るのは戦いの始まりですが、そうすることに意味があったのです」堂々たる見解です。ベルッチはイタリアのペルージャ大学(中世からの教育機関に数えられる名門)で弁護士をめざしていた秀才です。本作への出演については「当時わたしはモデルとしては知られていましたが、モデルあがりの大根女優かと周囲の目は冷たかった。この映画が持ち込まれたとき、女優としての評価を求めやる気と情熱にあふれていました」ファイト満々で臨んだのね。ベルッチもまた「周囲の冷たい目」への挑戦として、この映画をとらえていたのです。シチリアはジュゼッペの故郷です。気性は激しく情熱的なシチリアの女たちを、生まれたときからジュゼッペはいやというほど知っていました。劇中女たちはしばしばマレーナのことを「なんてたってシチリア女だからね」と評しています。監督としてはマレーナを、シチリアという美しい島に、帰らせずにはおけなかったのにちがいありません。

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