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特集「ザ・クラシックス」

2015年5月22日

特集ザ・クラシックス マイルズ・フロム・ホーム(1988年 社会派映画)

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監督 ゲイリー・シニーズ
出演 リチャード・ギア/ミラー・ブライアン/ジョン・マルコヴィッチ

アメリカの断片を告発 

 リチャード・ギアの主演でヒットした映画を憶えている限り、あげてみます。「真実の行方」(共演ローラ・レニー)、「プリティ・ウーマン」(ジュリア・ロバーツ)、「ジャック・サマースビー」(ジョディ・フォスター)、「シカゴ」(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)。「綴字のシーズン」(ジュリエット・ビノシュ)。どれもみな女優が強いわね~。リチャード・ギアというあのやさしげな男性は、かくのごとく、転んでもタダでは起きそうもない筋金入りの女優たちに好まれ、共演を望まれまたそれによって光る個性の持ち主なのでしょうか。これに対しギアの映画にはもうひとつの流れがあります。代表が「HACHI 約束の犬」であり「八月の狂詩曲」である。つまり主人公はワンちゃんであり叙情的な反戦詩であり、田舎のヘンな老女であり、見事と言っていいほど女っ気のない映画です。本作「マイルズ・フロム・ホーム」も後者の、この流れに入ります。リチャード・ギアがじつに男っぽいアメリカの農夫をやる。女優の引き立て役でもなんでもない、どころか「もうだれのいうこともきかん! おれは農業しかできない男だが、それをやりぬく!」とひとり新天地を求めて国境を越える。早く言えば逃亡する▼リチャード・ギアが39歳のとき、四半世紀近く昔の映画ですからクラシックもいいところですが、ギアはこの粗野な男を演じることで、それまでの好青年役を脱皮し、次作「背徳の囁き」では家族を愛しながら汚職に呑まれていく悪徳警官の繊細さを、そのつぎの「プリティ・ウーマン」ではなんと「ウォール街の狼」と異名をとる、バリバリのビジネス戦士を、「ジャック・サマースビー」は戦争帰りとはいえ、ジョディ・フォスターのニセ亭主に収まるという図々しい役を演じてのける。そう思うとギアがワイルドな男に自分を変身させる自己改革のきっかけは、どうも本作ではなかったと思えてくるのです▼兄弟の兄フランクにリチャード・ギア、弟テリーにミラー・ブライアン。フランクをインタビューする記者にジョン・マルコヴィッチが扮しているのは、私生活で気があうらしいゲイリー・シニーズへの友情出演と思われます。それでなくとも変わった役者なのに、輪をかけて妙な扮装で現れます。舞台はアイオワ州。映画は旧ソ連の首相フルシチョフが、アメリカを代表する、優秀な農場であるロバーツ農場を訪問見学するというニュースで始まります。農場では幼い兄弟ふたりがソ連のトップを迎え、抱き上げられキスされる。父は偉大な農場経営者であり、息子たちは父の跡を継ぐのが誇りだった▼兄弟の時代になった。父親が亡くなったあと不作続きの惨状、借金がかさみ経営は破綻、銀行からの取り立てに家も土地も差し押さえられ畑も住むところも奪われる。すみやかに出て行ってくれという通達を受けた夜、フランクは「この家を人出にわたすくらいなら燃やしてしまう」と、家も畑も全焼させるのだ。人出にわたったものに放火したのだから犯罪である。警察から追われる身となったふたりはカナダをめざす。どうしようもない天災や、農業を守ろうとしない政府の方針やらで、苦しい立場にある農場経営に、理解のない銀行や政治に抗議するための行動だとして、新聞は兄弟の放火と逃亡を大々的にとりあげ、彼らは一躍有名人となります。行く先の土地では兄弟に「あんたたちと同じことがしたかった」と共感する人々が「逃げろ、フランク」と逃亡を助けてくれる、「みんな味方だ。おれが好きなのだ」とフランクは有頂天になる。家の焼け跡に帰ってきた兄弟は、あろうことに銀行強盗を思いつくのだ。冷静な弟は兄の暴走についていけない。「親父の奴、借金ばかりこさえやがって」と罵る兄に「悪いのは兄貴さ。親父のせいにするな、仕事が嫌いなくせに」「12歳のお前をかかえ、おれはひとりで奮闘した」二人は大喧嘩になり、兄は「おれはだめな男だ、おれが失敗したのだよ、おれは負け犬だ、親父に申し訳ない」とさめざめと泣く▼弟には恋人がいた。彼女の父は弁護士で「きっと助けてくれる」と自首することをすすめる。兄貴は父の墓にきて憤慨する。「オレがなにをした。両親を送り土地をとられ弟まで…」女がついて自分は見捨てられたと思う。フランクは弟と別れる決心をする。「ここで別れよう。おれはカナダのコックス農場へ行く。つかまりたくはない。おれには農場がいちばん合っているのだ。お前のことは愛しているぞ」…やけを起こして強盗までしようという、破滅型の暴走男が一歩のところで立ち止まり、再生のために出発します。監督がゲイリー・シニーズです。俳優としては「グリーン・マイルズ」「身代金」「クローン」「白いカラス」などに出演。地味ですが存在感のある演技とシャープな容貌で記憶される俳優です。彼の監督第一作が本作です。デビュー作にしてカンヌ国際映画祭でグランプリを争う高い評価を得ました。すたれゆく農場から人生の再出発をめざす兄弟を描き、アメリカの断片をするどく告発した映画にしています。

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