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映画監督特集

2015年5月24日

特集 監督ロバート・ワイズ死体を売る男(1945年 ホラー映画)

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監督 ロバート・ワイズ
出演 ボリス・カーロフ/ベラ・ルゴシ

怪奇を愛する監督

ロバート・ワイズが初監督した「キャット・ピープルの呪い」でも書きましたが、前任者が降板し、予算も日数も厳しい制限を受けた映画をきちんと撮り上げた。監督人生をそんなふうにスタートさせたロバート・ワイズに、彼の誠実で几帳面な性分がよく表れていると思いました。もともと彼は編集出身です。ヒッチコックは常々編集こそ映画だと言っていました。彼の映画で実際の作業を担っていたのは妻のアルマで、ヒッチは彼女に一目も二目も置いている、そんなやりとりが「ヒッチコック」に描かれています。完全裏方に徹する地味な作業でありながら監督も脚本も俳優も、撮影が終わりいざ編集の段階に入るとエキサイティングする。黒澤明もジョン・フォードもとにかくこの仕事が大好きでした。完成した映画にゴーサインはだすのはいうまでもなく金主であるプロデューサーです。編集権はプロデューサーが握っています。最近製作に名を連ねる監督や俳優が増えたのは、映画の生殺与奪をにぎる編集に一枚噛むためであろうと思われます▼ロバート・ワイズは「ウェスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」の二作でアカデミー監督賞を受賞しました。どちらも映画史の金字塔です。しかしながらロバート・ワイズにしてみればそれらは撮るべくしてとった映画であり、ウ~ムなんというか、華やかなパーティで絶賛を浴びたタキシードの紳士が、会場を出てひとり行きつけの居酒屋に向かいのれんをくぐる。いつもの席に腰をおろすと、心得ている親父が小鉢をだす。それをつつき気に入りの銘柄で冷酒を飲む。ロバート・ワイズにとってそんな感触にあたるのがホラー・怪奇映画ではないかと思うのです。彼は30代ではむろん、40代50代、いや功成り名遂げた大監督になってさえ、60代に入ってもホラーやSFを撮っています。要は好きなのです。最初に撮った「キャット・ピープルの呪い」も本作も、「生まれながらの殺し屋」も、B級映画丸出しのタイトルで、後年のいわゆる香り高い名作の気配は微塵もありません。それどころか当時ホラーや怪奇映画はハナから二流のきわもの扱いされ、そんなものに手を出したら沽券に関わるとされました。それでもロバート・ワイズは撮るのをやめない。彼の姿勢を一言でいうと「映画は金じゃない」少なくとも金をかけたらいい映画ができるとは爪の先ほども信じていなかった。確かに「砲艦サンパブロ」とか、大スターを起用した大作はあります。でもそれが終わると彼は嬉々として「アンドロメダ」や「オードリー・ローズ」を撮っているのです。彼には一見しようもないと思われる怪奇B級作品を、緊張感あふれる引き締まった一級の映画にする自信があった。自信というより、それが楽しくてたまらないというふうに立ち返る。アディクトという言葉をあてはめるなら、編集アディクトというのがロバート・ワイズのことでしょう▼「死体を売る男」のおもしろさは、これが1945年の映画かと思う新しさにあふれています。登場人物は少なくストーリーは単純で、一言でいえば墓場荒らしが殺人までやる犯罪映画です。病院を経営するマクファレン院長は、若い医師の解剖学講義のために死体が必要である。グレイ(ボリス・カーロフ)は死体調達人であるが、彼は院長が人に知られたくない弱みを握っている。若い医師は手術を必要とする患者を一日も早く執刀するべきだと促すが、院長は言を左右して自分の任務は医師養成であって外科ではないと言い出す。グレイはますます「あいつはヤブだ」とほくそえむ。院長の愛人は若い純粋な医師に「早くここから出なさい」と忠告する。連続殺人や墓場荒らしや、おぞましい犯罪はあるが、ほんとにこわいのは人間の欲と保身と嫉妬に裏切りだという、何時の世も変わらない狡猾かつ哀感のある深層が、白黒のフィルムにスピーディに刻印されていく。ベラ・ルゴシは吸血鬼俳優として有名です。死体調達人になったベラ・ルゴシはフランケンシュタインも演じています。ニヤリとすると背筋がゾクッとする容貌を、監督は白黒のライティングを当てたり外したり、あるときは一言のセリフもない、黒い影だけでシーンを作ったりします。クリエイトとはお互いの技を盗んだり盗まれたりしながら腕をあげていくものですが、ロバート・ワイズが後代の監督に与えた卓抜な撮影や光の技法の影響には、少なからぬものがあるように思います。彼はひとつもそんなことに触れませんでしたけど。

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