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映画監督特集

2015年5月25日

特集 監督ロバート・ワイズ生まれながらの殺し屋(1947年 犯罪映画)

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監督 ロバート・ワイズ
出演 ローレンス・ティアニー/クリア・トレヴァー/エスター・ハワード

ワイズの新しいセンス

主要な役者は4、5人、100分足らずの短い映画に、何人もの登場人物が入れ替わり、たち変わり現れるような錯覚を覚えます。テキパキとシーンが転換し、人物たちの性格が複雑で、微妙に交錯するので単調にならないのです。主人公は殺人狂ともいえるサム・ワイルド(ローレンス・ティアニー)。顎の張った四角い顔にがっしりした広い肩幅。鋭い目にひき結んだ酷薄な薄い唇。口をついて出てくる言葉ときたら「おれには能力がある」ばっかり。彼が自信満々そうつぶやくと、なぜか女は信じてしまう。(冗談だろ)と疑うヒマをロバート・ワイズは与えません。ローレンス・ティアニーの細い目がクローズアップされ、キラっと光るだけで一言のセリフがなくても納得してしまう、手品みたいなこの撮影術。それとも昔の女はとくべつ単純だったのでしょうか▼彼にからむのがリノの町に離婚手続きのため滞在していたヘレン(クレア・トレヴァー)です。6週間で夫と別れる仕儀に至った、という以上の説明はありませんが、彼女をみるだけで(普通の女ではない)とわかる。ヘレンは用が済んだので宿泊していたホテルを出ようとする。そこはホテル兼下宿屋のような施設で、女主人のクラフト(エスター・ハワード)と若い下宿人ローリーは仲がよく、いつもふたりでビールを飲んでは男の品定めに興じている。ローリーが今つきあっている彼氏と別の男をみつけたとクラフト夫人に言っている。男はいつも二股かけてヤキモチをやかせるのがコツだとローリーはいうのだが、別の男というのがサムなのだ。カジノでローリーが若い男といっしょにいるのを見たサムはたちまち顔つきが変わる。彼はローリーの家に先回りし、帰宅したローリーと男を簡単に殺してしまい、さっさと姿を消す。そこへヘレンがやってきて死体をふたつみつけますが、かかわったら面倒だと顔色も変えず出て行く。けっこうなハードボイルドであります。サンフランシスコに向かったヘレンはサムと同じ列車にのりあわせ、獣同士がひくひく体臭を嗅ぎ合うような、似たもの同士の臭いをかぎとる▼ヘレンにはフレッドという婚約者がいて鉄鋼会社の若き社長である。ヘレンの妹のジョージアは、血はつながっていないがとにかく妹で、新聞社のオーナーだった父親を後継した金持ちだ。ヘレンも金持ち社長と結婚するのだから引け目はないはずなのに、出自に暗いものがあるのだろう、なんとなくジョージアに気後れしている。サムは偶然を装いヘレン一家に近づきまんまとジョージアを籠絡する。サムにマーティーというともだちがいる。なにごとにも猜疑心の強いサムだが、マーティーにはなんでもうちあけるらしく、ローリーとその恋人も殺したと言うと、マーティーは驚くふうもなく「ほどほどにしておけ」と忠告するのだ。そんな忠告ってアリか。監督はふたりの関係にゲイを匂わせている。親友のローリーを失ったクラフトは、憎い犯人をつかまえるため探偵を雇う。太った探偵は金に困っており、調査費をせびりながら容疑者の網をしぼっていく▼凶暴な殺人狂にビッチという構図のサムとヘレンに比べたら、ジョージアとフレッドはそれこそセレブの貴種である。しかしビジネスとなるとお嬢さんのジョージアも手強いのだ。夫となったサムが例によって「おれには能力がある。新聞社の経営を任せろ」と迫ってもすぐに新聞社の経営は無理だとピシャリ。フレッドはフレッドで、サムの友人だという正体不明のマーティーを近づけるヘレンをいぶかり、ヘレンから距離を置くようになり婚約を解消する。各人各様の性格設定がひとつも平凡に陥らない。よくみかける性格であることと、それが凡庸にするかしないかの描写は別であろう。クラフト夫人は昼間からビールをのんで噂話に興ずる典型的な「おばちゃん」だが、ローリーが「いなくなってからさびしくて生きる気がしない」と嘆く。ここでもふと思うのだが、ロバート・ワイズはひとかたならぬゲイへの関心を持っていたのではないか。彼女のセリフはもっとほかの言葉でもよかったのに、なくてはならぬパートナーを失ったと、聞き間違えのない言い方で言わせている▼ヘレンもサムも衝動にかられ愛と憎しみを同時に覚える激情型だ。婚約を破棄されたヘレンは、ジョージアにサムの正体を明かすが、ジョージアはそれが嫉妬のためだと解釈しヘレンを絶縁する。ヘレンもサムも自暴自棄になり、ヘレンはサムに、サムは警官に射殺される。スケールこそちがえ「俺たちに明日はない」の20年も前に、アメリカン・ニューシネマの気配がたちこめている。

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