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映画監督特集

2015年5月26日

特集 監督ロバート・ワイズウェスト・サイド物語(1961年 ミュージカル映画)

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監督 ロバート・ワイズ/ジェローム・ロビンス
出演 ナタリー・ウッド/リチャード・ベイマー/ジョージ・チャキリス/リタ・モレノ

心の中に生きる映画

この映画の粗筋だ、キャスティングだ、やれオスカーだと書き並べたところで、いまさらなんの貢献になるわけでなし、そこでパーツ・フェチというまことに勝手な書き方に徹することにします。まずはロバート・ワイズと共同監督し振付の全責任を持ったこの人、ジェローム・ロビンス。別名「練習魔」。振付だけの仕事なら引き受けないと言って共同監督の立場に就きました。ワイズが性格の穏やかな人だからパートナーとして保ったようなものですが、時間制限なしの地獄の練習で彼は有名でした。演技・歌・踊りに最高のレベルを要求しました。複雑なダンスのリハーサルの繰り返しに、ダンサーは足が血だらけになった。エピソードのひとつですが、煌々たるライトで高温になった撮影現場の駐車場。コンクリートの打ちっぱなし、熱がこもって43度、外は零下の寒さ。激しい温度差に出演者のひとりが肺炎を起こしたところ、ロビンスは彼になんと言ったか。「悪いけど、まだ撮影があるのだ」撮影が終わったあと彼は入院しました。際限ない練習は当然予算オーバーになります。警告無視のロビンスは解雇されましたが、シーンはほとんど撮り終えていたのがラッキーでした▼つぎ。ロバート・ワイズの地形効果。ワイズほど地形を巧みに映画に取り入れた監督はいないでしょう。サウンド・オブ・ミュージックでジュリー・アンドリュースが登場する背景のアルプスも有名ですが、本作ではニューヨークという大都市の俯瞰、空からカメラが迫ります。ハドソン川、ブルックリン大橋、国連ビル、高速道路、セントラルパーク、次第にカメラは下町に。そこはうらぶれたレンガ塀に囲まれたバスケットボールのコートが一面。ふと気がつけば、たむろする若者が一点を見つめ指を鳴らす乾いた音が「パチン、パチン」。視線の先に現れた一団が呼応し「パチン、パチン」。この導入だけで観客は、今まで見たことのなかった映画の世界に引き込まれる予感を覚えます▼つぎ。ジョージ・チャキリス。彼のダンスの格調の高さ。フレッド・アステアやジーン・ケリーのダンスも躍動的で美しかった。しかしチャキリスのダンスはワイルドで、シャープでかつエレガントでした。彼の紫のシャツに当時のガールズたちはのぼせあがりましたが、それより最初にチャキリスが登場するシーンがいい。バスケットボールを止めた手首だけ映るのです。筋張った細い男の手首と指。「ラ・ピラート」でジェーン・バーキンが初めて恋人に出会ったとき「あなたの手を見て、抱いてほしいと思った」といった一言は、手の変幻する表情とその美しさを知っている人ならでは、のセリフでした。もちろんワイズだって知っているからこのショットなのです。手を見てハッとして「はたしてこの男はだれ」そう思わせたあとに続くシーンがこれです。チャキリスは3人のダンサーの先頭中央に、高々と上がる脚、空を抱き寄せるように伸びた両腕。ワイズがこの映画で多用したローアングルがバチッと決まっています。チャキリスのダンスには百万言をもってしても言葉とは無力だ、またそう思わされることがひとつも腹立たしくない、喜んで感服させる力量がありました。彼は本作の成功のあと、カトリーヌ・ドヌーヴやクラウディア・カルディナーレと共演するなど、何作かの映画に主演しましたがやはり本領は舞台だと割り切り、ステージダンサーに専念しました▼つぎ。「アメリカ」。ヒットナンバーでよくあげられるのは「ツゥナイト」ですが、映画の中でみる踊りと歌では「アメリカ」が圧倒的です。迫力が比べ物にならない。「アメリカ」の群舞は大げさでなく映画史上の名シーンです。このときのリタ・モレノがいい。チャキリスがパートナーです。ふたりのダンスの名手が、しかもジェローム・ロビンスの練習地獄をやりぬき、ブラッシュ・アップさせたのです。指の先、脚のつま先まで洗練され全身が弾け、軽々と大空を跳ぶ鳥のように舞う。モレノは「あんなきついダンスは二度とできない。ふつうダンスには必ず息を入れる間を作っておいてくれるものだけど、それもない変形の、難しいリズムだった」と▼パーツごとにいくつか思いつくことを書き出していると、そのシーンの楽しさが目の前に浮かびます。心のなかに生きている映画って、こういう映画をいうのでしょうね。

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