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映画監督特集

2015年5月28日

特集 監督ロバート・ワイズスター!(1968年 伝記映画)

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監督 ロバート・ワイズ
出演 ジュリー・アンドリュース/ダニエル・マッセイ/リチャード・クレンナ

サクセスの代償

ロバート・ワイズの1960年代といえばこうだった。「ウェストサイド物語」(61)アカデミー作品賞・監督賞、「サウンド・オブ・ミュージック」(65)で再び同作品賞・監督賞、「砲艦サンパブロ」で作品賞ノミネート。まさに栄光につぐ栄光で彼の監督人生は頂点にあった。だからというわけでもあるまいが60年代ただひとつのとりこぼしである「スター!」の不入りは、大して話題にもならず世間から忘れられた。ジュリー・アンドリュースは「サウンド・オブ・ミュージック」のマリアで奇跡のような大ヒットを起こし、湯水のごとくお金を使いまくった「クレオパトラ」で、屋台が傾いた20世紀フォックスが潰れずにすんだのは「サウンド・オブ・ミュージック」のおかげなのである。もっというとジュリー・アンドリュースと、彼女をヒロインに選んだロバート・ワイズのおかげなのである▼ジュリー・アンドリュースのマリアとは、ガルボのクリスティアン女王や、オードリー・ヘプバーンのアン王女や、タイプは真逆だがリタ・ヘイワースのギルダとか、ケイト・ブランシェットのブルー・ジャスミン、スカーレット・ヨハンソンのルーシーのように、その人以外にだれも思い浮かばない役と女優なのだ。後年アンドリュースはマリアから脱出するために、全知全能をふりしぼる。女優生命を賭けて、と言ってもいい。その努力は後年立派に報われるのだが、「スター!」は当時アンドリュースに降り注いでいた喝采に、ふっと影がかすめた最初の作品だった。それはこの映画が凡作という意味ではさらさらない。3時間という長尺を飽かさずひっぱっていく、ロバート・ワイズのてきぱきしたショットの切り替えと、ジュリー・アンドリュースのミュージカル・スターとしての力量は映画の楽しさを満載している。ガートルード・ローレンスの伝記である本作は、几帳面なワイズらしく、考証と取材を重ね、ブロードウェイを席巻したイギリス生まれ、ロンドン育ちの女優の半生を、緊密な絵巻物をほどくように展開させる▼時代は1898年。ロンドンの貧しい地区クラップハムでガートルード・ローレンスは生まれた。父親が蒸発したとき母親は「これで酒代が浮いた」といって喜んだくらい。ガートルードは生来の芸事好きで、舞台学校に入り、生涯の友ノエル・カワードと出会う。16歳になって父親に会いにいき、ミュージック・ホールに出演。人に指図されるのが大嫌いな気の強い娘は、舞台で共演中の父親が野次られトマトをぶつけられると、スタスタとステージを降り、野次った男にすりより笑いながらトマトを男の口にねじこむシーンがある。第一次世界大戦が終結し、ガートルードはノエル・カワード(ダニエル・マッセイ)と再会した。自作自演の彼とコンビを組んで再スタート。ガートルードは一座の若い芸人と恋におち娘パメラを得たが2年で離婚した。ノエル・カワードとは一生に及ぶ友情が続いたのは彼がゲイだったからだ▼ノエルの作もヒット、ガートルードには熱烈なファンもつき社交界にデビュー。いよいよブロードウェイに。ノエルの新作「ライムハウス・ブルース」は爆発的なヒットとなった。その一方で家庭的には娘パメラがいつも家にいない母親になつかず、ガートルードがとりにくいバカンスをとって時間を作っても、思春期に入った娘は母親といっしょに過ごそうとはしなかった。このあたり、必ず代償を要求するサクセスの辛さ、厳しさをジュリー・アンドリュースは(ちょっと健康的すぎるが)、娘への罪悪感を大げさにせず演じている。世界恐慌の真只中で大借金をかかえたガートルードは「死ぬほど働いてやるわ」。死に物狂いで仕事し、とうとう過労で倒れてしまうが借金は全額返済。そんなとき新作「闇の女」を持って現れたのが劇場主のリチャード(リチャード・クレンナ)だった。「闇の女」は大ヒットしたばかりか、ガートルードの一生を通じての代表作となる。映画はガートルードがリチャードと結婚する42歳までを描いている▼ジュリー・アンドリュースが演じたせいか、頂点を極めた女優にそなわっているアクがあくまでコミカルだ。ガートルードが罪のない悪さで同僚のダンサーを出し抜くシーンもあることはあるが、全編これ素直で正直で明るい。ライバルの脚をつかんでひきずりおろす、あるいは階段から突き落とすような、えげつない生存競争もあって不思議はなかった社会だろうとは思うが、これはこれでいいのではないか、ロバート・ワイズの演出はなぜかそう思わせてしまう。彼がおめでたいというわけでは決してなく「明るいほうへ/明るい方へ」(金子みすず)が、彼の製作基本姿勢であり、人と人生の捉え方だと思えるからだ。

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