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映画監督特集

2015年5月31日

特集 監督ロバート・ワイズサウンド・オブ・ミュージック(1965年 家族映画)

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監督 ロバート・ワイズ
出演 ジュリー・アンドリュース/クリストファー・プラマー/エレノア・パーカー/ペギー・ウッド

愛を託す夢、夢を託す愛

どれだけケチをつけようとアラをほじくりだそうと、それらの指摘がすべて妥当であったとしても、小動(こゆるぎ)もしない名作というものが、小説にもあるが映画にもあります。それらは、評価が定まった作品というだけでは不十分です。みるたび、読むたび、新しい価値を生んでいく映画であり、小説であり、「サウンド・オブ・ミュージック」はまぎれもなくそういう映画のひとつです。ロバート・ワイズの名作には「砲艦サン・パブロ」や「ウェスト・サイド物語」あるいは「アンドロメダ」がありますが、どれかひとつ、となればやっぱりこれ「サウンド・オブ・ミュージック」だと思うのです▼「ドクトル・ジバゴ」を抑えて本作が第38回アカデミー作品賞に輝いたとき、絶対に「ジバゴ」だと確信していたわたしは腹を立て、以後「ジバゴ」は何度もみたのに本作は二度とみませんでした(ちょっと問題がちがうとは思いましたが)でも大好きなロバート・ワイズを特集するのに、自他共に認める彼の代表作を外すのは礼を失した選択といわねばならぬ。今みるとこの映画が「ジバゴ」を抜いて選ばれた理由がわかります。多少とも人生の苦い水を飲み、生き辛さや、死と別離に伴う引き裂かれる感情を知れば、たとえ一瞬でも訪れる僥倖のような幸福が、いま自分の上を通りすぎていることに、限りない慈しみと愛しみをもって受け止めることができる、だれの身の上にもその一瞬は舞い降りることがある、それをこの映画は教え、生きることへの素朴な信頼を呼びもどしてくれます。ロバート・ワイズはこの映画を撮ったことを「監督冥利につきる」と、自作の中で最高の満足を表していました。控えめな彼の性格からすれば珍しいことです。人は愛を託せる夢、夢を託せる愛に恵まれていいのだ、信条と希望を忘れず努力すれば夢は叶う…この映画を不滅にしているのは、人の心に与えるそんな限りないやさしさと安らぎです▼出演者も全力投球でした。ジュリー・アンドリュースはもちろん自分で歌っています。ギターを弾きながら歌うシーン(「ドレミの歌」)が難しそうだったが、撮影のときはマスターしていたと監督はほめていました。トラップ大佐のクリストファー・プラマー、彼の婚約者のエレノア・パーカーら、つぎつぎキャスティングが決まったあとで、修道院長役だけ、監督の目に叶う女優がいなかった。問題児のマリアをいつも見守ってきたやさしく、かつ厳しい女性です。ロバート・ワイズは舞台に出ていたペギー・リーを見て彼女こそ院長だと即決しました。公開から半世紀、語り尽くされていますから粗筋は省きます。実話に基づいた映画です。ジュリー・アンドリュースが登場するファーストシーンは、ジオラマ好きのロバート・ワイズらしく雄大なアルプスの俯瞰から入っていきます。本作の魅力はたくさんありますが、アルプスと古都ザルツブルクのロケは魅力づくりの最たる要因に数えていい。監督が「ヒロイン、マリアの活力を表すにはこれしか思いつかなかった」と言った自信の導入部です。ジュリー・アンドリュースは、金髪のオカッパ頭に修道院の粗末な制服、エプロン掛けで、見晴かす青空のように爽やかに登場します。切り替えなしのロングショットで、カメラはヘリからぐんぐんマリアに近づいていく。撮影監督はテッド・マッコードです。彼の撮影で、本作以外のいちばん有名なのはたぶん「エデンの東」でしょうが、ゲーリー・クーパーが落ちぶれた疑惑の保安官を演じた「縛り首の木」における、マリア・シェルとのラストシーンは、まさに撮影監督の腕と感性による詩情です▼テッド・マッコードの名前がでたところでもうひとつ、この映画を支える撮影の美しさを。マリアとトラップ大佐が結婚式をあげる教会は、ザルツブルグに現存するバロック様式の古い教会、モンドゼー・カテドラルで撮影されました。ウェディング・ドレスを身にまとったマリアが教会の入り口から、ドレスの長い裾をひいてトラップ大佐の待つ祭壇に進む。荘厳な教会の中央を進む花嫁、裾引くドレスのエレガンスな美しさが、高い天井からの鳥瞰によって際立っていました。トラップ一家が脱出する直前に出演したコンサート会場は、トスカニーニホーフにある、古代ローマ人が馬上試合のために作った岩の競技場です。現在はザルツブルク音楽祭の会場としても使われているフィルゼンライトシューレ(岩山乗馬学校)です。セットの重厚さもみごとで、大道具・小道具・美術・時代考証含めたスタッフたちは、ハリウッドのスタジオにアルプスの麓の庭園を、墓地を、古式ゆかしき貴族の邸宅を再現しました。ただ一箇所、ロバート・ワイズが撮影終了後に白状していますが、マリアと子供たちが市場に出てトマトを選ぶシーン。ある人からトマトはイスラエル産かと聞かれワイズは「?」。フィルムをチェックすると、スクリーンには出ないフィルムの端に、ダンボールに書いてあるトマトの産地が映っていたそうです。本作の時代、イスラエルはまだ建国されていませんでした。

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