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特集「ベストコレクション」

2015年6月13日

特集「水無月6月/ベストコレクション」マップ・トゥ・ザ・スターズ(2014年 社会派映画)

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監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ジュリアン・ムーア/ジョン・キューザック/ミア・ワシコウスカ/サラ・ガドン

近親相姦図

気絶するほどつまらなかった前作「コズモポリス」に比べ、本作はデヴィッド・クローネンバーグの返骨ぶりが、生き生きよみがえった感があります。よかったわね、デヴィッド、あなたが健在だと確信できてうれしいわ。本作の敢闘賞はもちろん主演のジュリアン・ムーアよ。この人のかもす「ただならぬ雰囲気」って好きだわ。ジュリアンは女優の役。ライバルの不幸を聞いて驚倒し、人の不幸せの上に自分の幸福がのっかるわけにはいかないと、巡ってきた代役を固く固辞しながら、涙の底におさえきれぬ喜悦をにじませる数秒の顔芸。一言で言うとこの映画は近親相姦が張り巡らした二組の家族の愛と憎悪の螺旋です。ひとつはジュリアン・ムーアとその母親(継父も含む)、ふたつは精神科医ワイス博士(ジョン・キューザック)の一家。兄妹とは知らず夫婦となった両親から産まれた子供ふたり、姉と弟は幼い頃から惹かれ合い思春期に至って心中するという、マニエリスム的恋情の迷宮が気合をこめて描かれます▼もともとクローネンバーグは「子供」に異形の意匠をまとわせる。彼が自己作品のなかで、いちばん愛着があると言ってはばからなかった「ザ・ブルード/怒りのメタファ」はヒロインの怒りが凝固して体内に腫瘍状の生き物を胚胎し、産み落とした胎児は母親の怒りによってエネルギーを発散するという、トンデモ想像力の賜物だった。赤ん坊にさえかくも独特のシチュエーションを与えるのだから、まして肉体が成長し、世間の波風を受けるようになった思春期の、少年少女の神経や感受性をあやういものに設定することに、クローネンバーグの触手が動かないはずはない。監督の期待を受けて演じる姉アガサ役にミア・ワシコウスカ、弟ベンジーにエヴァン・バード。すべり台みたいな撫で肩が特徴で、早熟がそのまま顔になったような美少年です▼ジュリアン演じる女優ハバナは、名女優だった母親クラリス(サラ・ガドン)のトラウマに苦しめられる。ハバナは母親が主演した映画のリメイク版に出たくてエージェントの尻をたたくが、中年にさしかかった自分が今や落ち目の女優であるコンプレックスからのがれられない。妄想で現れる母親は娘を痛めつける。「母と娘の近親相姦なんて臭スギよ。子供時代のレイプ? 月並だわ。わたしの役ができないなら死んで。わたしを演じたいなんて哀れね。わたしを憎んでいるけど、ホントはわたしになりたいのでしょ。あなたにあの役はもらえないわ。才能もないし。わたしには若さも美貌もあった。アンタにあるのはタレ乳とユル穴」そこまで言ってやるかと思うが、娘の自己嫌悪が自分自身にいわせているのだから助けようがない。ハバナが母親を憎むのは母親が継父の性的虐待から自分を守ってくれなかったと思うからだ。そのへんの説明をクローネンバーグは例によってばっさり削除しているが、たびたび挿入されるハバナと母親の近親相姦シーンは、母親に対するハバナの常軌を逸した愛憎を思わせる▼アガサは人の紹介でハバナの個人秘書となる。つねに母親の妄想にとりつかれ、神経の休まらないハバナと、精神病院から退院したばかりで、放火癖のあるアガサがひとつ屋根の下で顔をあわせていると、どっちかが先に均衡を崩すのは時間の問題、そんなあやうさと緊張感がふたりの関係に張り巡らされる。アガサは自分に罵詈雑言をあびせるハバナを衝動的に撲殺してしまう。彼女はかつて両親が寝ているときに火をつけ、自分が負った火傷に苦しみ、いつも長い黒い手袋と髪でケロイドを隠した黒っぽいいでたちは、陰気な魔女を思わせる。ひとつも若さを表出しないアガサが、唯一恋心をだくのが運転手のジェロームだ。演じるロバート・パティンソンは「コズモポリス」に続くクローネンバーグ作品。どこが頭か尻尾かわからない神経過敏症のカタログだった前作に比べ、本作で脇にまわりましたが、ずっと男っぽくなり浮世に揉まれ、かつウダツのあがらない男の疲れをにじませて好演です▼アガサとベンジー姉弟が自殺する前、交互に交わす詩の一節はポール・エリュアールの「自由」です。エリュアールはシューレアリスム運動の中心人物のひとり。サナトリウムで知り合ったロシア人の年上の少女ヘレナをガラと呼んで愛し、ふたりでボードレールやランボーを朗読した。やがて結婚。ところがそこに現れたハンサム・ボーイ、ダリのもとにガラは走りました。詩は劇中とても効果的に引用されています「学校のノートに/自分の机や木に/砂の上や雲の上に君の名を書く/肯定する肉体すべてに/わが友すべてのひたいに/差し出された手すべてに君の名を書く/自由と。望まぬ不在の上に/むきだしの孤独に/死の階段の上に君の名を書く/もどった健康の上に/残された危険の上に/記憶のない希望の上に君の名を書く/自由と」

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