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特集「B級映画に愛をこめて」

2015年6月18日

特集「B級映画に愛を込めて」不法侵入(1992年 サスペンス映画)

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監督 ジョナサン・カプラン
出演 マデリーン・ストウ/カート・ラッセル/レイ・リオッタ

正々堂々

ジョナサン・カプランという監督の映画作りは曖昧なものが余塵もありません。よく柔道や剣道の稽古場に掲げてある額に「正々堂々」とあるでしょ。あんな骨太な感じなのです。カット・シア監督の「ボディ・ヒート」で少しふれましたが、カプランもまたロジャー・コーマン門下の優等生です。ご存知「低予算映画の王者」とも「B級映画の帝王」ともいわれたハリウッド伝説のプロデューサーですね。コーマンにとって映画とは「見てくれてなんぼ」という信念があり、映画をつくるのは「高度な訓練を受けた小人数の軍隊は、どれだけ大人数であろうとも烏合の衆を打ち負かす」というプラクシテレスの兵法が彼の哲学だった。ボスがそうであるからコーマン門下生の作り込みというか作劇術というか、映画の手法というか、観客に絶対横を向かせない、目の前の映画以外にほかのことを考えさせるのは恥、みたいなところがあると思える。カプランの「告発の行方」はジョディ・フォスターに最初のアカデミー賞をとらせた快作ですが、どのシーンにも格闘技の攻防のような緊張が張り詰めている。ゴングそうそうリングの中央にスススッと、足音もなくすべりでてきたボクサーが、パンチを放つ寸前の緊迫に似ている。同じ監督の「バッドガールズ」にしても、テカテカのB級ですがタルミがない。観客を脇見させないカプラン・スピリッツが張り巡らされている。女優たちにも、監督のディレクトに任せて安心みたいな余裕があった。本作は「バッドガールズ」と同じ、マデリーン・ストウが主演しています▼オープニングは、カメラがロスの高級住宅地街を鳥瞰しながら徐々に降下してくる。プールで顔をあげないで泳いでいる女性がいる。彼女が登場人物の一人で、まだどこのだれともしれないが劇中の重要な役割であるらしいと、それだけで推測させる。映画はどこといって、みごとなほどなんの変哲もない筋書きです。マイケル(カート・ラッセル)とカレン(マデリーン・ストウ)の家にある夜強盗が忍び込んで、男はカレンに銃をつきつけ人質にして逃亡しようとしたが、マイケルがゴルフのパターで殴りつけ傷をおって逃げる。気味悪がったカレンは引っ越そうというが折角購入したレジデンス・エリアの家だ、かけつけたパトロールの警官二人は、素人が銃を買うより防犯装置をしっかりとりつけることをアドバイスした。警官のひとりピート(レイ・リオッタ)は翌日も訪問し、親切に防犯装置の設置を指示した▼一言でいえばこのピートの変態ぶりが本作のみどころです。レイ・リオッタの顔がアップになるシーンは本当にぞっとしましてね。今の俳優でいえば「ノー・カントリー」の殺人鬼ハビエル・バルデムみたい。なかなかこんな人いません。ピートの誠実な警官ぶりに感激した夫婦はすっかり仲良しになる。マイケルはピートのパトカーに同乗し街を見学パトロール。小学校の教師をしているカレンは、同僚と相談のうえピートを教室に招き、子供たちに警官・警察についてミニ講演みたいな話をしてもらう。いい友達ができたと夫婦とも喜んでいたある夜、いっしょにパトカーに乗ったマイケルは、家に入った泥棒を街でみかけピートが追い詰める。泥棒をつかまえたピートは男を警棒で殴るようマイケルにいうが、マイケルが断ると、無抵抗な泥棒を狂ったように打擲し半死半生の目にあわす▼ピートの残虐性に恐怖を感じたマイケルは、もうピートとつきあわないというが、カレンは夫のほうが間違っていると主張する。ピートを寄せ付けなくなったマイケルに対し、ピートは言葉巧みにカレンに接近し、彼女を手に入れようとする。ピートの嫌がらせは高じて、警報機が誤作動したと言って夫婦の寝室に現れたり、マイケルのキャッシュカードが突然使えなくなったり、スポンサーに資金援助を打ち切られたり、困り果てたマイケルはピートに会い、現金をわたしてなだめようとするがピートは拒否。ピートの暴走はますます常軌を逸し、過去のピートの汚職を知っている同僚の警官の殺害にまで至る。さすがのカレンもピートの正体に気づくが、ピートの策略におちてマイケルは留置所に。目をさましたカレンは、キッチンで甲斐甲斐しく食事をこしらえているピート。もう心配はいらないと微笑をうかべる男に凍りつく…オチはわかりきった筋書きなのにそれでも引きずっていくのがカプラン監督です。また観客もそれに対して文句がない。ないどころか見終わったあとの満足感の正体は、やはり映画の王道ともいいたくなるエンタメの「正々堂々」で筋を通しているからでしょうね。

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