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特集「B級映画に愛をこめて」

2015年6月20日

特集「B級映画に愛を込めて」NY検事局(1997年 犯罪映画)

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監督 シドニー・ルメット
出演 アンディ・ガルシア/リチャード・ドレイファス/レナ・オリン

限りない灰色のなかで

主人公ショーン・ケイシー(アンディ・ガルシア)は、警官をしながら夜間の大学に通い、司法試験の難関を突破して検事補になった努力家だ。彼の父リアムも警官だ。母親は亡くなり父一人、子一人である。父は現場百回、たたきあげの刑事です。ふたりで墓参した日、墓の前で検事補になった息子を「母さんにみせてやりたい」と父。「見てくれているさ」と息子。シドニー・ルメットには珍しいシーンですね。ヒゲの剃り跡の青いアンディ・ガルシアが精悍である。彼は30代からちょうど本作の40歳前後が冴えていましたね。「ゴッドファーザー3」の三代目襲名とか「アンタッチャブル」はしびれたけどな。いやいや、だから本作がダメってことじゃないの。シドニー・ルメットらしいじっくりした筋運びですよ。原題は「マンハッタンの夜はふけて」です。なんてたってルメットが生涯愛したニューヨークの街が、ファーストシーンからスタイリッシュに映ります▼犯罪都市ニューヨークで多発する傷害、強盗、殺人、強姦。父リアムはその夜、長年追いかけてきたドラッグ市場の大物ジョーダンをとうとう追い詰めた。部屋に踏み込む一歩手前で、ジョーダンはまるで張り込みを知っていたようにドア越しに発砲し、リアムは瀕死の重傷を負う。緊急事態にかけつけたパトカーの群れをあざ笑うようにジョーダンは巧みに逃亡、警官3人が殉職した。ショーンの直属の上司、検事局長のモーガンスターンは怒り狂う。「史上最大のヘマだ。凶悪な麻薬の密売人はパトカーを奪って逃亡。警官3人が死亡、ひとりが重態。世論は警察を無能よばわり、3日以内に犯人をあげないときはお前らみなクビだ。地方検事局の刑事部全員は64・65・74分署に出向き、有能な検事局の実力を示せ。彼奴をふん縛ってこい。法にふれてもかまわん」(なんちゅう検事だ)。わめきちらしているところへショーンが入ってくる。「おい、お前。遅刻だぞ、わかっているのか」「父親の見舞いに行っていました」鷲のような検事局長の視線がゆるみ「父上の様態はどうだ」。彼はショーンを自室に呼び、犯人があがったら君が検事を担当しろと命じる。ポッと出の検事補がいきなり大舞台だ。先輩検事がいい顔をするはずがない。ショーンが辞退しようとすると、こんな簡単な事件はない、デビューにはまたとない機会だと局長は激励する。次期検事局長改選に立候補する彼は、銃撃された父とその息子の仇討ち法定劇をドラマティックに盛り上げ、マスコミ向けの好材料にしたかったのだ。このあたりの人物像の刻み込みはやっぱりルメットだろう▼ジョーダンはリベラル派の弁護士ヴィゴダ(リチャード・ドレイファス)を伴って自首した。ショーンは鮮やかに勝利を勝ち取る。しかしジョーダンは裁判中、警察内に蔓延する麻薬捜査官の汚職の実態を暴露してしまう。勝訴で名前の上がったショーンは、ヴィゴダの同僚弁護士、ペギー(レナ・オリン)との仲も進展し、未来は順風満帆に見えた。しかし汚職の一件で警察内の疑惑が払拭できない。ペギーらの助けを得て調査を進めるうち、父の相棒ジョーイが麻薬組織から収賄していたことが発覚した。父もまた汚職に関係しているのでは。隠蔽工作と政治の間でショーンは自分の信じる正義に自信をなくす。彼は父親がジョーダンの逮捕状を偽造していたことをつきとめる。そうであればジョーダン逮捕は無効だ。さらに奥に真相は隠されていて、ジョーダンから長期にわたって賄賂を贈られていた警官ジョーイは、ジョーダン逮捕によって収賄が発覚しそうになるや、逮捕にみせかけジョーダンを射殺しようとしていたことがわかる。裏の裏が明るみにでるごとにショーンは「白と黒」だけで割り切れない現実の泥沼に足元をすくわれる▼事件がすべて解決し、晴れて検事局長になったショーンが、若い検事補たちに訓示するラストがシドニー・ルメットの言いたかったことだろう。「白黒見えるものは語る必要がない。君らは限りなく灰色のなかで悩むだろう。そこで真の自分と対面する。それは恐ろしいことだ。わかるには生涯かかる。私にも二面性がある。法を心から信頼している。だがきっと過ちも犯す。神よ、見棄てるなと祈るばかりだ。疲れたら辞めろ。事件に飽きたら辞めろ。興味がなくなったら辞めろ。クビにしてやる。そんな危険を背負っていけるなら歓迎だ」▼それはそれとして、レナ・オリンのこれといった出番はなかったですね。彼女がゲイリー・オールドマンとやりあった「蜘蛛女」(1993)の殺し屋に比べたら、最近は運動会のお遊戯みたいな殺し屋がふえてきましたよ。男性路線一直線のルメットにしたら、女優を出しただけでもマシと思うべきなのでしょうか。夜学で勉強した貧乏な苦学生だったショーンに比べ、ペギーの家は金持ちの名家で豪邸に一人住まい。執事とメイドにかしずかれ、この日もベッドで優雅な朝食。ショーンがプロポーズし「どっちの家に住むの」とペギーがきくと「君の家で」。おいおい、けっこう調子いいな。余計なお世話だけど。

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