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特集「B級映画に愛をこめて」

2015年6月23日

特集「B級映画に愛を込めて」リンク(1984年 ホラー映画)

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監督 リチャード・フランクリン
出演 エリザベス・シュー/テレンス・スタンプ

天才の猿

タイトルロールのリンクとは年取ったオランウータンです。アメリカからロンドンの大学に留学中のジェーン(エリザベス・シュー)は、尊敬する人類学のフィリップ教授(テレンス・スタンプ)の自宅で研究の助手をすることにした。人里離れた海岸の崖の上に教授の家はあります。ピンポンと鳴らすと、出迎えたのは執事の正装をしたオランウータン、リンクだ。リンクはジェーンを邸内に案内し、言葉こそ喋らないが彼女の意思はすべて伝わっている、とわかる。教授によればリンクの知能は人間以上だ。他に凶暴な牝のチンパンジー、ブードゥと彼女の息子であるインプがいる。彼らは思いのまま部屋中を歩き、教授の指示命令に従う▼荒れた海辺の断崖にたつ古風な屋敷、ワザリング・ハイツのように吹きすさぶ風、研究室をかねたいくつもある部屋、二階に続く古めかしい階段。みるからにゴシック・ホラーの入り口ですね。その情景にアメリカ人の若い女子大生が入り込む。エリザベス・シューが22歳。若いはずだね。まだハーバードにいた頃かも。テレンス・スタンプが46歳。なかなか渋いですよ。彼は26歳でウィリアム・ワイラー監督の「コレクター」でカンヌ国際映画祭男優賞を取って、「悪魔の首飾り」「テオレマ」「プリシラ」などに主演、彼以上の役者はだれも考えられない「はまり役」を演じてきた。猿を相手に芝居するくらい、なんの難しさがあろう。ジェーンは住み込みの助手であるから、教授と若い美人の女子大生は一軒家で寝起きをともにするのだが、この映画で色気のほうはまったくお呼びではありません。エリザベス・シューは健康美にあふれ、テレンス・スタンプは人間の女より猿のほうがよっぽど可愛いという風情をいかんなく発露、監督は観客に向かいハナからこの映画に「アニマル・ホラー」以外のなにを期待しても無駄、と張り紙したような演出で映画は進みます▼アニマル・ホラーの傑作といえば「ジョーズ」「鳥」「ピラニア」「ピラニア3D」(これにもエリザベス・シューが主演)などがありますが、それらの主人公はいかにも凶暴で、人間を恐怖に突き落とした。リンクはちがいます。もちろん「鳥」のアニマル・ディレクター、レイ・バーウィックの天才的調教術はありましょうが、でもためしにここを見てほしい。ジェーンが初めて教授邸を訪れ重々しい木の扉が開き、リンクが迎える。その目のつぶらなこと。なにか言いたそうに人間の顔をみつめる思慮深い瞳。茶色のまん丸な目です。フィリップ教授が「猿と人間の遺伝子は1%しかちがわない。その1%が文化と教育と戦争を人間にもたらした」というシーンがありますが、リンクをみるとその「1%」しかちがわない差を受け入れられる。これがもっと憎らしい顔をしているやつならイヤだったけどね▼このリンクが造反する。理由のひとつは教授が出入りの動物仲介人に、リンクは45歳、もう年だから安楽死させると言ったこと。もうひとつは教授がインプのパズルの成績が悪いといって(大学生のジェーンと競争させるのですよ、赤ん坊のチンパンジーが負けるの、無理ないでしょ)教授に叱られたインプを、かわいそうに思ったジェーンが抱っこしてやさしくして、リンクをのけものにしたこと。リンクはジーッとあの丸いおだやかな双方の目でジェーンの仕草を逐一みているのだが、このあたりからリンクの目に得体のしれない色がただよう。ジェーンはフロに入ろうとバスタブに湯を張り衣服を脱ぐ。ふと気づくとリンクが裸の自分を見ている。向こうへ行きなさいといっても容易に去らない。ジェーンは気味悪くなり、張った湯の栓を抜き、着衣して浴室を出る▼屋敷を出たジェーンは野犬に襲われる。救ったのはリンクだった。長い腕で野犬をつかみ地面に叩きつけたのだ。即死である。怪力である。ブウドゥーを引き取りにきた仲介業者の車を持ち上げさんざんいやがらせをしたうえ、ブウドゥーは殺されているのがわかった。電話線がちぎられ連絡は途絶えた。教授はどこかへ出て行ったまま帰宅しない。ジェーンがエンジンのかかりにくい車の後押しをしてくれとリンクに頼むと、リンクは車を崖の端まで押していき、すんでのところでジェーンは飛び降りたが車は墜落した。リンクが犯意のもとに行動しているのは明らかだった▼ジェーンは教授の死体も仲介人の死体も発見する、ジェーンに会いにきたボーイフレンドらは三人のうち二人が殺されひとりは監禁。ジェーンは孤立無援で連続殺人犯と対決する羽目になる、という異様かつ冷酷になるべきシーンを、ゴールドスミスのリズミカルな、といってこの映画には決して不似合いではないスコアが救う。リチャード・フランクリン監督は2007年59歳で亡くなりましたが、「サイコ2」を撮るなどヒッチコックの後継者と呼ぶファンもいたサスペンスの名手でした。本作は監督が37歳のときの映画。えげつない殺戮シーンはなく、仕草がユーモラスでさえあるオランウータンが人を恐怖に陥れる、しかも監督はオランウータンに優位性をもたせ「極悪人」には仕立てていません。センスのいいスマートな映画だと思います。

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