女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「B級映画に愛をこめて」

2015年6月29日

特集「B級映画に愛を込めて」ヘルズキッチン(1998年 犯罪映画)

Pocket
LINEで送る

監督 トニー・シンシリピイ
出演 ロザンヌ・アークエット/アンジェリーナ・ジョリー/ウィリアム・フォーサイス

ロザンナ・アークエット

ヘルズキッチンとは今でこそ家賃が高騰しているが、かつて「アメリカ大陸で最も危険な地域」と呼ばれたニューヨーク、マンハッタン区の一画。物語は1990年代はじめ、3人のハイティーン、ヘイデン、パティ、ジョニーが強盗に押し入った店で、ヘイデンが射殺される。パティは店主を撃ち殺す。ジョニーは捕まる。パティは車の中で待っていたヘイデンの姉グロリア(アンジェリーナ・ジョリー)と、ジョニーの弟スティービーと3人で逃走する。ジョニーは5年の実刑で刑務所へ。刑期をおえジョニーが出所した。5年のあいだにジョニーの母親は死亡、スティービーは行方不明、パティはジャンキーのドラッグ・ディーラーになり、グロリアとは恋人のままだ。ジョニーがグロリアに会いに行った。グロリアは心の支えだった弟が殺されたのはジョニーのせいであると思っているから、憎しみを込めてツバを吐きかけた▼ジョニーはプロボクサーをめざし、トレーナーの元チャンピオン、ルー(ウィリアム・フォーサイス)のジム(兼厩舎)でトレーニングを始める。グロリアの母リズ(ロザンヌ・アークエット)は歌手であるが、ステージの事故で脚を怪我し、ドラッグに走った。コカインを吸うと痛みが消え脚をひきずる悩みも忘れた。しかしドラッグに溺れる母親にグロリアは愛想をつかし、よりつこうともしなくなった。リズは息子を殺され、娘に見放された母親で、今はかろうじてクラブに立って歌っている。アンジーがビッグネームになったため主役は彼女かと思うが、この映画では脇である。主役はこっち、リズを演じたロザンヌだろう。なんの希望もない、すさんだ中年の歌手にして母親、生きていても楽しいことも愉快なできごとも、家族も友達もいない。なにかを考えるのがいやだからコカインを吸い、もうろうとして男とセックスにのめりこむ。それさえも嫌悪なしにできない。ロザンヌが冒頭クラブのステージで気だるげに歌う。しゃがれた低い声だ。このシーンは逸品である。リズの削げた頬、定まらぬ、それでいて挑むような目、ドラッグに蝕まれ不健康に痩せた体、ツヤを失った皮膚。彼女の全身に、怒るでもなく嘆くでもなく、退廃の匂いだけがただよう。その歌がこれだ「わたしの罪を背負いキリストは死んだ/わたしのためにもう一度死んでよ/どうしても自分が許せない/吸血鬼は光を、わたしは思い出を避ける/あなたの愛が欲しいの/わたしを照らさないで/光を閉ざして」▼リズは娘の男手あるパティを誘惑し関係する。パティがまた、節度も何もない男であるうえ、ヘイデンを殺したのは自分であると告白した。ジョニーに対する憎しみが根拠のない誤解であったことがわかったグロリアは、懸命にチャンピオンベルトに挑戦するジョニーに惹かれていく。リズとパティの関係は続くが、ふたりの意識は正常とはいえず、ジョニーを殺しに来たパティは精神病院に収監される。ジョニーのトレーナーであるルーは、ストリートあがりの選手の陥る罠をこう教える。「お前(ジョニー)は神からコブシとスピードを授かったが、人間としてはクズだ。あんな挑発でカッとするようじゃ先は見えている。やつらは必死で王座に駆け上り、有名になり調子に乗って金をつかいまくり、残るのは脳のダメージだけだ。破滅するまでプロモーターに試合をさせられる。30歳で廃人になりあとは殴られるだけだ」。ルーは注意深く悪徳プロモーターからジョニーを守り、ついにチャンピオンの座につかせる。グロリアはジョニーの子を妊娠しジョニーは喜んで家庭を持とうと言う。精神病院のパティは悲惨であるが、ジョニーやリズが見舞いに訪れる。リズはドラッグをやめ地道な仕事で社会人としてやり直そうとし、グロリアに会いに行く▼ジョニーはボクサーとして成功するし、みな立ち直りのきざしがあるしハッピーエンドで終わります。だからさわやかであるはずですが、どうにもすらすら運びすぎて、弟を失った姉のさびしさなんて台詞に頼った説明的なものだから、ひとつも実感がない。ジョニーはできすぎのうえ、5年のムショ入りという貧乏くじは引いたものの、あとはトントン拍子。ヤマもなければ谷もない平坦なモノクロの人物群のなかで、ロザンヌだけが色彩を放っている。何本か彼女の映画は「Lの世界」など「シネマ365日」でも書きましたが、実験的なドキュメンタリー「デブラ・ウィンガーを探して」の監督です。俳優一家の長女ですが、アーティストであった母親が父親の世話と育児に才能を捧げたことが、自身の死を早めたとあっさり結論した人。どんな挫折があってもやりたいことがあるならそれをやるのが人生、というメッセージでした。本作の破滅にひた走る母親では、自分自身さえ憎む悪魔的な自虐女を怪演しています。

Pocket
LINEで送る