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特集「神も仏もない映画」

2015年7月3日

特集「神も仏もない映画」母なる証明(2009年 家族映画)

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監督 ボン・ジュノ
出演 キム・へジャ/ウォンビン

重い沈黙

「傑作だけど二度とみたくない映画」ってあるよね。ずっしり気が重くなって「もうかなわん」って感じ。もう一度みたいかといわれたら「…」(ト手をふる)。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」がそうだったわ。ストーリーが進むにつれ、ビョークがかわいそうで、見ているのがつらくなる。あれじゃカトリーヌ・ドヌーブが「わたしがついていてやらなければ」という気になるの、わかるのよね。ミヒャエル・ハネケの「ファニー・ゲーム」も後味の悪さではかなりの映画だけど、でもこれはつらくなるというより腹がたってくる映画でしょ。本作だけど「もういっぺん見るか」ときかれたら「ノー」。ボン・ジュノ監督の「スノーピアサー」や「殺人の追憶」とか、そうそう「グエルム 漢江の怪物」もだけど、暴力的で理屈が通じない世界を好んで取り上げている。本作もけたたましくないだけで、やはりその系列です▼真相を知ってからの母親(キム・へジャ)がいいですね。枯野の中をさまよう、なにも求めない、あてのない顔。このときの母親とは、こういう顔にしかなれないだろうという説得力充分です。知的障害のある一人息子トジュン(ウォンビン)を母親は溺愛している。漢方薬を売り、無許可で針治療などしながら母親は息子を育ててきた。息子をバカにするやつはだれであろうと許さない母親は「バカといわれたらやり返せ」と息子にも教えてきた。だから息子は「バカ」の一言を聞くと条件反射でキレルのだ。この息子がある夜酒を飲んで帰宅途中、女子高生アジョンが歩いているのを見た。彼はナンパするつもりで後をつける。翌日アジョンが他殺死体で発見された。屋上から半身を乗り出した奇妙な形で。刑事たちは「ふつう死体を隠したいはずなのに、見つけてくれといわんばかり」だと疑問をつのらせ、聞き込みの結果トジュンが容疑者として逮捕される▼息子の無実を証明するため母親は八方手を尽くす。息子の悪友をまず疑ったがこれはシロ。むしろ彼から殺されたアジョンの身辺を洗えという情報を得る。アジョンは貧しい家の娘で認知症の祖母をかかえ援助交際で食べていた。アジョンは寝た男をケータイの写真データに残していた。アジョンの祖母からケータイを入手した母親は、アジョンの客の一人、廃品回収業の男にたどりつく▼男の目撃証言はこうだ。若い男(すなわち息子)がアジョンのあとをつけていた、男は嫌いかときいた息子にアジョンはなんでそんなことを聞くのとたずね、思わず「バカ」といって大きな石を投げ息子を追い払う。バカの一言で逆上のスイッチが入った息子は石を拾って投げ返すと、アジョンの後頭部にまともにあたって倒れた。なんと、殺したのは息子だったのか。母親は驚愕するが我に返り、唯一の目撃者である男を撲殺すると小屋に火を放ち証拠を隠滅する。えっえ~そこまでやるか。過失なのだからちゃんと警察で話せよ、なんて母親に通じる理屈ではないのだ。知的障害のある息子だもの、誘導尋問にひっかかって自白同様に追い込まれ殺人罪で死刑になりかねない…しかし一瞬の躊躇もなくナタをふりおろす判断と実行、ものすごいとしかいいようがない▼まだこの映画続きがあります。顔見知りの刑事がある日母親を訪ねてきた。「真犯人が逮捕された、息子さんは釈放だ」というではないか。捕まったのは息子とよく似た年の少年で、アジョンの血のついたシャツを着ていた、少年はセックスのときについたというが、母親はアジョンが鼻血を出しやすい体質だったことを知っている、それよりなにより、彼は殺していないのだ。冤罪である。でも母親は沈黙。そんな母親に「お母さん、これ落ちていたよ」と息子は鍼箱を持ってくる。箱は回収業者の小屋で落としたものである。息子はそれを焼け跡で拾ってきたのだ。息子のニコニコした顔からは彼がなにを知っているのか、憶測しているのか、なにもうかがい知れない。自治会か商店街の団体バス旅行にいっしょ出かけた母親は、はしゃぐ参加者のかげでそっと鍼を取り出すと、太ももにある「イヤな記憶や心のしこりを忘れ去るツボ」に鍼を打つ。しばらくシートに体を埋めていた母親は、やがてはしゃぐ仲間たちの輪に加わる。ああ、重苦しい。

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