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特集「ザ・クラシックス」

2015年7月22日

特集「ザ・クラシックス2」ラテンアメリカ 光と影の詩(1992年 社会派映画)

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監督 フェルナンド・E・ソラナス
出演 ウォルター・キロス/ドミニク・サンダ

44歳、美しいドミニク

140分に及ぶ壮大なラテンアメリカの叙事詩です。スペインに征服されてから500年、南アメリカ大陸の諸国はつぎつぎ独立を果たしたものの、文化的アイデンティティーを破壊した征服者の蛮行は、形を変えて拡大されています。フェルナンド・E・ソラナス監督は美しい南アメリカの自然と文化を叙情的な映像にしながら、文字通りラテンアメリカの「光と影」を主人公の少年マルティン(ウォルター・キロス)の旅路とともにたどります。内部に暗い告発を秘めているいっぽうで、この映画にどこか、とぼけたようなおおらかさがあるのは南米大陸という大自然の慰撫でしょうか▼物語の発端はアルゼンチン、世界の最果ての町フエゴ島ウスワイアだ。マルティンは国立模範学校に通う。刑務所を居抜きで校舎に流用した学校は、破れた屋根から雪が吹き込み、天気予報が「今日の島の傾斜は32度」などと予報する島だ。その傾斜に見合う振動(軽い地震のようなもの)が生じると、学校の壁にかかっている歴代大統領の肖像画が、廊下に滑り落ち大反響とともにガラスが砕け散る。国中が凍えている。ラナ大統領のスローガンは「アルゼンチンの国民よ、未来を信じよう、釣りをしましょう、釣りが国を救います。必ず浮上します、国民よ、しっかり泳げ」泳げという意味は、首都ブエノスアイレスは洪水で水没しているのだ。天気予報がふるっている「南部は首まで浸かる、もっと南部は鼻まで浸かる」。ラナとはカエルの意味だ。彼は記者会見に大きなカエルの水かきを足につけて現れ「国民よ、しっかり泳げ」と檄を飛ばすのだ▼民衆に支持されない指導者らによってアルゼンチンは国力を低下させ、国外に資産を流出させた。都市周辺の極貧地帯は1991年には全国民の52%になった。経済の困難は国民のモラルの低下につながり、都市は犯罪の温床となった。本作の「洪水のブエノスアイレス」はもちろん監督が意図する荒廃と崩壊の寓話だ。環境破壊は激化し、ラテンアメリカは北側諸国の核のゴミ捨て場となったと、監督はマルティンの目を通してスクリーンに映し出す。本作のあとにもソラリス監督はドキュメンタリー映画「略奪の記憶」を発表、愚かなリーダーたちによって石油や天然ガスなど、豊富な資源や有望な企業、頭脳が流出し、すべてを失おうとしている祖国の危機をみつめ続けている▼母(ドミニク・サンダ)が再婚した相手とソリのあわないマルティンは、ある日継父と大げんかをして家出、実の父に会うためウスワイアから自転車で南米1万2000キロ縦断の旅に出る。砂浜に打ち上げられた難破船の竜骨、パタゴニアの荒野、劣悪な条件下にある現代の奴隷労働を思わせるブラジルの鉱山、インカ帝国の文化遺産と征服者の略奪、マルティンはラテンアメリカの自然と文化、歴史と政治の興亡を目の当たりにしながら北上する。彼はこう言って出発したのだ。「自分とはだれだ。自分はどこへいこうとしているのか。旅は発見、いきがいを見つけること。今ひとり僕は旅立つ」本作はこういう、身の毛もよだつ俗っぽいセリフを聞かされる青春映画であり、ありふれた自分探しであるのに、それからこの映画を救っているのは、監督の凝結した詩的リアリズムだろう▼ドミニク・サンダはこのとき44歳だった。「暗殺の森」や「悲しみの青春」のときよりきれいだった。低所得の貧乏世帯で息子は学校の問題児、家では父親と喧嘩ばかりしている。夫も息子を仇のように扱い家の中に平安はない。疲れた母親であり主婦の陰り。20代のときより痩せ、周囲に溶け込むことを拒否するような傲慢な美貌をますます鋭くさせている。彼女はホントのところ夫も息子もひとつも怖くないのである。青筋たてて怒鳴りつける夫や、いちいち目を血走らせて反抗するイキがった息子の幼稚さに、こらえきれず笑ってしまう。こういう「突き放した女」をやらせたらドミニクは天下一品です。ドミニクに関連した意外な映画に「ビヨンド」があります。女性ホラー・ゾンビ映画のカルト的作品。主演がカトリオーナ・マッコール。覚えていません?「ベルサイユのばら」映画化で主役オスカルを射止めた新人女優。映画「ベルばら」がものの見事にコケ、マッコールはその後沈黙、彼女の名前を再び見たのはルチオ・フルチ監督のゾンビ映画でした。フルチに捕まっちゃって以後三作連続で出演。うち「ビヨンド」が自分では一番好きだって言っていた。当年(2014)彼女は60歳。彼女はフランスのテレビで活躍しています。そうそう、ドミニクとの関係ね。オスカルに自分との相関性をみた女優たちが映画化に続々立候補したのよ、ドミニク・サンダとかジェーン・バーキンもね。役はなぜかズブの素人だったマッコールに行った。結果は大失敗。でもマッコールは一部の映画オタクには忘れられない新局面を開きました。人生万事塞翁が馬ね。

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