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特集「ザ・クラシックス」

2015年7月25日

特集「ザ・クラシックス2」ファニー・ヒル(2010年 文芸映画)

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監督 メイ=チオ・ディマオ
出演 ゾーイ・シンプソン

メルヘンのファニー

「ファニー・ヒル」は、5、6回映画化されている古典です。原作はジョン・クレランド。クレランドがロンドンの、債務者監獄に収監中の1748年に獄中執筆し、発行のたびに、行き過ぎた性愛描写という理由で検閲と戦いを繰り返してきたことで有名です。クレランドは「猥褻罪」で逮捕、本は発禁となったものの、世間では大ヒットし、海賊版がいろんなバージョンで出回りました。原作にはなかった男同士のゲイの行為を、ファニーが壁の隙間からのぞき見るなどもそのひとつ。読者のみならず作家の想像力をかきたてるものが「ファニー・ヒル」にはあって、アメリカの女性作家エリカ・ジョング(「飛ぶのが怖い」)は、「ファニー」(1980)でファニーの視点から語る一人称小説を書き、原作者クレランドは登場人物のひとりとして「こんなふうに書き直すなんてひどい」とかの文句を作中言わせています▼「ファニー・ヒル」の根強い人気は、もちろんきわどい性愛描写もあったでしょうが、ファニーという女性そのもののキャラに力があった。彼女は娼婦となって身を沈める、という設定なのですが、ファニーはそう暗い女性ではないのです。原作者のクレランドは、というより当時の男は、家の外でセックスする女が娼婦であり、家の中でするのが妻だと考えていた。18世紀といえば女性の職業とは尼僧か娼婦か家庭教師(今とは全然ちがう住み込みの女中兼務)だった。結婚すれば妻・母・家庭いう安全地帯を手に入れる代わりに、一生無賃の家庭内労働と子孫を残す生殖の役割にしばられた。女が欲望と自我を解放する世界はまだどこにもなかった、と言っていいすぎなら非常に困難だった。シェイクスピアの時代だって女に芝居はさせられないから、芝居好きのヒロインは男だと偽って舞台にあがっていたじゃないですか。日本の歌舞伎にしても、女を舞台にあげると汚れるから男が女役を演じたのがそもそも女形の始まりです▼ファニーは女である限り、どう転んでも才能の使い道なんて限られているのだから、娼婦なら娼婦でいいじゃないか、そんな肝のすわったところがあるように思います。でないとファニーの性交渉が男とでも女とでもさばさばと、全然こだわりのない説明がつきにくい。苦海に沈んだ女、すくなくともそれをくよくよ泣いている女とは思いがたい明るさにあふれている。それに比べファニーという鏡に映しだされた男は平凡です。作者は全然男に興味がなかったのでしょう。女が好きだけど、女と現実にセックスするより、自分が思い描く理想的ないい女を小説で創りだしたのではないか。だってファニーは彼女を愛した男性が全財産を残してくれて、一夜明ければ大富豪になるのですよ。それくらい原作者はファニーに肩入れしている。ファニーという女を可愛いと思わないで、だれがたとえ小説中でも、ビタ一文残すつもりになるでしょう▼確かにファニーほど男に都合のいい女はいないにちがいない。セックスを提供し、それだけでなくやってくる男を機知のある会話でもてなし元気づけ、家では妻に辟易している男でも、ファニーのところに来れば自信をとりもどす。頭が良くて男にいばらない、願ったり、叶ったり、天使のような娼婦である。そら遺産を残したくもなるかも。吐き気のする露骨な性描写があふれる現代のポルノと比較して、本作のベッドシーンなんか可愛いものです。正直いって映画としては退屈ですがそう嫌味がありません。女の苦労話でもなければ自慢話でもない。体を売るしか収入の道がなかった時代、それをひきうけてなんの誇張もなく自然に生きて、幸福になった、金持ちになった、恵まれた人生を得た。つまりこのファニー・ヒルは一種のメルヘンなのです。それもきわめて大胆な組み換えです。メルヘンには鬼退治もあれば継子いじめもある、醜い姿に変えられさんざん虐められる貧しい少女なんかどこの国のメルヘンにもでてきて、最後に王子が現れ救出される、その女の子が継子でも醜くもなく、たまたま娼婦であってもなに不思議がある…そう思いません?▼ひとつ疑問があるのです。ファニーははたして官能の世界にめざめたのか。映画ではここがどうも、クレランドが男性だから無理ないと思いますが、もひとつよくわかっていないように見受けられる。演じる女優は若くてきれいな体なのですが、エロティシズムとなるとちょっと幼さが勝っていて…あのね、ラブシーンのうまい女優さんと下手な女優さんっているのですよ。アンジーなんかうまいですね。決してワンパターンになっていない。ヘタといえば…まあやめておきます。

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