女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ザ・クラシックス」

2015年7月27日

特集「ザ・クラシックス2」17歳のカルテ(2000年 社会派映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ジェームズ・マンゴールド
出演 ウィノナ・ライダー/アンジェリーナ・ジョリー/ウーピー・ゴールドバーグ/ヴァネッサ・レッドグレーヴ

鎮まる魂

ウーピー・ゴールドバーグ扮する看護師ヴァレリーが、入院してきたスザンナ(ウィノナ・ライダー)が「こんな病院に入れられて」と口いっぱい毒を吐くのに「ここは五つ星クラスのホテル並みよ」とたしなめるシーンがある。まったくそうだわね。スザンナの病名はボーダーライン・ディスオーダー(境界人格障害)と呼ばれるもの。アスピリン一瓶とウォッカを一本飲んで自殺を図り、両親の要望で精神病院に入院することになった娘だ。本人には自殺の自覚もなく、入院といってもすぐでられるくらいの軽い気持ちでやってきた。そこで見たのは先天的な嘘つき、父親に子犬を捨てられ発作的に自分の湿疹にガソリンをかけ、顔と体に大やけどを負った子、鶏肉と下剤しか口にしない子、拒食症で体重が33キロしかない子、みなハイティーンの、少女の面影さえある女の子たちがこのクレイムア病院に来ている。リサ(アンジェリーナ・ジョリー)は脱走の常習犯で、二週間行方不明だったがスザンナが入院した日に捕まって帰ってきた。少女たちのリーダー格であるリサにスザンナは最初おそれをなして近づけなかった。リサはスザンナに興味を示しなにかと話しかけ、就寝前に服用せねばならぬ睡眠薬を〈飲んだふり〉してごまかす方法を教える。主たる出演者がでそろったところでストーリーは中核部に進んでいく▼しかしなあ、スザンナというヒロインがまったくアマちゃんで、彼女の〈青春の苦悩〉に説得力がないのですよ。世間体を気にする両親が俗物に思えて仕方ないらしいが、高校は進学校なのに大学には行かない、卒業式では居眠り、作家になるというが本一冊読んでいるふうもなく、どころか父親の友達の大学教授と不倫、おまけに自殺未遂とくれば、親が世間の目を気にするのは無理ないだろ。それにこの病院、環境はいい、庭は広々、独立した芸術室があって絵画、彫刻、ギターも弾ければ歌もOK 。テレビはいつでも見られる。入浴のときは発作的に自殺されると厄介だからバスのそばに監視がつく。栄養のある食事もたっぷり、8年もこの病院にいるリサの手引で〈真夜中のパーティ〉はできるし=ワルガキどもが大人の目を盗んでわくわくしている気持ちがよくわかる=なのにスザンナはヴァレリー看護師が規律に厳しいからと逆恨みし「黒人の低学歴でたかが看護師にしかなれなかった」と暴言を吐くのだ。ヴァレリーはスザンナにいわせるだけいわせ「あなたはなに?」と静かに聞き返す。スザンナは答えられない。ヴァレリーといい主任精神科医のウィック博士(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)といい、忍耐と寛容と深い学識と、専門のスキルをもってスザンナに対応する。スザンナの場合ホントに病気かよ。こんなやつ往復ビンタ張りとばして放り出すのが、いちばんいいのだと思った人、いない?▼ウィノナ・ライダーも悪くないですが、なんといってもこれはアンジーだな。反抗・欺瞞・裏切り・不服従。ありとあらゆる違反行為を犯すことで、ぼろぼろに傷ついた感受性をリサは隠し通す。「見捨てられた子」を演じるときの、アンジーの感情移入はしばしば常軌を逸した鋭さを放ちます。本作の前年「ジア/裸のスーパーモデル」によって、アンジーは女優開眼に至っています。スザンナのフレンドが面会にきて部屋にこもったふたりのために、看護師の部屋チェックをジャマしてリサは時間を作ってやる。看護師に引率されて久しぶりに院外にでた患者たちは「雪の日にアイスクリーム食べにいくのかよ」と憎まれ口を叩きながらも楽しそうだ。スザンナはパーラーで不倫相手の教授夫人にでくわし「あなた精神病院にいるの? 一生入院していてね」と吐き捨てるように言われる。小耳にはさんだリサがゆらりと夫人に近づく。夫人はリサの目つきにドキッ。「病人を相手にすると怖いことになるよ」とリサはささやき夫人を追い払う。狂気をはらんだ目、という表現をアンジーはいつ体得したのか。これだけでゆうに女優の武器となる力だろう▼リサはスザンナをさそって再び脱走し、フロリダをめざすが先に退院したデイジー(チキンと下剤しか口にしない子)のアパートをたずね、一晩だけという約束で泊めてもらう。その夜デイジーと父親の近親相姦を見ぬいたリサの、容赦ない暴き立てでデイジーは自殺してしまう。なさけないやつ、と冷たく死者に烙印を押すリサについていけず、スザンヌは病院に戻る。リサのいないことで気がラクになったスザンナは、治療の一環としてすすめられた告白を日記に綴る。リサは目に見えない圧迫感をスザンナに発していた。ある日リサが見つかって病院に連れ戻された。スザンナが退院することを知ったリサは〈真夜中のパーティ室〉にみんなを集めスザンナの日記を読み上げた。そこにはいわく「リサは瞳の光を失った」「彼女のうそは芝居だ」など、スザンナが友達と呼んできた病院の仲間たちの批判が書いてある。リサは脱走してスザンナと別れる時「金はお前に全部やったから、わたしは体を売って食いつないでいた。わたしのせいでデイジーが自殺したと言うけど、崖っぷちに立って背中を押されたがっているやつの背中を押してやっただけだ。それなのにわたしの背中を押してくれるやつが一人もいない」と泣く。スザンナは「アンタはもう死んでいるからよ。この病院でしか生きていけない。だから脱走しても戻ってくるのよ。死んでいるのだから背中を押す必要などない」だって。スザンナって奴、つくづく天然だな。お前どれだけリサに助けられてきたンだよ。助けられたというのは間違いか。スザンナとリサには性格の練れ方に雲泥の差がある。リサの世間や病院への不信でかたまっているが、心の底では自分を受け入れ自分を批判しない人を求めている、ベッドに拘束され両腕、両脚を動かせないリサの手の爪にスザンナがマニキュアを塗ってやる。リサの心が鎮まる。自分を預けることができる、それを感じとると猛り狂っていた獣でも鎮まる。スザンナがタクシーに乗り、病院の玄関を去ろうとしているとき、リサは起きられない半身をのばして、見送る。

Pocket
LINEで送る