女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年8月2日

特集 LGBTー映画にみるゲイ133
トム・アット・ザ・ファーム(2013年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 グザヴィエ・ドラン
出演 グザヴィエ・ドラン/ピエール=イブ/カルディナル/リズ・ロワ/エブリーヌ・ブロシュ

君の代わりを探すこと

トム(グザヴィエ・ドラン)が、ナプキンに青いサインペンで、死んだ恋人ギョームの弔辞を書いている。恋人が死んで哀しい、交通事故で突然死だった、トムはとても悲しんでいる、そして「自分にできることは君の代わりを探すことだ」だって。ぶつぶつの紙目が際立つ極小シーンから場面は広大な空間に一転、地平線まで続くファームの真ん中を一直線に貫く農道をまっしぐらに走る車一台を空撮する。そこに「風のささやき」がアカペラで入る。跳ねるようなポップの感覚が天下一品のグザヴィエだ。グザヴィエのいいところはこの年齢でなければ出せない高品質の軽さを満開させているところだ、深刻ぶらない、難しがらない、重くもならない、軽くなるのがヘッチャラでまたそれが大好き。恋人の死に涙を流しながら「君の代わりをさがすこと」なんて、(こいつゥ)と思わない?▼インタビューなんかで見ているとそうでもないけど、いったんスクリーンのフレームに入るとふんぷんと発散させる彼のフェロモン。なにかというとクローズアップしたがるのは性癖みたいなものね。一種のフェチよ。いちばん多いアップはもちろん自分の顔です。自分の顔や姿が好きでたまらない。彼は小柄で貧弱な体格だけど、自分で自分の体をうっとり舐める猫みたいなエロチシズムがあるわ。登場人物でいえばギョームの兄フランシスとトムの交感が艶かしい。フランシスは暴力男で、最初の夜いきなりトムのベッドに押しいり、ギョームがゲイだったことを母親に隠すよう芝居をしろ、サラは恋人だったことにしてある、そのつもりで話せ、サラは愛煙家でパスタが好きだと情報を与える。翌朝フランシスが上半身タンクトップで朝食の席につくと母親(リズ・ロワ)は厳しい口調でたしなめ、息子に横ビンタを食らわす。フランシスは逆らいもしない。母親に絶対服従である。ストーリーが進むにつれフランシスは自分がひとつも母親に愛されていなかった、母親は弟ばかり可愛がっていた、そういう屈折した感情にのたうっていることがわかる▼グザヴィエの映画はこの4作目にしてなお、母親抜きで成立していない。女は愛さないが母親だけは別、そういう地下水脈みたいなものが彼の映画にはあり、「わたしはロランス」にしてもロランスの男性時代の女性の恋人は完全に母親代わりであった。粗野な田舎者丸出しのフランシスとトムの接近は、直情的なゲイのシーンはないものの、グザヴィエの暗喩が行き届き、むせるような男の体臭と汗を感じさせて官能的である。だいいち恋人の兄だと名乗る男が乱暴に寝所に侵入しクソ力で抑えこみ、明日からああしろ、こうしろとエラソーに指示する。それなのに翌日いきなりトイレで顔をあわせたフランシスに「なんだよ、驚かせるな」とトムは親し気にタメ口をきく。ハナからトムはフランシスに嫌悪を感じていないのである。どころか「ギョームと同じ匂い、同じ声」スリスリと体を寄せるのだ。できるのは時間の問題である▼フランシスは腕力と筋肉で対話する男、つまり殴るか撫でるか、抱くかであろう。トムをぶん殴って怪我させるとこめやかに包帯を巻いてやり、昨日まで「さっさと出て行け」と言っていたのに「ここに残れ、48頭の牛の世話をひとりでするのはたいへんだ。俺は30歳で独身だ。母がいるからどこにもいけない。母はまだ5年は元気だろう、施設に入るまではここにいる」自分になんの関係もないフランシスの身の上話に、トムは妙に説得されせっせと牛の世話をする。すっかりフランシスに植民地化されちゃったのね。フランシスのどこがいいのだろうと考えることははたして意味があるのだろうか。そう思うしかない男のひとりがフランシスだ。トムは離れられない。広告代理店で企画の仕事をしているらしいけど、仕事はどうなったのよ。退職届けをメールしたふうもないし。あれよ、あれよという間にふたりの距離は接近する。部屋にひとりで寝ていたトムのとなりにフランシスのベッドが運ばれ、ベッドの間に挟まっていたサイドテーブルが除かれ、いつのまにか2台のベッドは密着した。タンゴを踊るシーンでは、性的エクスタシーが拡散する▼トムはサラをギョームの恋人という役割でよびよせる。母親を喜ばせたいというのだから心はこの家の擬似息子である。母親はサラがきてくれたことがうれしく、息子の思い出などを聞きたがる。フランシスはサラにも脅しの対話しかできない。サラはトムに「あいつ、わたしに襲いかかったのよ。あなたも首にアザがあるじゃない。今から逃げましょう」「農場にはぼくが必要だ、牛の世話はたいへんなのだ。ぼくはここに残るよ。どうせぼくなんか無価値な人間さ。ぼくの金でレーザーつき搾乳器を買うのだ。3週間前まではぼくらは赤の他人だった。いまはすべてが生々しく本物なのだ。牛の出産、犬の吠え声、ワラの上の血…」「ねえ、落ち着いてトム」尋常なサラからみると、トムの相貌は不気味に様変わりして完全にイッテしまっている。手がつけられません。いうことをきかないトムを残してサラは最終バスで帰ることにする。バス停まで送っていくとフランシス。バス停ではバスが来るまでどこかに行けと、トムはフランシスに追い払われ(彼は車のなかでサラとよろしくやる)近くのバーに入る。ここの店主はグザヴィエの父親だ。そこで聞いた9年前の事件とは…店の30週年で常連客が盛り上がり騒いでいた、フランシスと弟が華麗なステップで踊った、弟が同年代の男と踊ったあと、カウンターにきた、相手の男も来た、男がフランシスに「あんたの弟に微妙な話がでている」というと、フランシスはとびかかり、男の口に両手を入れ、耳から喉まで裂いた▼この話を聞いたトムは農場にとんで帰り、荷物をまとめて去ることにする。このときのトムのあわてぶりがグザヴィエ独特の軽さだ。やっと正気にもどったトムは尻に帆をあげて退散する。今までの「生き生きした本物」の情交は何だったのか滑稽なほど、グザヴィエは容赦なくトムをうろたえさせる。もちろんフランシスはおいかけてくる。トムがフランシスにつかまるのか逃げ切るのかわからないけど、ここでエンドだ。トムの妄想は終わったのね。サラがいちばんマトモだったわ。やっぱり女は現実に強いのよ。フランシスのドヤ顔とタンクトップの上半身にトチ狂ったりしません。トムは早々と「ギョームの代わり」を見つけることね。

Pocket
LINEで送る